イガガヤツリ Cyperus polystachyos  Rottb. カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物 
Fig.1 (長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)

Fig.2 (兵庫県・海岸に接した空き地 2014.9/24)

主に海岸近くの農耕地や湿地に生育する1年草。
匍匐枝はなく叢生し、花茎は硬く直立し、高さ10〜40cm、横断面は鈍3稜形。
葉は幅2〜3mm、基部は淡色〜淡褐色の鞘となり、有花茎よりも短い。
花序はふつう有花茎頂に単生、または1回花序枝を出し、先に小穂を密生した頭状の花序をつける。
苞葉は4〜6枚つき、花序よりも長い。
小穂は扁平、長さ1〜2cm、披針形、鋭頭、一部赤褐色を帯び、15〜40個の花をつける。
鱗片は狭卵形、長さ約2mm、鋭頭。痩果は倒卵形、長さ約1mm、上端はやや切形、稜が小穂の中軸を向く。
花柱は痩果とほぼ同長。柱頭は2岐する。
近似種 : カワラスガナ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、インド、インドネシア、オーストラリア、アフリカ
■生育環境:海岸近くの農耕地、湿地、溜池畔など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では過去に武庫川河口で記録があるが、開発され消滅。その後見つからなかったが、2015年に社寺境内の小湿地で発見した。

Fig.3 全草標本。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  画像のものは全高40cm程度の個体。匍匐枝はなく、叢生し、有花茎は直立する。

Fig.4 基部。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  葉の基部は淡色〜淡褐色の鞘となって茎を包む。

Fig.5 イガガヤツリの花序。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  ふつう有花茎の茎頂に単生するが、花序枝を1回分枝し先端に分花序をつけるものもある。

Fig.6 花序の拡大。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  花序は扁平な小穂が密集して頭状となる。イガガヤツリの名は小穂が密集した様がクリのいがのように見えることからきた。

Fig.7 小穂。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  小穂は扁平で披針形、鋭頭、一部は赤褐色を帯びる。

Fig.8 小穂を拡大。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  鱗片は2列につき、長さ約2mm、鋭頭。鱗片の間から2岐した柱頭が出ている。

Fig.9 小穂の鱗片を剥がしたところ。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  鱗片に包まれた痩果は2稜あってやや扁平で、稜が小穂の中軸に向く。

Fig.10 痩果と鱗片。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
  痩果は倒卵形で、上端はやや切形、長さ約1mm、表面には微細な粒状突起が縦に並んでいる。鱗片は長さ約2mm。

Fig.11 痩果の拡大。(西宮市・社寺境内 2015.10/3)
  左が花柱がついていた上側、右が中軸についていた下側。表面には低い微突起が並んでいる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 社寺境内に生育するイガガヤツリ。(西宮市・社寺境内 2015.10/3)
社寺境内の日当たりよい広場の湧水がにじみ出す場所に、他の湿生植物とともに生育していた。
同所的にアゼガヤツリ、コゴメガヤツリ、カワラスガナ、クグガヤツリ、ヒメクグ、テンツキ、クロテンツキ、コメヒシバ、コブナグサ、
メヒシバ、ツユクサ、ニワサキタネツケバナ、ハハコグサ、ウリクサなどが生育していた。

他地域での生育環境と生態
Fig.13 水田の畦に生育するイガガヤツリ。(長崎県・海岸に接した水田の畦 2009.10/24)
ヒメクグ、コゴメガヤツリ、クグテンツキなどとももに生育。
水田の稲の成長は非常に悪く、穂はすべて立ったままで充実していない。
2009年度は雨が少なかった上に海風に晒され、さらに海水でも被ったのかもしれない。
水田内にはタウコギ、シソクサ、アブノメ、ミズマツバ、ヒメミソハギなど自然度の高さを示す水田雑草には恵まれていたのだが・・・

Fig.14 海岸に面した休耕田に生育するイガガヤツリ。(長崎県・休耕田 2009.10/24)
砂浜に面した休耕田のシロバナサクラタデとコバノウシノシッペイが群生する中にクグテンツキとともに点在していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.180〜184. pls.164〜168. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カワラスガナ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.246〜248. pls.61〜62. 保育社
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科イガガヤツリ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 413〜415. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 イガガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 54,55. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会
村田源. 2004. イガガヤツリ. 『近畿地方植物誌』 162. 大阪自然史センター

最終更新日:12th.Aug.2016

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