イヌクログワイ(シログワイ) Eleocharis dulcis  (Burm.f.) Trin. ex Hensch. カヤツリグサ科 ハリイ属
抽水植物  兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)

溜池、水路、水田などで抽水状態で生育する多年草。
匍匐根茎はやわらかく長く伸び、先に塊茎をつくる。有花茎の基部は葉身のない赤褐色の葉鞘に包まれる。
有花茎は円柱形、太く、高さ50〜100cm、幅4〜6mm、内部は多数の隔壁で仕切られている。
小穂基部にはくびれはなく、茎からそのまま小穂へと続く。
小穂は円柱形、長さ2〜5cm、淡緑色。鱗片は広倒卵形、長さ5〜6mm、円頭、薄膜質で淡緑色。
痩果は倒卵形、長さ2mm、表面に微細な格子模様が縦に並ぶ。柱基は小さく、盤状付属体は不明瞭。
刺針状花披片は6〜8本、痩果より長く、まばらに下向きの剛毛がつく。柱頭は3岐。
冬に塊茎を形成するが少数であり、植物体の地上部が完全に枯れることはない。染色体数2n=ca.196。

クログワイ(E. kuroguwai)は鱗片がややまばらにつき、狭卵形で長さ6〜8mm、痩果表面は平滑、盤状付属体は明瞭で、柱頭は2岐。
トクサイ(E. ochrostachys)は有花茎内部に隔壁はなく、小穂の長さ1〜2.5cm、痩果には縦条が多い。南西諸島。
ミスミイ(E. acutangula)は有花茎が3稜形で内部に隔壁はない。稀。
近似種 : クログワイ、 トクサイ、 ミスミイ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 中国、東南アジア、インド
■生育環境:溜池、水路、水田。
■花期:7〜11月
■西宮市内での分布:市内では生育していない。兵庫県南部で稀に見られる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
  有花茎は円柱形、太く、高さ50〜100cm。

Fig.3 基部の葉鞘は長く、赤褐色。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)

Fig.4 有花茎の縦断面。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
  有花茎は幅4〜6mm、内部には横の隔壁がある。

Fig.5 有花茎の維管束組織。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)

Fig.6 熟した小穂。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
  小穂は円柱形、長さ2〜5cm、熟した小穂はやや光沢のある淡褐色となる。クログワイでは光沢はなく、褐色になる。

Fig.7 小穂の一部拡大。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
  鱗片は小穂に密につき、円頭、辺縁の膜質部はクログワイよりも狭い。鱗片の間からは3岐する柱頭が出ている。

Fig.8 鱗片は広倒卵形、長さ5〜6mm。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)

Fig.9 痩果。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
  痩果は倒卵形、長さ2mm。柱基は小さく、盤状付属体は不明瞭。
  刺針状花披片は6〜8本、痩果より長く、まばらに下向きの剛毛がつく。

Fig.10 痩果表面には格子模様が縦に並ぶ。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)

Fig.11 雌性期の小穂。3岐する柱頭が見える。(三重県・小河川 2015.8/9)

Fig.12 雌性期のイヌクログワイ。(三重県・小河川 2015.8/9)
  有花茎は水面から出て間もなく雌性期が始まり、伸びながら雄性期となって葯が出る。
  有花茎は小穂が熟すまで伸び続ける。

他地域での生育環境と生態
Fig.13 溜池に群生するイヌクログワイ。(兵庫県淡路島・溜池 2015.12/14)
海岸に近い丘陵部の田園にある小さな溜池の岸近くに、よく発達したイヌクログワイの群落が見られた。
池の中央部を除いてほとんどの部分をイヌクログワイにびっしりと覆われていて、同所的には少量のキシュウスズメノヒエ、チゴザサ、
キツネノボタン、セリなどが生育している程度だった。
現在、兵庫県ではBランクだが、開発などによる自生地の減少が著しく、現状ではAランクとされるべき種であると思う。

Fig.14 小河川に群生するイヌクログワイ。(三重県・小河川 2015.8/9)
海岸に近い流れの緩やかな小河川に他の抽水植物とともに抽水植物群落を形成していた。
ヨシ、ショウブ、マコモ、ヒメガマが優占する中、ウキヤガラ、イヌクログワイ、ヒメコウホネがパッチ状に群生し、所々にナガエミクリが生育する。
湿生植物ではミゾソバ、ヤナギタデ、ヌマダイコン、沈水植物ではコカナダモが広く繁殖し、ホザキノフサモが残存していた。
ヒメコウホネ、ナガエミクリが見られることから、小河川には湧水の流入があると考えられる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. クログワイ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 160〜161. 北隆館
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ハリイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.171〜173. pls.154〜155. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハリイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.225〜231. pls.57. 保育社
角野康郎, 1994. カヤツリグサ科ハリイ属. 『日本水草図鑑』 89〜95. 文一統合出版
角野康郎, 2014. カヤツリグサ科ハリイ属. 『日本の水草』 179〜188. 文一統合出版
星野卓二・正木智美, 2003 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 166〜191. 山陽新聞社
星野卓二・正木智美, 2011 ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 610〜637. 平凡社
村田源. 2004. シログワイ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. シログワイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:168.
       兵庫県立・人と自然の博物館.

最終更新日:1st.Jul.2016

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