ミズゼニゴケモドキ | Aneura maxima (Schiffn.) Steph. | スジゴケ科 ミドリゼニゴケ属 |
湿生〜沈水植物・苔類 兵庫県RDB Aランク種 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) |
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Fig.2 (西宮市・湿地 2015.3/12) 湿地や渓流畔、湧水地などに生育する苔類。雌雄異株。 葉状体はミドリゼニゴケやホソバミズゼニゴケに似るが透明感のある緑色〜淡緑色で、やわらかく、中肋は不明瞭。 翼部は明瞭で、単細胞層が5細胞以上並び、波打つ。油体は単粒で1細胞内に数十個入っている。 造卵器は側枝上に不規則に並び、裸出し、包膜や仮花披は発達しない。 カリプトラ*は発達して長い。凾ヘ長楕円形で黒色〜黒褐色、熟すと2裂する。 弾糸は凾フ基盤に残らず、長短があり、らせんは1らせんと2重らせんが混じる。 胞子は球形、径22〜24μ、黄褐色で中心部は緑色を帯び、胞子膜表面には微細は小突起が並ぶ。 *カリプトラ 苔の胞子体の保護器官で、造卵器の腹部の発達したもの。花披と胞子体の間にある。一般に棍棒状の袋である。 ミドリゼニゴケ(A. pinguis)は白緑色多肉質でもろく、油体は微粒の集合をなし、仮根は葉状体腹面に密生する。 エゾミズゼニゴケ(Pellia neesiana)は主にブナ帯に見られ、葉状体内部に肥厚帯がある。 ホソバミズゼニゴケ(Pellia endiviifolia)は境界の不明瞭な暗緑色の中肋があり、胞子体は葉状体の先近くにつき、包膜や仮花披が発達する。 ミヤマミズゼニゴケ(Calycularia crispula)は主に古世層地域のブナ帯の湿岩上に生育し、腹鱗片は多細胞、凾ヘ不規則に数裂、弾糸は凾ノつかない。 近似種 : ミドリゼニゴケ、 エゾミズゼニゴケ、 ホソバミズゼニゴケ、 ミヤマミズゼニゴケ ■分布:本州、四国、九州 ・ ユーロッパを除く北半球。 ■生育環境:湿地や渓流畔、湧水地など。 ■西宮市内での分布:北部の山間の湿地にわずかながら生育している。 |
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↑Fig.3 全体。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 葉状体は薄く、緑色〜淡緑色で透明感がある。 |
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↑Fig.4 葉状体の拡大。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 中肋はほとんど認められず、縁にある翼部は明瞭で、波打つ。 |
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↑Fig.5 仮根。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 仮根はまばらで短く透明だったが、これは抽水状態で生育していたもので、陸生すると異なるかもしれない。 |
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↑Fig.6 腹鱗片。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 腹鱗片は生長点直下にのみ見られ、単細胞で透明。 |
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↑Fig.7 葉状体の横断面。1目盛=10μ。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 翼部の細胞は1層で、幅は5細胞以上ある。葉緑体は表皮細胞に偏って存在する。 |
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↑Fig.8 葉身細胞。1目盛=1.6μ。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 葉身細胞は5〜6角形で、長さ40〜90μと大きさに大小がある。 |
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↑Fig.9 油体。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8) 丸く光っているものが油体。油体は集合せずに単粒で、大きさ2〜4μ、1細胞内に十数個〜数十個ある。 |
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↑Fig.10 胞子体。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2015.3/8) 画像のものは未成熟な胞子体。胞子体は葉状体の先近くにはつかず、中部より下の側面につき、包膜や花披は発達しない。 |
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↑Fig.11 凾上げたもの。(西宮市・湿地 2015.3/12) 包膜や仮花披は発達しないが、カリプトラは長大で8mmあった。剳ソは長く、凾ヘ長楕円形、黒色〜黒褐色。 この後、乾くと凾ヘ2裂し、弾糸とともに胞子を放出した。 |
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↑Fig.12 弾糸と胞子。(西宮市・湿地 2015.3/12) 弾糸は長短があり、長さ35〜100μ、1らせんと2重らせんのものとが見られた。 |
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↑Fig.13 胞子。(西宮市・湿地 2015.3/12) 胞子は球形、22〜24μ、表面は黄褐色、中心は緑色に見え、胞子膜表面には微細な小突起が並ぶ。 |
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↑Fig.14 沈水〜抽水状態で生育するもの。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) ミズゼニゴケモドキはしばしば水没して生育する。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.15 湿地に生育するミズゼニゴケモドキ。(西宮市・湿地 2015.3/12) 谷筋の小規模地すべり地由来と思われる緩やかな斜面の小規模な湿地にミズゼニゴケモドキが点在していた。 湿地は別荘地?として一度造成されたような跡があるが、地下水位が高いためかその後放棄されたようだ。 湿地の多くの部分はミヤマシラスゲの群落が占めており、樹木が覆う場所はトヤマシノブゴケのマットが発達し、オオミズゴケの侵入は見られない。 被植の少ない部分ではサトヤマハリスゲ、タチスゲ、アブラガヤ、モウセンゴケ、アリノトウグサ、コケオトギリ、サワオトギリ、アカバナなどが生育しており、 これら草本の根際周辺にオオベニハイゴケ、オオハリガネゴケ、トサホラゴケモドキ、フジウロコゴケ、ナミガタスジゴケなどとともに生育している。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.16 湿地化した休耕田に生育するミズゼニゴケモドキ。(兵庫県篠山市・湿地 2015.2/27) 経年した湛水状態の休耕田に生育している。この休耕田は山裾からの湧水の滲出があり、2次的自然度の高い湿地となっている。 ミズゼニゴケモドキは優占種であるチゴザサの被植の少ない部分にオオミズゴケ、ケヒツジゴケ、オオベニハイゴケ、アカミノハリガネゴケ、ツボゴケと混生している。 湿地の大部分はオオミズゴケが生育し、ゴウソ、ヒメゴウソ、タチスゲ、アゼスゲ、シカクイ、アブラガヤ、コブナグサ、トダシバ、ショウジョウバカマ、 アギナシ、キツネノボタン、ノミノフスマ、セリ、タチカモメヅル、サワギキョウ、サワオグルマ、ハイニガナ、キセルアザミなどが生育している。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 岩槻善之助, 1972. スジゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.356〜359. pl.47. Fig.183. 保育社 最終更新日:10th.May.2015 |