クログワイ Eleocharis kuroguwai  Ohwi カヤツリグサ科 ハリイ属
抽水植物
Fig.1 (西宮市・湿田内水路 2007.10/14)

水田、特に水の枯れない湿田や流れの緩い用水路、溜池などで抽水状態で生育する多年草。
茎は叢生し、泥中に根茎を伸ばして密に群生することが多い。
葉はなく、茎の基部は葉身のない赤褐色の葉鞘に包まれる。茎は柔らかくて中空で、横の隔壁がある。
茎の太さは基部から上部までほぼ一定しており、ややねじれる。
小穂基部にはくびれはなく、花茎からそのまま小穂へと続き、長さ2〜4cm、ややまばらに鱗片をつける。
鱗片は狭卵形、長さ6〜8mm、鈍頭。痩果は倒卵形、長さ2mm、平滑。柱基は小さく、明瞭な盤状付属体がある。柱頭は2岐。
夏のおわりから晩秋にかけて根茎の先端に塊茎をつくり、やがて地上部は枯れて塊茎で越冬する。
水田の強害草であるが、圃場整備が進んだ乾田では見られない。中栄養な溜池のものは大型となり、塊茎も大きくなる。

よく似た種にイヌクログワイ(シログワイ)(E. dulcis)がある。
クログワイより大型で、隣片は密につき切形に近い円頭。痩果表面には縦に並んだ微細な格子模様があり、盤状付属体は不明瞭。柱頭は3岐。
近似種 : イヌクログワイ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島南部
■生育環境:湿田、用水路、溜池。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中部〜北部にかけての湿田内や周辺の水路、溜池などに比較的普通。

Fig.2 開花期の小穂。(滋賀県・水田 2008.9/8)
  左が雌花期、右が雄花期で、雌性先熟。有花茎は開花しながら伸びていく。

Fig.3 クログワイの小穂(果実期)。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  花茎と小穂の間にはくびれはなく、花茎の太さのまま連続的に小穂へとつながる。
  小穂の鱗片は長卵形で鈍頭、中肋は隆起せず不明瞭。

Fig.4 熟した痩果。(兵庫県三田市・休耕田 2007.10/7)
  長さ約2mmで倒卵形で、表面は平滑。柱基には盤状の付属体がある。
  刺針状花被片は5〜6本で、痩果の1.8〜2倍長。下向きの小刺をまばらにつける。
  画像のものでは欠損しているが、雌蕊柱頭は2岐する。

Fig.5 茎の縦断面。(西宮市・湿田内水路 2007.10/14)
  中空の茎内部を膜質の横の隔壁が仕切る。
  茎の内壁面を縦に走る肋は、維管束の集合組織。

Fig.6 根茎と基部。(西宮市・湿田内水路 2007.10/14)
  茎は叢生し、長く柔らかい匍匐根茎を出し、晩夏〜秋にかけて径1cm程度の塊茎をつくる。
  基部の鞘は赤褐色で、葉身はない。

Fig.7 伸展しはじめたクログワイ。(兵庫県篠山市・湿田内水路 2010.7/18)
  初夏〜夏に塊茎から出芽し、最初は細い茎を放射状に伸ばす。
  若い時期のミズニラにやや似るが掘り上げると、元となった塊茎がついてくるのでクログワイと解る。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 水田内でオモダカ、タカサブロウとともに群落をつくるクログワイ。(西宮市・水田 2007.9/6)
クログワイは農薬に対する耐性も高く、湿田気味の水田では依然として強害草として扱われる。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 湛水状態の休耕田を埋め尽くしたクログワイ。(三田市・休耕田 2007.10/7)
ほとんどクログワイの純群落といってもよい状態で、オモダカやアゼトウガラシ、クサネム、タイヌビエなどがわずかに見られた。

Fig.10 溜池の一画を占有するクログワイ。(愛知県・溜池 2005.10/13)
かなり大きな溜池の一画で群生が見られた。
他の箇所ではヒメホタルイやカンガレイ、ヒルムシロなどがそれぞれ優勢な場所があった。

Fig.11 中栄養な溜池に抽水状態で生育するクログワイ。(兵庫県篠山市・溜池 2011.9/14)
中栄養な溜池の水深30〜50cmの場所にクログワイが抽水状態で群落を形成していた。
クログワイが生育する周辺ではヒツジグサ、ジュンサイが浮葉植物群落をつくり、水底にはタチモが生育していた。
溜池のクログワイ群落のない場所ではヒシがかたまって群生する場所、タチモとホッスモが混生して沈水植物群落を形成する場所があり、
より浅い場所ではカンガレイ群落やオオハリイ、イヌタヌキモが見られた。
このような溜池に生育するクログワイは水田のものよりも発生時期が早く、草体は大きくなり、地下に形成される塊茎も大きくなる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. クログワイ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 160〜161. 北隆館
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ハリイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.171〜173. pls.154〜155. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.225〜231. pls.57. 保育社
角野康郎, 1994. カヤツリグサ科ハリイ属. 『日本水草図鑑』 89〜95. 文一統合出版
星野卓二・正木智美, 2003 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 166〜191. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. クログワイ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. クログワイ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
植木邦和, 1982. 環境変動に対する雑草の反応 -水生雑草を中心として-. 水草研究会会報 9:6〜8.
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. クログワイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:169.
       兵庫県立・人と自然の博物館.

最終更新日:13th.Nov.2011

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