アナナシツノゴケ Megaceros flagellaris  (Mitt.) Steph. ツノゴケ科 アナナシツノゴケ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)

渓流畔や湧水地の湿岩上に生育する苔類。雌雄異株。
暗緑色。葉状体は長さ2〜3cm、幅1.5〜2mm、不規則に分岐し、縁はやや波打つ。腹鱗片はない。
表皮細胞は2〜3個の大きい葉緑体を含み、葉緑体中にピレノイド(細胞内小器官)がある。
包膜は円筒形。胞子体は細長い円柱形、長さ約2cm、凾ヘ2裂し、表面に気孔はない。
弾糸は細長く1らせん。胞子は黄緑色で、27μ、表面には小突起がある。

近似種 : ナガサキツノゴケ、 ミヤベツノゴケ、 ニワツノゴケ、 ミヤケツノゴケ、 ヤマトツノゴケモドキ、 キノボリツノゴケ
■分布:本州(静岡県以西)、四国、九州 ・ 台湾
■生育環境:渓流畔や湧水地の湿岩上など。
■発生期:9〜3月
■西宮市内での分布:市内の湿田の1箇所で確認。


Fig.2 全体。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  暗緑色。葉状体は長さ2〜3cm、幅1.5〜2mm、不規則に分岐する。

Fig.3 葉状体の一部拡大。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  縁はやや波打ち、一部では不斉な突起が生じている。

Fig.4 表皮細胞。1目盛=1.6μ。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  表皮細胞は2〜3個の大きい葉緑体を含む。葉緑体中にピレノイド(細胞内小器官)があるが小さく、画像では不明瞭である。

Fig.5 胞子体。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  早春に凾上げる。先端付近が褐色を帯びているものは裂開直前の熟したもの。

Fig.6 胞子体の拡大。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  胞子体は細長い円柱形、長さ約2cm。中央のものは凾ェ裂開しはじめており、弾糸が見えている。
  胞子体は下部が包膜に覆われ、柄と凾フ境界は不明瞭で、胞子体の上部2/3〜1/2が凾ニなる。

Fig.7 剳\面の拡大。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  剳\面は平滑で、縦長の細胞が並び、気孔はない。アナナシツノゴケの名の由来である。

Fig.8 包膜表面の拡大。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  包膜表面も平滑で、気孔はなく、表皮細胞は縦に長く、内部の葉緑体は小さい。

Fig.9 弾糸は1らせんで長い。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)

Fig.10 胞子。1目盛=1.6μ。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
  胞子は黄緑色で、27μ、表面には小突起がある。

生育環境と生態
Fig.11 低山林間の湧水地の転石に生育するアナナシツノゴケ。(兵庫県篠山市・湧水地 2015.2/27)
緩やかな傾斜の低山の谷状の地形が交わる地点から伏流水が流出しており、多くの蘚苔類が生育している。
冬期においても水温はそれほど冷たくはなく、そのためか周辺は高湿度となっているようで、周辺の樹幹にも多くの蘚苔類が見られる。
アナナシツノゴケは湧水が流れる細流中の転石や砂礫上にフジウロコゴケ、オオウロコゴケ、ウロコゴケ、サワクサリゴケ、ムクムクゴケ、
ジャゴケ、アオハイゴケ、シノブゴケ属sp.(未同定)、キャラハゴケ属sp.(未同定)などとともに生育している。
この場所は蘚苔類は豊富であるが、維管束植物はシカの食害が激しく、コバノイシカグマが2個体見られたにすぎなかった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
水谷正美, 1972. ツノゴケ科. 岩槻善之介・水谷正美 『原色日本鮮苔類図鑑』 p.369〜372. 保育社

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