イトモ Potamogeton pusillus  L. ヒルムシロ科 ヒルムシロ属
水生植物 > 沈水植物  環境省準絶滅危惧(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (京都府福知山市・溜池 2013.8/19)

Fig.2 (京都府亀山市・溜池 2013.8/14)

湖沼、溜池、河川、水路などで沈水状態で生育する多年草。浮葉は生じない。
細い根茎が横走し、1節置きに水中茎を伸ばす。水中茎の断面は楕円形。
葉は無柄で、線形、全縁、長さ2〜6cm、幅0.7〜1.5mm、1〜3脈ある。葉先は鋭頭。
托葉は両縁が重なり合い、筒状にはならない。
花茎は長さ1〜2.5cm、花穂の長さ3〜5mmで、花は1まとまりにかたまってつき、4心皮。
しばしば水中で自家受粉して結実する。果実の長さ2〜2.5mm、幅約1.5mm。
秋には多数分枝した水中茎の先端に長さ1.5〜2.5cmの殖芽をつくり、水底に沈んで越冬する。

イトモとよく混同されるものに沈水形のホソバミズヒキモP. octandrus)がある。
草体は繊細で、葉幅はイトモよりも細く、慣れれば区別はつくが、判らない場合は殖芽を観察することで確実に区別できる。
殖芽は初夏〜秋に形成され、長さ1cm前後とイトモよりも小さく、軸は肥厚せずに細い。
また、イトモに良く似た種にツツイトモP. panormitanus)がある。
生育環境はイトモと同様であるが非常に稀。托葉の両側が合着して筒状となり、花穂はイトモより長く上下2段に分かれてつく。
殖芽はイトモよりも小さく、長さ1.5〜2cmで、軸が肥厚せず細く繊細に感じられる。
ツツイトモは兵庫県内では、埋立地に造成された人工的な公園内の池で発見されており、水鳥によって種子や殖芽が運ばれているようである。
イトモとヤナギモの雑種とされるものにアイノコイトモP. orientalis)があり、河川や水路、稀に溜池や湖沼に見つかる。
植物体はイトモよりやや大型で、葉は長さ4.5〜7cm、幅1.2〜2mm、3〜5脈ある。花期は7〜9月で、花穂の長さ2〜5mmで数花からなり、
花粉が不稔で結実しない。
近似種 : ホソバミズヒキモ、 ツツイトモ、アイノコイトモ

■分布:北海道、本州、四国、九州(西日本では稀) ・ 世界に広く分布
■生育環境:湖沼や溜池、河川、水路など。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:現在確認できている安定した自生地は2ヶ所のみ。兵庫県RDB B種。

Fig.3 全草の様子。(西宮市・溜池 2006.10/9)
  葉は線形で細く、草体は繊細。葉腋から盛んに分枝する。
  細い根茎から1節置きに水中茎を生じる。

Fig.4 水中茎。(自宅水槽植栽 2007.12/30)
  水中茎は節々で屈曲する。
  葉は互生し、葉柄はなく、新鮮な葉の葉腋には托葉が見られる。
  托葉は、ふつう早期に脱落する。

Fig.5 托葉の拡大。(自宅水槽植栽 2007.12/30)
  托葉は両縁が重なり、筒状に合着しない。
  稀に見られるツツイトモでは、托葉が筒状となる。

Fig.6 開花したイトモ。(自宅植栽 2006.6/2)
  花茎は水中茎とほとんど同じ太さ。
  花茎は長さ1〜2.5cm、花穂の長さ3〜5mmで、花は1まとまりにかたまってつく。
  小花には花被はなく、雄蕊4個、雌蕊4個(4つの離生心皮)からなる。
  画像では、すぐ上にある水中茎の葉腋基部の托葉内に、次の花序が形成されているのが見える。

Fig.7 果実形成期。(兵庫県三田市・溜池 2006.6/23)
  イトモは水中内で自家受粉して果実を形成する能力もある。
  種子は堅果で2mm前後と小さい。
  画像の果穂中に見える、赤味を帯びた小型の種子は不稔のもの。

