イグサ(イ) Juncus effusus var. decipiens  (L.) Buchen. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔の湿地 2007.5/27)

農耕地周辺の湿地、溜池畔、河川敷、水田の畦、用水路、湿った道端など多様な環境で生育する多年草。
乾燥にも良く耐えると同時に、抽水状態で生育しているものもよく見かける。
草丈も生育環境によってかなり幅があり、40cm〜1mを超えるものまで様々。
葉はなく茎の基部に褐色で円筒形の鞘を数個生じる。
茎の中心には髄が充実し、かつてはこれを燈明用の燈心としたことからトウシンソウ(燈心草)と呼ばれたこともある。

近年、外来種として話題にのぼりつつある近縁種のコゴメイ(J. sp.)は、髄は充実せず空隙が多く、茎の縦断面を見るとこによって、
容易に区別できる。
また、在来種でよく似たホソイ(J. setchuensis var. effusoides)は、茎に明瞭な肋があり、草体は白味を帯び、花序枝に長短が著しい点で区別がつく。

イグサが畳表の素材として活用されていることは良く知られているが、最近では休耕田で雑草がはびこるのを防ぐために休耕田に
密植されているのを見かけることがある。
また、かつてはイグサの生産地としては岡山県が有名であったが、現在では熊本県が国内での生産量最多を誇る。
畳表に使われるイグサは花序を持たない改良品種だが、現在でも多くの優れた品種が作出されている一方で、
天然のイグサも香りが高く、畳表用として新たな価値が見出されているようだ。
近似種 : ホソイコゴメイ

■分布:日本全土
■生育環境:多様な湿った場所。
■花期:5〜9月
■西宮市内での分布:市内全域でごく普通に見られる。

Fig.2 全草標本。(西宮市・道端の小湿地 2010.6/6)

Fig.3 基部と根茎。(西宮市・道端の小湿地 2010.6/6)
  基部は赤褐色を帯び、数個の葉身のない鞘に包まれる。鞘に葉耳はない。根茎は短く横に伸びる。

Fig.4 開花直前の花序。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)
  花序枝の長短はあまり顕著ではなく、花序は近縁のホソイやコゴメイ(外来種)と比べると小ぢんまりとしている。

Fig.5 熟したイグサの花序。(西宮市・溜池畔 2007.6/27)

Fig.6 刮ハ。(西宮市・溜池畔 2007.6/27)
  外花被片は刮ハの2/3以上で、近縁種のホソイよりもやや長い。刮ハは楕円形。


Fig.7,8 痩果。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.7/21)
  鉄さび色で長さ0.3〜0.4mm、卵状楕円形、表面には横長の格子模様がある。
  痩果の周囲にある透明膜質のものは、水分を吸収して膨張する粘性のある物質で、降雨などを吸収して膨張し、刮ハを弾けさせる。

Fig.9 茎とその断面。(西宮市・溜池畔 2007.11/18)
  茎には細かな条線があるが、ホソイのような明瞭な肋はない。
  茎の内部は、髄が充実している。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 休耕田で生育するイグサ。(西宮市・休耕田 2007.6/24)
山間にある比較的自然度の高い休耕田の軟泥のたまった箇所に生育が見られた。
周囲にはコウガイゼキショウ、ヒロハノコウガイゼキショウ、シカクイ、イボクサ、チゴザサ、ケキツネノボタンが見られる。

Fig.11 貧栄養な溜池で抽水状態で生育するイグサ。(西宮市・溜池 2007.5/27)
栄養状態がイグサにとってはあまり良くないのか、草丈は40cmを超える程度で株自体の発達も貧弱である。
この小さな溜池にはヒルムシロが自生し、カンガレイやホタルイが抽水状態で見られた。
池畔にはイヌノハナヒゲ、ゴウソ、タチスゲ、アブラガヤといった湿生植物が見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
       66〜71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159〜167. pls.44〜45. 保育社
牧野富太郎, 1961 イグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 821. 北隆館
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イグサ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. イ. 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. イグサ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:110. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:19th.Jun.2010

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