コウキヤガラ(エゾウキヤガラ) Bolboschoenus maritimus  (L.) Palla カヤツリグサ科 ウキヤガラ属
湿生〜抽水植物  兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (西宮市・水路 2010.5/12)

海岸近くの湿地、水路、河川の河口部などの浅水域に生育するやや大型の多年草。
干拓地では水田の強害草となり、埋立地の水溜りに群生することもある。
泥中に匍匐根茎を横走し、先端に塊茎を生じる。有花茎の横断面は3稜形で、高さ40〜100cm、基部は少し肥厚する。
葉には葉鞘があり、有花茎の下部に1〜3個つき、扁平、幅2〜5mm、上方につくものは有花茎よりも長い。
花序は1〜6個の小穂をつけ、頭状となり、ときに複生して1〜2本の花序枝の先に小穂が単生する。
苞葉は1〜3個斜開し、葉身は葉状で縁はざらつき、花序より長い。
小穂は卵形、長さ8〜15mm、光沢のある赤褐色。鱗片は膜質、長さ7〜9mm、楕円形、細毛があり、凹頭、中肋の先は突出し外曲する芒となる。
痩果は長さ3.5〜4mm、広倒卵形、黄褐色で光沢があり、横断面は平凸レンズ状で中央部が少しくぼみ、縁は鋭稜。
刺針状花被片は2〜4個、脱落しやすく、長さは痩果の約1/2、下向きにざらつく。柱頭は2岐まれに3岐。

同属のものに以下の2種がある。
ウキヤガラ(B. fluviatilisssp. yagara)は池沼や湿地に生育する。苞葉は2〜4個が花序より長い。
小穂は花序枝の先に5〜8個が集まってつく。また、刺針状花被片は痩果と同長か短く、熟しても宿存する。
イセウキヤガラ(B. planiculmis)は汽水域や半塩性湿地に稀に生育する。苞葉の1個は花序より長く直立し、縁は平滑、小穂は1〜3個つく。
葉身の横断面は3稜形となる。
近似種 : ウキヤガラ、 イセウキヤガラ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、ユーラシア大陸全域
■生育環境:海岸近くの湿地、水路、河川の河口部の浅水域など。
■果実期:7〜9月
■西宮市内での分布:市内では平野部の水路内数ヶ所で局所的に残っている。

Fig.2 全草標本。(西宮市・水路 2010.5/12)
  地中に細長い横走する根茎を生じる。葉には葉鞘があり、有花茎の下部に1〜3個つく。

Fig.3 基部。(西宮市・水路 2010.5/12)
  有花茎の基部は多少とも肥厚する。有花茎基部からは不定根が生じ、根茎を伸ばす。

Fig.4 コウキヤガラの花序。(西宮市・水路 2010.5/12)
  花序有花茎の先端につき、1〜3個の花序より長い苞葉があり、苞葉は全て斜開し直立しない。

Fig.5 苞葉の拡大。(西宮市・水路 2010.5/12)
  苞葉の葉縁と裏面中央脈上には上向きの刺状突起が並び、上向きにざらつく。

Fig.6 雌花期の花序。(西宮市・水路 2010.5/12)
  花序は頭状に集まった1〜6個の小穂からなる。ときに複生して花序枝を出し、先に1個の小穂をつける。
  花は雌性先熟で、最初に鱗片の間から細い白色の柱頭が現われる。この頃の小穂はやや小さく、濃褐色に見える。

Fig.7 雄花期の花序。(西宮市・水路 2010.5/12)
  線形黄色の葯を出した雄花期の小穂。開花の後半は鱗片の間から葯が出て花粉を散らす。

Fig.8 根茎と塊茎。(西宮市・水路 2010.5/12)
  群落の水底泥中には根茎が横走し、分岐点には古い塊茎が残っている。
  前年形成された塊茎は発芽にばらつきが見られ、時期をずらしながら発芽しているとみられる。

Fig.9 塊茎。(西宮市・水路 2010.5/12)
  発芽前の塊茎。長さ7〜12mm、サトイモを小ぶりにしたような形をしている。

Fig.10 塊茎から発芽した若い株。(西宮市・水路 2010.5/12)
  若い株の基部から新しい不定根が沢山生じ、早くも根茎を伸ばしつつある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 水路内に群生するコウキヤガラ。(西宮市・水路 2010.5/12)
古い3面コンクリートの水路に軟泥が堆積してコウキヤガラが密生している。


Fig.12 抽水状態で生育するコウキヤガラ。(西宮市・水路 2010.5/12)
かつて1970年代に市内で記録されていたコウキヤガラは未だに健在だった。
幅約1.5〜2mの水路内におよそ40mにわたって群落が見られ、一部では隙間なく密生している場所もある。
コウキヤガラの他にはコカナダモ、エビモが生育し、オオカワヂシャ、タガラシ、ムシクサがわずかに見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ウキヤガラ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.217〜218. pls.55. 保育社
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ウキヤガラ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 434〜435. 神奈川県立生命の星・地球博物館
大滝末男, 1980 ウキヤガラ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 149. 北隆館
角野康郎, 1994 カヤツリグサ科ウキヤガラ属. 『日本水草図鑑』 p.88. pls.90. 文一統合出版
星野卓二・正木智美, 2003 コウキヤガラ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 116,117. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ウキヤガラ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 165〜167. 全国農村教育協会
村田源. 2004. アイバソウ. 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コウキヤガラ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. コウキヤガラ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:140.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:13th.May.2010

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