タチドコロ Dioscorea gracillima  Miq.
  里山・林縁の植物 ヤマノイモ科 ヤマノイモ属
Fig.1 (兵庫県朝来市・雑木林の林縁 2011.5/25)
低山〜山地、里山の林縁や林床に生育する多年草。
地下には肥厚した根茎がある。茎ははじめ直立し、伸びるにしたがって上部はつる状になり、無毛。
葉は互生(稀に対生)し、3角状卵形または楕円形で基部は心形、先はするどくとがり、長さ5〜10cm、幅3〜7cm、縁は細かい波状縁となり、
両面無毛、葉質は薄く、やや硬い。葉柄は長く、基部に小突起はない。
花は穂状花序につき、雌雄異株。雄花序は直立し、雌花序は下垂する。花被片は黄色、やや橙色を帯びるものがあり、平開する。
雄花は柄がなく、完全雄蕊は3個、退化雄蕊は3個ある。刮ハは扁円形で、幅18〜20mm。種子は径約5mmで全周に翼がある。

【メモ】 本種は古生層などの古い基岩上で土壌のあまり撹乱のなかった場所に生育する傾向があるらしい。
     兵庫県下でタチドコロが出現する場所には、春植物や局所的に分布する草本が見られることが多い。

ヤマノイモD. japonica)はふつう葉が対生し、茎も葉柄も緑色、葉腋に珠芽をつくる。
ナガイモD. batatas)は中国原産の栽培種で、ふつう葉が対生し、茎も葉柄も紫褐色の条があり、葉腋に珠芽をつくる。
ニガカシュウD. japonica)は葉が互生し、円心形。葉腋に珠芽をつくる。葉柄の両端付近には翼があり、葉柄基部に突起はない。
オニドコロD. japonica)は葉が互生し、円心形。珠芽をつくらない。葉柄には翼がなく、葉柄基部にも突起はない。
ヒメドコロD. tenuipea)は葉が互生し、3角状披針形で基部は心形。珠芽をつくらない。葉柄には翼がなく、葉柄基部には突起がある。
近縁種 : ヤマノイモ、ナガイモ、ニガカシュウ、オニドコロ、ヒメドコロ

■分布:本州、四国、九州 ・中国
■生育環境:低山〜山地、里山の林縁や林床など。
■花期:6〜7月

Fig.2 生育初期。(兵庫県香美町・雑木林の林床 2011.5/26)
  茎ははじめ直立し、伸びるにしたがって上部はつる状になり、この頃の茎下方の葉は3〜6個が輪生状につく。

Fig.3 葉身。(兵庫県朝来市・林縁 2011.6/19)
  葉は互生し、3角状卵形または楕円形で基部は心形、先はするどくとがり、長さ5〜10cm、幅3〜7cm、両面無毛、薄くやや硬い。
  葉縁は細かな波状縁となり、鋸歯があるように見える。葉脈は掌状に広がり、その間に細い網状脈がある。

Fig.4 茎と葉柄。(兵庫県朝来市・林道脇 2011.6/19)
  茎は細くてやや硬く、S巻きで、他の植物や器物に巻きついて這い上がり、多少とも紫褐色を帯びる。
  葉柄は細長くて硬く、葉柄基部(黄矢印部分)はふくらんで曲がる。
  画像のものは雄株で、雄花序には多数の花後の雄花がやや密についている。

Fig.4 雄花序。(兵庫県神戸市・林道脇 2011.5/21)
  タチドコロは雌雄異株。画像は雄株の葉腋についた雄花序で、直立し、分枝した穂状花序に雄花をやや密につける。

Fig.5 雄花序の拡大。(兵庫県神戸市・林道脇 2011.5/21)
  花はそれぞれ3個の内花被片と外花被片とからなり、内花被片は外花被片よりわずかに長く、黄色または橙色を帯び、平開する。
  雄蕊は外花被片の基部につき葯を持つ完全雄蕊3個と、内花被片の基部につく葯の退化した退化雄蕊(仮雄蕊)3個とがある。
  完全雄蕊の花糸は湾曲するが、退化雄蕊の花糸は直立する。
  花の中央には退化した雌蕊(仮雌蕊)があるが、直立する退化雄蕊の花糸よりも短く目立たない。

Fig.6 雌花序。(兵庫県朝来市・林縁 2011.6/19)
  雌花序は雄花序同様、雌株の葉腋につく。直立する雄花序に対して、雌花序は下垂し、花はまばらにつく。
  花は雄花同様平開するが、発達した子房が花被の下部にある。
  雄花序は基部近くからよく分枝するが、雌花序はほとんど分枝しない。

Fig.7 雌花序の拡大。(兵庫県朝来市・林縁 2011.6/19)
  子房下位で、花被の下には、花後に果実となる、翼を持った子房が目立つ。
  雄蕊は全て短い退化雄蕊となって葯を持たず、3岐する柱頭が平開する。

Fig.8 未熟な果実。(兵庫県朝来市・林縁 2011.6/19)
  花後、雌花の子房は上向きとなって成熟してゆく。
  刮ハは扁円形で、幅18〜20mm、子房の3室は翼状に薄く突出して、その中に種子を形成する。

Fig.9 種子。(兵庫県加西市・溜池土堤 2011.7/22)
  種子は薄く突出した1室内に2個入っており、径約5mmで全周に翼がある。

Fig.10 幼個体。(兵庫県朝来市・林縁 2011.6/19)
  幼個体の葉は楕円形で、葉縁は成長した個体の葉と同様、細かい波状縁となるが、中央脈以外は網状脈となる。
  画像には楕円形の葉が2枚見えるが、茎頂には葉柄が残存しているように見え、もう1枚その先に葉身がついて、3個が輪生していたと思われる。

Fig.11 若い個体。(兵庫県三田市・林縁 2011.7/3)
  茎を伸ばさない若い個体は、数個の葉を輪生する。

Fig.12 ダイミョウセセリの食痕。(兵庫県神戸市・林道脇 2011.5/21)
  ヤマノイモ科ヤマノイモ属の草本はセセリチョウ科のダイミョウセセリの食草となっている。
  ダイミョウセセリの幼虫は画像のように太い掌状の葉脈を除いて、縁が細かいギザギザの食痕が残る。
  このような食痕が見られるものは、耳状に出た葉身下部が折り曲げられて、ダイミョウセセリの幼虫が巣を作って潜んでいることが多い。

生育環境と生態
Fig.13 溜池土堤に生育するタチドコロ。(兵庫県加西市・溜池土堤 2011.7/22)
タチドコロは薄暗い林床から日当たりよい草地まで出現し、明るい場所に生育するものは開花結実が多い。
ここでは草刈りされる溜池土堤の背丈の低いネザサ群落中に多数の個体が生育していた。
ここではタカトウダイ、キキョウ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ワラビなどの草原性植物のほか、ヨモギ、ナワシロイチゴ、アキノタムラソウ、
メドハギ、ネコハギ、ナツフジ、オトギリソウ、マルバハギなどが生育していた。


最終更新日:25th.Jul.2011

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