ウシノシッペイ | Hemarthria sibirica (Gandog.) Ohwi | イネ科 ウシノシッペイ属 |
湿生植物 (参考付記:コバノウシノシッペイH. compressa (L. fil.) R.Br.) |
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Fig.1 (西宮市・河川敷 2009.11/10) |
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Fig.2 (神戸市・休耕田 2013.9/6) 湿地、溜池畔、休耕田、畦、河川敷、湿った草地などの日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。 長い匍匐枝が地下にあり、茎は基部が直立または斜上して、中部付近で分枝し、上部は直立または斜上して、高さ50〜110cm、やや硬質。 葉は線形で、長さ20〜30cm、茎下部で幅5〜8mm、上部では幅2〜5mm、緑色、中部付近から先端に向かって次第に細くなる。 葉の開出角度は30°未満。葉鞘は茎に密着する。 花序は茎頂および枝先に単生し、円柱状の線形、長さ5〜8cm、花軸は太く、小穂のつく節間は4〜6mm、基部に葉状の苞がある。 小穂は長さ5〜8mm、花軸の各節から2個づつ生じ、1個は無柄、他は有柄で、柄は花軸とほとんど上方まで合着し、無柄小穂は合着した柄の凹所にはめ込み状に付く。 無柄小穂と有柄小穂はほとんど同形で、各小穂は1個の両性小花からなる。 小穂の第1・第2苞頴はともに革質。第1苞頴は長さ5〜8mm、基部から次第に細くなって鈍頭に終わる。 護頴と内頴は薄膜質で小型。花柱は紅紫色、2岐して羽毛状。 本州と四国の一部、および九州以南にはコバノウシノシッペイ(H. compressa)が分布する。詳細は 参考画像を参照。 近似種 : コバノウシノシッペイ、チャボウシノシッペイ ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー ■生育環境:湿地、溜池畔、休耕田、畦、河川敷、湿った草地など。 ■花期:7〜10月 ■西宮市内での分布:市内の河川敷にやや稀に見られる。 |
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↑Fig.3 地上部標本。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 茎は中部付近で分枝することが多く、下部付近での分枝はほとんどない。 葉鞘は茎に密着し、分枝する部分でも空隙ができることはほとんどない。 |
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↑Fig.4 有花茎。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 有花茎頂端には花序を単生し、上部の葉腋にも1〜2個まれに3個の花序をつける。 |
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↑Fig.5 花序。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 花序は円柱状の線形で、わずかに弓なりに反る。 |
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↑Fig.6 花序には2個の小穂が1組となって花序の各節につく。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 有柄小穂も無柄小穂もほぼ同形で、有柄小穂の柄はほとんどが花軸と合着しているため2個1組とは解りにくい。 有柄小穂は無柄小穂を取り除いて、有柄小穂を花軸から切り分けてはじめてごく短い合着していない柄があるのが解る。 |
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↑Fig.7 無柄小穂を開いたところ。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 各小穂は1個の両性小花からなる。苞頴は革質。護頴と内頴は薄膜質。 |
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↑Fig.8 無柄小穂を取り除いたところ。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 有柄小穂の柄は花軸と合着し、その柄の部分の凹みに無柄小穂がつく。 小穂の苞頴は固く花軸についていて、非常に取り除きにくかった。 |
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↑Fig.9 茎の横断面はやや扁平となる。(西宮市・河川敷 2009.11/10) |
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↑Fig.10 無花茎の葉鞘。(西宮市・河川敷 2009.11/10) 葉鞘は茎を密に包む。若い葉鞘口部近くの縁には白毛が見られた。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.11 大河川河口部の原野状の砂州に生育するウシノシッペイ。(兵庫県豊岡市・河川敷 2011.7/27) びっしりとアシ群落に埋め尽くされた原野の縁にウシノシッペイが群生していた。 原野状の砂州であるが、周囲は護岸ブロックや木枠で固められ、安定したヨシ群落が発達しており、攪乱は少ない。 同所的にシロバナサクラタデ、タチコウガイゼキショウ、カモノハシなどが生育している。 |
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Fig.12 溜池畔に生育するウシノシッペイ。(兵庫県加西市・溜池 2012.10/20) チゴザサが覆う中栄養な溜池土堤の水際の一画にウシノシッペイが抽水状態で生育していた。 溜池内に水草は見られず、池畔にマコモ、キクモ、ミズユキノシタ、アゼナが生育していた。 |
参考画像----------コバノウシノシッペイ---------- |
Fig.13 コバノウシノシッペイ Hemarthria compressa (L. fil.) R.Br.
全草標本 (長崎県・溜池畔 2009.10/4) 本州の大阪、島根、山口、広島、四国の愛媛、高知、および九州以南の日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。 短い匍匐枝が地下にあり、茎は基部が長く横に這い、各節から分枝し、先は立ち上がる。 葉は白緑色、長さ10〜15cm、茎下部で幅2.5〜5mm、上部では1〜2mm、先端付近で急に狭くなる。葉の開出角度は30〜60°。 葉鞘は節間よりもかなり短く、茎を緩く抱き、腋芽の発達によって葉鞘と茎の間隙は拡大する。 小穂は長さ4〜6mm。無柄小穂は第1頴が狭長楕円形で中部から急に細くなって鈍頭に終わる。 有柄小穂の第1頴は披針形でやや鋭頭。花軸の節間は3〜4mm。 |
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↑Fig.14 花軸についたコバノウシノシッペイの小穂。(長崎県・溜池畔 2009.10/4) |
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↑Fig.15 ウシノシッペイとコバノウシノシッペイの標本での葉鞘比較。 ウシノシッペイでは葉鞘が茎に密着し、腋芽が生じていても隙間はない。 コバノウシノシッペイでは葉鞘が茎を緩く包むため、腋芽を生じると大きく隙間が空く。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982 イネ科ウシノシッペイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.90. pl.70. 平凡社 小山鐡夫, 2004 イネ科ウシノシッペイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.376〜377. pl.99. 保育社 牧野富太郎, 1961 ウシノシッペイ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 750. 北隆館 藤本義昭. 1995. ウシノシッペイ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 127〜128. 藤本植物研究所 木場英久. 2001. イネ科ウシノシッペイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 358〜359. 神奈川県立生命の星・地球博物館 桑原義晴, 2008 ウシノシッペイ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.260〜262. pls.21. 全国農村教育協会 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ウシノシッペイ. 『六甲山地の植物誌』 231. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ウシノシッペイ. 『近畿地方植物誌』 176. 大阪自然史センター 藤井伸二・安藤義範. 2007. 近畿地方新産のコバノウシノシッペイ(イネ科). Bunrui 7(2):143〜148. 日本植物分類学会 最終更新日:25th.May.2014 |