ホソバミズヒキモ Potamogeton octandrum  Poiret ヒルムシロ科 ヒルムシロ属
水生植物 > 浮葉植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池 2008.7/27)

Fig.2 (京都府亀山市・溜池 2013.8/14)

溜池や水路、河川などに生育する多年草で、小型の浮葉植物。
繊細な地下茎が泥中を這い、節から出芽して群生する。水中茎はよく分枝する。
沈水葉は線形、長さ3〜5cm、幅0.3〜1mm、1脈あり、鋭尖頭。
浮葉は長楕円形で明るい黄緑色、長さ1.5〜3cm、幅4〜10mm。
花茎は長さ12〜20mm、花穂は長さ9〜13mm、花は間隔をあけて2〜4段につき、4心皮。
果実は長さ約2.5mm、背稜に数個の低い突起があるものからほとんどないものまである。
初夏から秋にかけて各葉腋に長さ1cm前後の殖芽を形成し、栄養繁殖と越冬を行う。

酷似するものにコバノヒルムシロP. cristatus)があり、西日本を中心として稀産する。果実の残存花柱は長く、背稜にはトサカ状の突起が著しい。
また、沈水形のホソバミズヒキモは時にイトモP. pusillus)と混同されるが、葉はホソバミズヒキモのほうが細く繊細で、葉腋にできた殖芽は
イトモのように肥厚しない点で区別可能である。
近似種 : ヒルムシロコバノヒルムシロイトモ

■分布:日本全土、アジア、アフリカ
■生育環境:溜池、水路、河川など。
■花期:6〜9月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。

Fig.3 草体の全体の様子。(愛知県・溜池 2005.10/13)
  葉には沈水葉と浮葉の2型があり、沈水葉は線形、浮葉は長楕円形で明るい黄緑色。

Fig.4 水中の様子。(兵庫県篠山市・溜池 2011.9/14)
  水深60cm程度の場所に生育しているもの。
  水面まで達して浮葉を形成する水中茎のほか、根茎からは多くの水面に達しない水中茎を上げていた。
  沈水葉の葉身はよく似たイトモのものよりも細く長い。葉幅は見た目では水中茎の直径とほとんど変わらない。

Fig.5 初夏、浮葉を出し始めた集団。(兵庫県篠山市・溜池 2013.5/24)
  近縁のイトモではこの頃から開花しはじめている。ホソバミズヒキモは開花に先立って浮葉を用意するため、開花がイトモよりも遅い。

Fig.6 水面上に花穂を上げて開花する。(兵庫県篠山市・溜池 2012.7/28)
  草体に比べて花穂の大きなホソバミズヒキモは、花穂を水面上に保持するために浮葉を数枚出してから開花する。
  沈水葉の葉腋から花序が生じることはない。

Fig.7 水路内で開花したホソバミズヒキモ。(兵庫県篠山市・干上がった溜池底の水路 2008.7/27)
  画像は干上がった溜池底の浅い水路に生育するものだが、生体にとっては危機的な状況であるためか、通常よりも多数の開花が見られた。

Fig.8 ホソバミズヒキモ花序。(兵庫県篠山市・干上がった溜池底の水路 2008.7/27)
  花は2〜4段、やや離れてつく。4心皮で4個の雌蕊がある。
  4個の花被にみえるものは、雄蕊の葯隔が発達して外に大きく広がった葯隔付属物である。


Fig.9,10 果穂(上)と堅果(下)。(兵庫県篠山市・溜池 2009.6/21)
  果実期には葯隔付属物は一部を除いて脱落する。
  果実は堅果で、扁平な広円形。背稜の鋸歯は不明瞭で、コバノヒルムシロのようにトサカ状とはならない。

Fig.11 干上がった泥濘地に生育するもの。(兵庫県篠山市・干上がった溜池底の水路 2008.7/27)
  ホソバミズヒキモは干上がった溜池で陸生形をとることはないが、浮葉の葉身は細長くなり、葉縁は下面に外曲して、
  渇水に対して多少の適応力をみせるが、葉先から焼けはじめ表土がひび割れるまでになると枯死する。

Fig.12 殖芽を形成したホソバミズヒキモ。(愛知県・溜池 2005.10/13)
  初夏〜秋まで連続的に殖芽を形成するが、特に越冬前の秋につくられるものが多い。

Fig.13 殖芽の拡大。(兵庫県篠山市・溜池 2009.9/2)
  イトモの殖芽に似るが、ホソバミズヒキモの殖芽はイトモのもののように軸の部分は肥厚しない。

Fig.14 ヒルムシロの浮葉との比較。(兵庫県篠山市・溜池 2013.8/23)
  左はホソバミズヒキモ、右はヒルムシロ。大きさはまったく違う。

Fig.15 流水中に生育するホソバミズヒキモ。(滋賀県・河川 2014.8/31)
  流水中に生育するものは、浮葉を付けないものが見られる。

生育環境と生態
Fig.16 中栄養な溜池に生育するホソバミズヒキモ。(兵庫県篠山市・溜池 2008.7/27)
マツバイ、サワトウガラシ、イヌノヒゲsp.、ミズニラが底面を覆う中栄養な溜池でコカナダモとともに見られた。
繁殖力はコカナダモのほうがはるかに強いが、コカナダモが繁茂する溜池でも、ホソバミズヒキモがしぶとく生存している様子をよく見かける。

Fig.17 干上がった溜池底の、湧水によって生じた水路に生育するホソバミズヒキモ。(兵庫県篠山市・溜池底の水路 2008.7/27)
水深は非常に浅く、ほとんど沈水葉をつけずに浮葉を広げて多数の花序を立ち上げていた。
生育環境としてはミズハコベが好みそうな場所である。

Fig.18 干上がった溜池底の、やや水深のある水路にフトヒルムシロとともに生育するホソバミズヒキモ。(兵庫県篠山市・溜池底の水路 2008.7/27)
流水域に生育するものでは浮葉は小さく少数となり、沈水葉がよく発達する。
この水路内にはあちこちから湧水が噴出しており、ホソバミズヒキモ、フトヒルムシロのほか、沈水葉のオグラコウホネやミズハコベ、
オオカワヂシャ、ムツオレグサなどが見られる。

Fig.19 溜池の浅水域に生育するホソバミズヒキモ。(兵庫県篠山市・溜池 2011.9/14)
ホソバミズヒキモは水深30cm程度の場所でも生育しているのをよく見かける。
ここではタチモが密生する浅瀬にヒメホタルイ、ヒナザサ、ツクシクロイヌノヒゲとともに多くの個体が生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 ヒルムシロほか. 『日本水草図鑑』 32〜39. 文一統合出版
角野康郎, 2014 ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 『日本の水草』 110〜136. 文一統合出版
大滝末男, 1980 ホソバミズヒキモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 230〜231. 北隆館
山下貴司, 1982 ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.10〜12. pl.6〜9. 平凡社
北村四郎, 2004 ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.411〜418. pl.60. 保育社
内山寛. 2001. ヒルムシロ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホソバミズヒキモ. 『六甲山地の植物誌』 214. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホソバミズヒキモ. 『近畿地方植物誌』 200. 大阪自然史センター
角野康郎・高野温子 2006. ヒルムシロ科. 兵庫県産維管束植物9. 人と自然18:88-89. 兵庫県立・人と自然の博物館
丸岡道行. 2008. 東播磨のコバノヒルムシロの生育地について. 兵庫県植物誌研究会・会報 77:2〜3

最終更新日:9th.Nov.2014

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