シロバナネコノメ Chrysosplenium album  Maxim.
  山地・渓流の植物 ユキノシタ科 ネコノメソウ属
Fig.1 (兵庫県丹波市・渓流畔 2010.3/27)
Fig.2 (兵庫県丹波市・渓流畔 2010.3/27)
本州(兵庫県以西)、四国、九州の山地〜低山の谷間の半日陰〜日陰の湿地や渓流畔に生育する多年草。
走出枝はよく発達して長く這い、暗紫色を帯び、白軟毛が多い。
葉は扇状円形で5〜10個の鈍歯牙がある。
花茎は高さ10〜20cm。
萼裂片は白色で、斜開し、先端はやや鋭頭、雄蕊8個で、萼とほぼ同長またはやや長い。
葯は赤色〜暗紅紫色、後に黒紫色。花柱は長さ1.5〜2mmで直立する。
刮ハは斜開し、くちばしはほぼ同長で、萼から突き出す。
種子は卵形で、長さ0.6〜0.7mm、十数個の隆条に長さ0.2mmの乳頭状突起が密に並ぶ。

シロバナネコノメに酷似するものにハナネコノメ(var.stamineum)がある。
シロバナネコノメよりも小型で軟毛も少なく、萼裂片の先端は鈍頭で、雄蕊は萼よりも超出。葉の鈍歯牙は3〜7個。
近畿地方以東の本州に分布。兵庫県では両種が分布し、中間的な個体も多いという。
紀伊半島にはキイハナネコノメ(var.nachiense)が分布する。
萼裂片は短く、先端は円頭、雄蕊は萼よりもわずかに短い。
東海地方にはキバナハナネコノメ(var.flavum)が分布する。萼裂片は黄色で、葯は黄色〜橙色。

■分布:本州(兵庫県以西)、四国、九州
■生育環境:山地から低山の渓流沿いや谷間の半日陰〜日陰の湿地。
■花期:4〜5月


Fig.3,4 花序(上)と花被(下)。(兵庫県丹波市・林道脇の小湿地 2008.4/3)
  ネコノメソウ属の中でも花らしい花をつける種のうちのひとつ。花茎は頂部で2岐(稀に3岐)し、その後2出集散花序となる。
  花弁はなく、萼裂片が4個つき、白色で、斜開し、先端はやや鋭頭。萼裂片の外側や苞葉には毛が生える。
  雄蕊は萼裂片と同長、またはやや長い。
  よく似たハナネコノメは萼裂片の先端が鈍頭で、雄蕊は萼から超出する。葯が全て開いていない花で、葯が萼片から超出していればハナネコノメ。
  兵庫県では両種とも分布し、南部にはハナネコノメが、中北部にはシロバナネコノメが生育するが、中間的な個体も多く、なかなか悩ましい。

Fig.5 つぼみの状態。(兵庫県丹波市・林道脇 2009.3/10)
  萼裂片の外側にはごくまばらに軟毛が生え、上部は淡褐色を帯びる。
  開花直前に、先ずとがった2個の柱頭が萼裂片の間から現れる。

Fig.6 開花初期。(兵庫県丹波市・林道脇 2009.3/10)
  開花は2出集散花序の中央の花からはじまる。画像中に示した数字は開花する順番。
  開花すると同時に雄蕊の葯が開き始めることが多い。左の開花した花は最初の葯が開いている。

Fig.7 8個の雄蕊。(兵庫県丹波市・渓流畔 2009.3/10)
  8個の雄蕊のうち4個は萼裂片中央の内側につく。残りの4個は萼裂片両脇の内側につく。

Fig.8 葯の開く順序。(兵庫県丹波市・林道脇 2009.3/10)
  最初に萼裂片中央の内側につく4個の葯が開き、その後、残り4個の萼裂片両脇の内側につくものが開く。
  画像にはその様子がよく現れている。最初の2個は向かい合った葯が開くことが多いが、そうでない個体もある。

Fig.9 葯が開ききった個体。(兵庫県丹波市・林床 2008.4/3)
  葯が開ききって花粉を放出しきると、葯は縮んで灰色となる。葯が白いものは表面に花粉が多数ついているため。
  その日開花した花は夕方にはほぼ全ての葯を開ききっており、萼裂片も平開気味になる。

Fig.10 葯が橙黄色の個体。(兵庫県篠山市・渓流畔 2010.4/8)
  地域により変異があるようで、この場所のものは葯が橙黄色であり、開いた葯内の花粉も黄色をしている。

Fig.11 花茎。(兵庫県丹波市・林道脇の小湿地 2008.4/3)
  花茎には軟毛が生え、暗赤紫色を帯びることが多い。

Fig.12 走出枝から伸びた茎。(兵庫県丹波市・林道脇の小湿地 2008.4/3)
  茎には軟毛が目立ち、花茎と同様に暗赤紫色を帯びることが多い。また、葉柄にも軟毛が生える。

Fig.13 茎葉の様子。(兵庫県丹波市・渓流畔 2009.3/10)
  葉は対生してつき、明瞭な葉柄があり、扇状。5〜10個の丸い鋸歯があり、鋸歯の先端は少し切れ込む。
  ふつう軟毛が生えるが、渓流畔の水際ものは少なく、道端などやや乾いて日射が強い場所のものほど毛が多い傾向が見られる。
  したがって、毛の多少によってハナネコノメと区別することはできない。

Fig.14 果実形成期。(兵庫県丹波市・渓流畔 2009.5/5)
  2個の花柱は長く針状に伸びて外側に斜上し、外側のものは少し外反気味に開く。

Fig.15 種子。(兵庫県姫路市・渓流畔 2014.5/8)
  種子は卵形で、長さ0.6〜0.7mm、乳頭状突起の並ぶ隆条がある。

Fig.16 種子の拡大。(兵庫県姫路市・渓流畔 2014.5/8)
  乳頭状突起は長さ0.2mmで、密に並んでいる。

Fig.17 沈水状態で生育するシロバナネコノメ。(岡山県真庭市・砂防ダム内 2007.2/11)
  あまり元気そうには見えない。沈水状態に対してはニッコウネコノメほどの耐性はないのかもしれない。

生育環境と生態
Fig.18 日陰の林道脇に生育するシロバナネコノメ。(兵庫県丹波市・林道脇の小湿地 2008.4/3)
林道脇の溝の部分が小湿地となり走出枝によって広がったシロバナネコノメが覆っていた。
非常に暗い場所で生育条件が良くないのか花茎をあげているものは少数だった。
他にはミヤマカタバミやクラマゴケが見られるぐらいだった。

Fig.19 渓流畔で群生するシロバナネコノメ。(兵庫県丹波市・渓流畔 2008.4/3)
先のFig.13 と同じ日に撮影しているが、こちらはやや標高が低いためか、葯が赤色を保っているものが見られなかった。
比較的日当たりのよい河原で、他にはオオバタネツケバナの群落がよく発達していた。

Fig.20 ボタンネコノメソウと混生するシロバナネコノメ。(岡山県真庭市・渓流畔 2007.2/11)
渓流の砂質の水際で生育していた。シロバナネコノメには早くも花芽ができている。

最終更新日:17th.May.2014

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