イヌセンブリ Swertia diluta  (Turcz.) Benth. et Hook var. tosaensis  (Makino) Hara リンドウ科 センブリ属
湿生植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県加東市・湿った草地 2008.10/19)

Fig.2 (兵庫県加西市・棚田用水路脇 2011.10/19)

湿地や溜池畔、湿った草地などに生える越年草。
茎は直立し、高さ5〜35cm、対生する葉の葉腋からよく分枝する。
葉はセンブリ属のなかでも幅が広く、基部付近のものは長楕円状倒披針形〜倒卵形で長さ2〜5cm、幅3〜10mm、鈍頭。
茎の上部にいくにつれて葉幅は狭くなり、先はやや鋭頭〜鈍頭となる。
花冠は白色で青紫色の条線があり、径約15mm。
萼裂片は披針形〜広披針形で、基部はわずかに細まり、ほぼ花冠と同長か、少し短い。
花冠の裂片は長さ8〜12mm、密腺溝が基部に2個あり披針形で縁に長い縮れた毛がある。
草体にはセンブリほどの苦味はない。

よく似たセンブリS. japonica)は、葉が線形〜線状長楕円形。花は白色で腺溝の縁に生える毛はイヌセンブリよりも少なく、萼片は線形〜線状披針形。
また、花が淡紫色で、葉は線状披針形となるものにムラサキセンブリS. pseudochinensis)があり、日当たりのよい草地などに生育する。
近似種 : センブリ、 ムラサキセンブリ

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国中部
■生育環境:湿地、溜池畔、湿った草地など。
■花期:10〜11月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。

Fig.3 開花したばかりの花。(兵庫県加東市・湿った草地 2008.10/19)
  雄蕊の葯はオレンジ色を帯びる。花弁は5深裂し、青紫色の条線がある。

Fig.4 葯が開いた花。(兵庫県加東市・湿った草地 2008.10/19)
  葯は成熟して裂開すると黒色となる。
  蜜腺の縁に生える白毛は長く縮れ、蜜腺を見ることはできない。
  訪花した昆虫類はこの白毛に足をとられて、身体に花粉をつけるという。
  センブリの白毛はよりまばらで、花弁基部の蜜腺は見える。

Fig.5 茎と葉。(兵庫県加西市・湿原 2008.10/19)
  茎は直立する。対生する葉の葉腋からよく分枝する。茎の上部につく葉は披針形、やや鋭頭〜鈍頭。

Fig.6 基部付近につく葉。(兵庫県加西市・湿原 2008.10/19)
  基部近くでは、葉がつまってつき、長楕円状倒披針形〜倒卵形で鈍頭。
  葉幅は3〜10mmあり、葉幅1〜3mmで線形〜線状長楕円形の葉身をもつセンブリと区別がつく。

Fig.7 熟した果実をつけたイヌセンブリ。(兵庫県三田市・湿地 2007.11/25)
  晩秋に草体は紅葉し、果実(刮ハ)は熟して先端から2裂する。

Fig.8 果実期の花茎と、刮ハ。(兵庫県三田市・湿地 2007.11/25)
  萼片、花弁、雄蕊、蜜腺の付属物の白長毛は全て宿存する。イヌセンブリの特徴である幅広い萼片が明瞭で果実期でも区別できる。

Fig.9 刮ハの内部。(兵庫県三田市・湿地 2007.11/25)
  先端が2裂していた刮ハを裂いたところ。


Fig.10,11 種子。(上:兵庫県三田市・湿地 2007.11/25 下:兵庫県三田市・湿地 2007.2/18)
  種子は不定形にちかい楕円形、黒褐色〜赤褐色で、長さ0.5mm前後。
  表面には不規則な網目模様がある。

Fig.12 越冬する当年苗。(兵庫県三田市・湿地脇の農道上 2007.11/25)
  イヌセンブリは越年草であり、発芽した年の個体は冬期にはロゼットとなって越冬する。
  右側のものは踏みつけに遭い、葉が変形している。

生育環境と生態
Fig.13 湿原のやや乾いた場所に点在するイヌセンブリ。(兵庫県加西市・湿原 2008.10/19)
チゴザサ、ミカワシンジュガヤ、カリマタガヤ、ヒメヒラテンツキ、トダシバが群生する中に点々と生育する。
このような場所で生育する個体は草体の節は増え、節間は伸びて、大きくなる。

Fig.14 ゴマクサとともに開花したイヌセンブリ。(兵庫県加西市・湿原 2008.10/19)
Fig.12と同じ場所で、咲き残ったゴマクサとともに開花したイヌセンブリ。
周囲には隣片をすっかり落としたヒメヒラテンツキと、枯れたミカワシンジュガヤ、2叉状の花序を持つカリマタガヤが見える。

Fig.15 半裸地状の湿った草地に生育するイヌセンブリ。(兵庫県加西市・湿原 2008.10/19)
裸地や草丈の低い場所で生育するものは節間はつまって、小さなサイズで開花する。
ここでは刈り込みと野焼きによって矮小化してまばらに生えたネザサの合間に、アリノトウグサ、ミカワシンジュガヤ、イトハナビテンツキ、
コモウセンゴケ、カナビキソウ、アイナエ、コモウセンゴケなどとともに生育している。

Fig.16 棚田の土手に群生するイヌセンブリ。(兵庫県加西市・棚田の土手 2011.10/19)
自然度の高いミズワラビが群生する棚田の土手に、刈り込まれたイヌセンブリの群生が見られた。
土手は度々草刈りがされるようで、コマツナギやススキも草丈が低く、ミヤコグサ、ヒメクグ、コスミレ、スミレなどの小型の草本が多い。
土手の下に掘られた素掘りの排水路にはヘラオモダカが群生していた。

Fig.17 道端の粘土質の半裸地に群生するイヌセンブリ。(兵庫県加古川市・道端 2011.11/6)
粘土質の半裸地に草丈の低い小型のイヌセンブリが数百株群生していた。
自生ヵ所に接して湧水のしたたる崖があり、その水分が粘土質の土壌に浸透し、イヌセンブリの生育が可能となっているようだ。
同所的にアリノトウグサ、イトハナビテンツキ、ウツボグサ、小型のトダシバ、メリケンカルカヤ、イヌコウジュなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1981. リンドウ科センブリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.33〜35. pls.29〜30. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004. リンドウ科センブリ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.214〜217. pls.65. 保育社
牧野富太郎, 1961 イヌセンブリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 495. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 イヌセンブリ. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 pls.62. p.64. 保育社
田中京子. 2001. リンドウ科センブリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1130〜1133. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イヌセンブリ. 『六甲山地の植物誌』 p.176. pl.20. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. イヌセンブリ. 『近畿地方植物誌』 51. 大阪自然史センター
福岡誠行・布施静香・黒崎史平 2005. イヌセンブリ. 兵庫県産維管束植物6 リンドウ科. 人と自然15:111. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:6th.Dec.2011

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