クロモ | Hydrilla verticillata (L.f.) Royle | トチカガミ科 クロモ属 |
水生植物 > 沈水植物 |
Fig.1 (滋賀県・小河川 2008.9/8) 湖沼、溜池、河川、水路などで沈水状態で生育する多年草。雌雄同株と雌雄異株の2型がある。 葉の付き方や大きさには変異が多く、外来種のオオカナダモやコカナダモと酷似して紛らわしいことがある。 茎はよく分枝し、円柱形、各節に3〜8葉を輪生する。 葉は無柄、線形で、長さ8〜20mm、幅1〜3mm、鋸歯があり、ときに著しく反り返る。 花期、雄花は葉腋につき、開花時には植物体を離れて水面に浮く。花径は約3mm。萼片、花弁ともに3個で、著しく反り返る。 雌花も葉腋につくが、子房が花柄状に伸びて水面で開花する。径5mm程度。萼片、花弁ともに3個だが半透明で目立たない。 雄花から放出された花粉は水面を漂流し、雌花に到達する。典型的な水媒花である。 結実は稀で、果実は長く、2、3個の突起があり、内部に1〜3個の種子ができる。種子は両端がとがり、短円柱形、長さ3〜6mm、胚乳はできない。 冬期になると越冬芽を形成して植物体は枯れる。 雌雄異株のタイプでは水中茎または地中に腋性殖芽を形成し、全国的に分布する。 雌雄同株のタイプは地中の根茎または稀に水中茎に塊茎をつくり、主に西日本に分布する。 また、染色体数が2倍体(2n=16)と3倍体(2n=24)のものがあり、2倍体の雄株と雌株が混生している場合しか結実しないという。 クロモは外来種のオオカナダモとコカナダモに似る。 オオカナダモ(Egeria densa)は雄株のみが国内に帰化。葉が茎に密に3〜5輪生し、ふつう4輪生であることが多く、葉身の長さ15〜40mm、 冬期常緑で、長い柄のある白色の雄花を水面で開花する。 コカナダモ(Elodea nuttallii)の場合も雄株のみが帰化。葉はふつう3輪生し、葉身は線形で長さ5〜15mmと3種中でもっとも小さく、 葉は反り返ったりねじれたりすることが多く、葉縁には細鋸歯があるがクロモほど目立たない。。 近似種 : オオカナダモ、 コカナダモ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア。北米に帰化。 ■生育環境:湖沼や溜池、河川、水路など。 ■花期:8〜10月 ■西宮市内での分布:かつては武庫川で見られた普通種であるが、最近は確認できていない。 |
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↑Fig.2 全草の様子。(滋賀県・小河川 2008.9/8) 茎につく葉はほとんど4輪生以上。茎はよく分枝し、分枝する節からは不定根が生じ、それ以外の節からの発根は見られない。 |
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↑Fig.3 輪生葉。(兵庫県明石市・ハス池 2008.8/31) 輪生する葉は5〜7枚つくことが多い。 コカナダモとは、ほとんど3枚の葉を輪生する点で区別できる。 |
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↑Fig.4 クロモの葉身(上)と葉先の拡大(下)。(兵庫県明石市・ハス池 2008.8/31) 葉は無柄。葉縁には数個の鋸歯があり、肉眼でもよく目立つ。鋸歯は拡大すると先が小刺状になっている。 |
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↑Fig.5 水面上を浮遊するクロモの雄花。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) 雄花は雄株の葉腋の無柄苞鞘中に1個できる。雄花のつぼみは成熟すると、苞鞘から離脱して水面に浮上して開花する。 |
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↑Fig.6 雄花の拡大。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) 画像のものは日没後に採集したもので、花は閉じつつある。開花すると花被は反り返って、反転する。 萼片3個は広卵形、白色で目立ち、花弁は線形であまり目立たない。 雄蕊は3個。葯は楕円形で、最初は淡黄色だが、花粉放出後は画像のように淡紅色を帯びる。 |
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↑Fig.7 クロモの雌花。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) 雌花は雌株の葉腋に単生する。柄は無く、画像で柄のように見えるのは、苞鞘から伸びた子房である。 子房は水面上なで長く伸びて、雄花が放出した花粉を受け取る。花径は約5mm。萼片3個、花弁3個でともにへら形。 画像のものは撮影用に持ち帰る帰途に花弁が脱落してしまっている。 |
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↑Fig.8 葉腋に殖芽形成中の個体。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) クロモは秋期に殖芽を形成して越冬する。殖芽には2型あり、水中茎にできる腋性殖芽と、地下茎にできる塊茎状の殖芽がある。 |
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↑Fig.9 クロモの殖芽。(兵庫県加東市・溜池 2008.9/22) 画像のものは水中茎の葉腋から分枝してつくられた腋性殖芽。 |
生育環境と生態 |
Fig.10 クロモの生育する河川。(滋賀県・小河川 2008.9/8) クロモは繁殖力の強いオオカナダモやコカナダモに押され気味で、このように河床一面に広がる群生が見られる機会は減ってしまった。 この河川では伏流水が湧水となって流入しているようで、クロモの生育状況が良好だった。 画像中央部のやや褐色を帯びた水草はエビモで、周囲の黒く見える水草はすべてクロモであり、名称の由来がよく解る。 緑色の葉を沈水状態で広げているのはヤナギタデ。それよりも少し白味を帯び、葉が小さく細いものはイボクサの沈水形。 また、画像右に見える線形の葉はナガエミクリのもの。 |
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Fig.11 ハス池に生育するクロモ。(兵庫県明石市・ハス池 2008.8/318) 西宮市内ではクロモの生育は確認できていないが、兵庫県播磨地方のあちこちの溜池でクロモの生育を見ることができる。 画像はやや富栄養な溜池にノタヌキモやオオトリゲモと混生する様子。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大滝末男, 1980. クロモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 188〜189. 北隆館 山下貴司, 1982. トチカガミ科クロモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.5. pls.4. 平凡社 角野康郎, 1994 クロモ. 『日本水草図鑑』 pp.28. pls.30. 文一統合出版 内山寛. 2001. トチカガミ科クロモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 176〜177. 神奈川県立生命の星・地球博物館 浜島繁隆, 2001. クロモ. 浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 (編)『ため池の自然』 p.72. 信山社サイテック 北村四郎, 2004 トチカガミ科クロモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.392〜393. pls.104. 保育社 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. クロモ. 『六甲山地の植物誌』 213. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. クロモ. 『近畿地方植物誌』 197. 大阪自然史センター 角野康郎, 1981. 鴨川の水草. 水草研究会会報 3:6〜8 角野康郎・中村俊之・高野温子 2007. クロモ. 兵庫県産維管束植物9 トチカガミ科. 人と自然18:87. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:30th.Oct.2010 |