ホソバミズゼニゴケ
 (ムラサキミズゼニゴケ)
Pellia endiviifolia  (Dicks.) Dumort. ミズゼニゴケ科 ミズゼニゴケ属
湿生〜沈水植物・苔類
Fig.1 (神戸市・湧水池 2015.2/20)

Fig.2 (西宮市・湧水地 2015.3/25)

Fig.3 (兵庫県篠山市・用水路の水中 2015.3/16)

湿った崖や地上から流水中、湧水泉などに群生する苔類。雌雄異株。
草体は緑色〜紅紫色。葉状体は長さ2〜5cm、幅0.5〜1cm、2叉状に分岐し、ときに先が急に狭くなり細かく2叉分岐を繰り返すことがある。
中肋部はやや広く、境界は不明瞭。縁はやや波状に縮む。仮根は透明〜淡褐色で、中肋部の腹面に密生する。
腹鱗片は単細胞で、生長点直下だけに見られ、古くなるとつぶれて消失する。
包膜は体の背面にあり、前端に向かって開き、ポケット状。仮花披は発達する。カリプトラは倒卵形で、長く、包膜より突出する。
凾ヘ長柄につき、球形、4裂し、基底に弾糸の束がつく。弾糸は3らせん。胞子は多細胞で60μ。
造精器は体の背面に広く散生して、体に埋まる。

エゾミズゼニゴケ(P. neesiana)は主にブナ帯に見られ、葉状体内部に肥厚帯がある。
ミヤマミズゼニゴケ(Calycularia crispula)は主に古世層地域のブナ帯の湿岩上に生育し、腹鱗片は多細胞、凾ヘ不規則に数裂、弾糸は凾ノつかない。
ミズゼニゴケモドキ(Aneura maxima )は葉状体は薄く、主茎と枝の幅はほぼ同一で、細胞内に単粒の油体が数十個入っており、包膜や仮花披は発達しない。
近似種 : エゾミズゼニゴケ、 ミヤマミズゼニゴケ、 ミズゼニゴケモドキ
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■分布:日本全土 ・ 北半球。
■生育環境:湿った崖や地上から流水中、湧水泉など。
■西宮市内での分布:中部から北部にかけて普通に見られる。

Fig.4 流水中のもの。(西宮市・水路 2015.2/12)
  沈水状態で生育するものは通常緑色。葉状体は長さ2〜5cm、幅0.5〜1cm、2叉状に分岐する。
  画像のものは一部にフジウロコゴケが付着している。

Fig.5 葉状体の拡大。縁はやや波状に縮む。(西宮市・水路 2015.2/12)

Fig.6 横断面。(西宮市・水路 2015.2/12)
  中肋部はやや広く、境界は不明瞭。仮根は沈水状態のものでは透明となる。

Fig.7 腹鱗片(矢印)。(西宮市・水路 2015.2/12)
  腹鱗片は単細胞でごく小さく、生長点直下だけに見られ、古くなるとつぶれて消失する。

Fig.8 表皮細胞。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8)
  表皮細胞は大小のある6角状で75〜147μ、内部には油体らしきものは認められなかった。葉緑体は表皮細胞に偏在する。

Fig.9 胞子体は葉状体の先近くから上がる。(京都府京丹波町・湧水地 2013.3/30)
  陸生するものはときに紅紫色を帯びる。このためムラサキミズゼニゴケの別称がある。

Fig.10 凵B(京都府京丹波町・湧水地 2013.3/30)
  凾ヘ早春に上げる。剳ソは長く3〜5cmにおよび、凾ヘ球形で暗褐色〜淡褐色。熟すと4裂し、基底に弾糸の束がつく。

Fig.11 胞子。(西宮市・湧水地 2015.3/25)
  胞子は楕円形、黄緑色、長さ約70μ、表面は平滑。

Fig.12 先端が細かく2叉分岐したもの。(兵庫県篠山市・社寺境内 2014.10/24)
  晩秋〜春に見られ、無性芽であるともされる。

Fig.13 分岐の拡大。(兵庫県篠山市・社寺境内 2014.10/24)

Fig.14 急流中に生育するものは葉状体が長く伸びる。(西宮市・林縁の疎水 2015.2/12)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 湧水環境に生育するホソバミズゼニゴケ。(西宮市・湧水地 2015.2/23)
住宅街の山裾部から湧出した湧水を受ける枡壁面に生育している。
他にはギンゴケやジャゴケ、タネツケバナが見られる程度でホソバミズゼニゴケが周辺の溝などにも群生している。

Fig.16 疎水に生育するホソバミズゼニゴケ。(西宮市・林縁の疎水 2013.1/29)
渓流から水を引いた山際を流れる疎水内の壁面に点々と小群生が見られた。一部では湧水が流入している。
画像のものは水路内に出たオオバヤシャブシの根に絡むように生育している。
水路内では他にアオハイゴケ、ホソホウオウゴケ、ヒロハツボミゴケ、フジウロコゴケなどが生育している。

Fig.17 渓流畔の湧水に濡れた岩上に群生するホソバミズゼニゴケ。(西宮市・渓流畔の岩上 2015.3/25)
渓流に面した急斜面にある岩場から湧水がしみ出し、そこにホソバミズゼニゴケの大きな群落が見られ多くの凾上げていた。
岩上にはジャゴケ、アオハイゴケ、オオバチョウチンゴケが混生し、セリ、ニシノオオタネツケバナ、コチョウショウジョウバカマが生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 湧水の湧出部に生育するホソバミズゼニゴケ。(神戸市・湧水地 2015.2/20)
湧水の湧出口に沈水状態で生育している。周辺ではヤノネゴケとともにパッチ状の群落を形成している。
湧水口ではカワモズク(右)とともに生育している。

Fig.19 用水路脇に生育するホソバミズゼニゴケ。(神戸市・湧水地 2015.2/20)
段丘下部の素掘りの用水路脇に点々と小群落を形成している。ここでも湧水が滲みだしているのだろう。
畦の部分ではヤノネゴケ、ハイゴケ、トヤマシノブゴケなどの蘚類が見られた。

Fig.20 水路内に生育するホソバミズゼニゴケ。(滋賀県浅井町・水路 2011.9/28)
琵琶湖東岸部の排水路の水中の底面や壁面に着生している。
湧水の流入があり、水路内では沈水形のナガエミクリ、キクモ、クロモ、コカナダモ、ミズハコベ、ヤナギタデ、オランダガラシなどが生育し、
ホソバミズゼニゴケはこれら沈水植物の被植の少ない場所にヤナギゴケとともに見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ミズゼニゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.353〜356. pl.47. Fig.182. 保育社

最終更新日:10th.May.2015

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