Fig.8 果実(標本のもの)。(兵庫県丹波市・溜池 2009.6/18)
  背部には3稜があり、先端には残存花柱が突起となって残る。

Fig.9 殖芽を形成しはじめたイトモ。(西宮市・砂防ダム 2006.11/16)
  秋になると多数分枝した水中茎の頂芽が肥厚して殖芽を形成する。
  イトモは種子と殖芽で越冬する。

Fig.10 溜池の浅瀬に打ち寄せられた殖芽。(兵庫県三田市・溜池 2011.1/20)

Fig.11 殖芽。(西宮市・砂防ダム 2006.11/23)
  殖芽の軸は硬く肥厚する。
  よく似たツツイトモやホソバミズヒキモ沈水形の殖芽は、このように肥厚しない点で区別できる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 フトヒルムシロの株元に群落をつくるイトモ。(西宮市・砂防ダム内 2007.6/5)
自生地では、5月になると底に沈んでいた殖芽が生育をはじめ、6月には画像のように底面をイトモが覆いつくす。
市内の自生地では、いずれの場所でも浮葉植物群落の下草のような状態で見られる。

Fig.13 浅水域の軟泥中で生育するイトモ。(西宮市・溜池畔 2006.10/9)
溜池畔の軟泥が溜まった浅水域に多数のイトモが見られた。
最初は渇水した溜池でこんな感じで発見することの多いシャジクモやフラスコモ類かと思ったが、泥を落として水で洗うとイトモだった。
このことを機に、この溜池の底にイトモ群落があることを発見できた。
周囲にはイトモと同じようにヒツジグサも小さな浮葉を広げて多数生育しており、池内で生産された種子、
あるいは殖芽が漂着して発芽生育したもののようだ。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 山間の溜池に生育するイトモ。(兵庫県丹波市・溜池 2010.9/1)
丹波地方の山間にある谷池でイトモとミズユキノシタの沈水形が沈水植物群落を形成していた。
丹波地方では他の地域に比べて、イトモの生育する溜池が多いが、種組成は貧相である。

Fig.15 谷池で見られたイトモの純群落。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/2)
この溜池では他の水草は全く見られず、イトモだけが水底全面に渡って密生していた。このような例は珍しい。

Fig.16 溜池でホッスモと混生するイトモ。(兵庫県三田市・溜池 2011.9/14)
この溜池では水際から水深30cm程度まではミズユキノシタ、ハリイsp.、イボクサ、ミゾカクシ、イトイヌノヒゲが生育し、
続いて水深30〜60cm程度の泥底にイトモ、ホッスモ、ミズオオバコの生育が見られた。
さらに深い場所ではジュンサイやサイコクヒメコウホネが繁茂し、ヒシが少量混じる。

Fig.17 素掘りの水路内に生育するイトモ。(兵庫県加東市・水路 2013.11/4)
水田脇の素掘りの浅い排水路内にイトトリゲモとともに生育していた。
イトモがこのような場所で生育する例は珍しい。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. イトモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 234〜235. 北隆館
山下貴司, 1982. ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.10〜12. pls.6〜9. 平凡社
北村四郎, 2004 ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.411〜418. pls.106〜107. 保育社
角野康郎, 1994 イトモ. 『日本水草図鑑』 p.44〜45. pl.47. 文一統合出版
内山寛. 2001. ヒルムシロ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イトモ. 『六甲山地の植物誌』 214. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. イトモ. 『近畿地方植物誌』 200. 大阪自然史センター
角野康郎・高野温子 2006. ヒルムシロ科. 兵庫県産維管束植物9. 人と自然18:88〜89. 兵庫県立・人と自然の博物館
水田光雄, 1999. 神戸でツツイトモが生育. 水草研究会会報 68:21〜22
水田光雄, 2002. 兵庫県におけるツツイトモの新産地. 水草研究会会報 74:50〜51.
藤井伸二・山本和彦, 2007. 三重県におけるツツイトモ(ヒルムシロ科)の新産記録. 水草研究会会報 86:29〜32.
松岡成久, 2010. イトモ. 西宮市産植物補遺、並びに西宮市内に生育する要注目種(その2). 兵庫県植物誌研究会会報 85:6. 兵庫県植物誌研究会

最終更新日:2nd.Aug.2014

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