私は植物を本格的に調べはじめてまだ3年しか経過していません。
なぜ植物に関心を持ち調べ始めたかというと、私は中学後半〜大学生の折に名古屋市の東山地区に在住していたことがあり、
その当時、昆虫採集を通して近郊の自然に親しんでいました。
特にハンノキの水辺湿地林が広がり夕刻になるとミドリシジミが乱舞し、一面に絨毯のように広がるトウカイコモウセンゴケが生育する湿地に感動し、
暇さえあれば通っていたものでした。
しかし、愛知万博の仕事で再び名古屋に赴任した時には当時の面影はなく、湿地にはハンノキ群落もなく住宅が隣接して干上がっており、
ギフチョウが沢山見られハルリンドウが開花する丘陵の小道も住宅街に変貌していました。
湿地や農業用水として利用することの無くなった溜池は、経済面からその利用価値は低く、売却されて埋め立てられ開発される傾向が強く、
現在在住している西宮市内の湿地や溜池に、どのような植物が生育しているのか早急に調べねばならないという思いを強く抱き、また最低でも近畿圏での
湿生植物の生育環境をもっとよく把握しておく必要性を強く感じました。

大都市近郊の中小都市では現在も開発が進み、古くからの豊かな自然環境が減少しつつあります。
西宮市もその例に漏れず、丘陵地は宅地で埋め尽くされ、広大な面積を複数のゴルフ場が占有し、
さらに北部の丘陵・低山域が現在も開発の真っ只中にあります。
しかし、それでもなお良好な里山環境や、浮葉植物群落のある溜池などが市内に数多く残されており、
兵庫県や環境省のレッドデータ・ブックに記載されている貴重な種も多数生育しています。
近年、人為的に維持されてきた里山や水田、溜池などの2次的自然環境が注目されつつあります。
高度成長期とバブル期を経て、これまでになかった「都市」あるいは「無機的環境」からの視点を獲得した私たちは、
次世代に向けた新たな価値観を形成すべく、これまであまり目を向けることのなかった、都市近郊の里山や自然環境に目を向け始めました。
そこで出会ったのは、驚くほど多様な動植物の生のステージです。
ここでは、特に環境改変の影響を受けやすいとされる水辺環境に生育する植物を中心にスポットを当て、
その種が市内の局所的な環境でどのように生育しているのかに重点を置きながら紹介していきます。
また、紹介する種が他種とどのような関係にあるのかを考察していくようなサイトを目指したいと考えています。

このサイトのベースとなる湿生・水生植物図鑑は未完成な部分が目立ちますが、できるだけweb上での情報が少ないものを優先して
順次作成していく予定です。
また、各種を紹介するページでは、できるだけ種の各ステージ −出芽・成長期・開花期・結実期・種子・殖芽− の画像を盛り込み、
開花期以外でも同定の参考となるようなものを目指しています。

当サイトによって少しでも西宮の多様性に富んだ素晴らしい水辺環境を知って頂くと同時に、そこに自生する多様な水生・湿生植物が
私達の生活の利便追求のあおりで、かなり危機的な状況にあることがご理解頂ければ幸いです。
なお、このサイトは現在のところ植物を限定して扱っていますが、将来的には水辺に生きる生物全体を対象としたサイトとする予定です。
今回、植物をクローズ・アップしているのは植物や藻類が水辺環境の第一次生産者となるからです。

このサイトを製作するにあたってはmasaさん、湘南さん、兵庫県立・人と自然の博物館の鈴木氏をはじめ、多くの方から激励の言葉を頂きました。
一通りのサイトとするまで随分と時間がかかってしまいましたが、なんとか公開まで辿り着くことができました。
サイト開設にあたって、感謝の意を表したいと思います。どうもありがとうございました。
by マツモムシ(2009年2月)

2016年追記   -種子、生育途上、生育環境の画像に関して-
2009年にサイトを開設し、はや7年を経過しましたが更新は遅々として進まず、掲載種はようやく1180種を超えた程度です。
我ながら更新速度の遅さに呆れますが、できるだけ全種の生育各ステージを掲載したいという思いがあり、最終的に種の各ステージが植物群落とどのような関係性を持っている可能性があるのかのヒントとなるような素材となるようなサイトを目指しています。種子や幼植物、生育初期の画像などはそのための有用な情報と考えて掲載しています。
このような細かい情報の蓄積が、植物の生態史解明とともに、周辺環境との関わりを解明してくれると考えています。
ヒトがふつうに子育ての様々な時期に関心を持つように、RDB指定された植物達もそのような丁寧な関心と関わりを持ち、その心構えを次世代に伝えねば、RDB種は簡単に消滅してしまうことでしょう。今後も生育環境の項目を充実させ、稀少種の生育環境を具体的に報告し、人為的保全に資する情報を掲載していきたいと考えています。
連携・関連・リンクさせていただいている各サイト様にも、生育環境についての情報を自生地特定できない範囲で掲載して頂けたらと、心から願っております。
種の保全を考える場合、最終的には生育環境丸ごとの保全しか有り得ないという結論に、往々にして行き着くことになるからです。
なにか目立つ物や、美しい花に気を引かれる時代は終わりました。私達はそれらの目立つ物や美しいもの達が、どのように育ち姿を現すかを学ぶべき時にあると思います。
by マツモムシ(2016年12月)