ウキヤガラ Bolboschoenus fluviatilis  (Torr.)
 subsp. yagara  (Ohwi)T.Koyama
カヤツリグサ科 ウキヤガラ属
湿生〜抽水植物  西宮市絶滅種
Fig.1 (滋賀県・池畔 2009.6/11)

Fig.2 (兵庫県三田市・溜池畔 2013.6/9)

池の浅水域の砂地や湿地、休耕田などに生育する抽水性の多年草。
匍匐根茎は長く発達し、径3〜4cmのサトイモ状の塊茎がじゅず状に連なり、1個の塊茎から1〜2個の茎を立ち上げる。
花茎は高さ70〜150cm、横断面は鋭3稜形、硬い革質となり、2〜4節ある。葉は長く、幅5〜10mm。
花序は散形、花序枝は長さ7cmに達し、先端に1〜6個の小穂をつける。苞葉は葉状、2〜4個が花序よりも長い。
開花は初夏の頃で、長い黄色の葯でよく目立つ。
小穂は狭卵形、長さ1〜2cm。鱗片は楕円形、長さ6〜7cm、表面に短毛を密生し、先端は凹頭でその間から長い芒が出る。
痩果は倒卵形、長さ3mm、横断面は3稜形、はじめ白色だが熟すと黒褐色になり、光沢がある。
刺針状花被片は6個、痩果と同長または短く、下向きにざらつき、痩果が熟しても脱落しない。柱頭はほとんどが3岐する。

同属のものに2種ある。
コウキヤガラ(B. maritimus)はふつう海岸近くの湿地に生育する。苞葉はふつう3個つき、斜開する。
痩果は両面形で刺針状花被片は痩果の1/2程度だが、熟す頃にはほとんど脱落する。
イセウキヤガラ(B. planiculmis)は汽水域や半塩性湿地に稀に生育する。苞葉の1個は花序より長く直立し、縁は平滑、小穂は1〜3個つく。
近似種 : コウキヤガラ、 イセウキヤガラ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、台湾、北アメリカ
■生育環境:湿地、溜池畔、湖沼の浅水域、休耕田など。
■果実期:7〜9月
■西宮市内での分布:過去に武庫川河口付近で記録があるが、埋め立てと開発により絶滅した。

Fig.3 全草標本。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
  有花茎は高さ70〜150cm。茎は硬く、鋭3稜形。2〜4節あって、幅5〜10mmの葉をつけ、葉身下部は葉鞘となって茎を密に包む。
  基部近くの葉身は短く、葉鞘は赤褐色を帯びる。画像のものは1個の塊茎から有花茎のほか、小さな芽(越冬芽?)を出している。

Fig.4 花序。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
  長い花序枝を持ち、先端に1〜6個の小穂をつける。2〜4個の苞葉が花序よりも長い。

Fig.5 小穂。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
  小穂は狭卵形で、長さ1〜2cm。鱗片は楕円形で、先には芒がある。

Fig.6 雌性期の花序。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
  雌性先熟。花序枝が展開して伸び始めると同時に、鱗片から3岐する白色の柱頭が現れる。

Fig.7 雌性期の花序。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
  花序枝もかなり伸びてくると雄性期に入り、鱗片から葯が現れる。葯は淡黄色で線形。

Fig.8 熟して痩果を落とす花序。(滋賀県・池畔 2008.9/8)
  ウキヤガラ属のものは痩果が熟すと刺針状花被片を脱落させるものが多いが、ウキヤガラのものは宿存する。

Fig.9 鱗片に包まれた痩果(左)と痩果(右)。(滋賀県・池畔 2008.9/8)
  痩果は3稜ある倒卵形。光沢がある黒褐色で、刺針状花被片は痩果と同長か短い。

Fig.10 花序のつかない茎。(滋賀県・池畔 2008.9/8)
  花茎とは別に、地下の塊茎からは栄養葉をつけた多節の茎を立ち上げ、痩果が熟す頃には花茎よりも高く生長する。
  葉は線形で縁はざらつき、先はほそくとがり、基部は鞘状に茎を抱く。

生育環境と生態
Fig.11 池畔の湿地に群生するウキヤガラ。(滋賀県・池畔 2008.9/8)
右手前の群生がウキヤガラ。奥はヨシの群落。水深の深い場所ではヨシが生育し、浅水域にウキヤガラが抽水状態で生育していた。

Fig.12 湖畔の後背湿地に群生するウキヤガラ。(滋賀県・湖岸の後背湿地 2009.6/11)
湖畔の水際、後背湿地の水辺湿地林やヨシ群落のギャップに群生する。湖畔のこのような場所ではウキヤガラの群生がよく見られ、この時期にはよく目立つ。
同所的にアゼナナルコ、カサスゲ、クサヨシ、イヌゴマなどが見られ、稀にオニナルコスゲが混じるが、ウキヤガラ開花時には既に果胞を落としている。
後背湿地の日の当たる場所でのウキヤガラ群落内ではサデクサ、ミズタガラシ、イヌゴマ、シロネの生育が見られ、周辺にはコウヤワラビやノウルシが見られることが多い。

Fig.13 溜池畔に群生するウキヤガラ。(兵庫県三田市・溜池畔 2013.6/9)
やや富栄養な溜池畔の水際で単独種で群生している。
溜池の水中には水生植物は見られず、ウキヤガラの周辺では陸側にヌマトラノオが生育する程度だった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ウキヤガラ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.217〜218. pl.55. 保育社
大滝末男, 1980 ウキヤガラ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 148,149. 北隆館
角野康郎, 1994 カヤツリグサ科ウキヤガラ属. 『日本水草図鑑』 p.88. pl.90. 文一統合出版
堀内洋. 2001. ウキヤガラ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 434〜435. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 ウキヤガラ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 118,119. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ウキヤガラ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 165〜167. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ウキヤガラ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ウキヤガラ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター
小山鐡夫, 2004 日本のウキヤガラ属. 植物分類・地理 31:139〜148.

最終更新日:5th.Sep.2013

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