ヒメコウガイゼキショウ Juncus bufonius  L. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)

沖積平野の休耕田、畑地、湿地などに生える1年草で、中栄養〜富栄養な土壌に生育し、山間の湿地では見られない。
一見、クサイを小型にした草本に見え、茎は束生し、細い円筒形で斜上し、高さ10〜30cm。
葉は扁平で上面に溝があり、茎より短く、鞘部に葉耳がない。
花序は凹集散形。最下の苞は葉状で花序より明らかに短い。
花は長さ5〜6mm。花被片は緑白色、披針形で先がとがり、縁は白い膜質、外片は内片よりも長い。
雄蕊は6個、花被片の約1/2、葯は花糸の1/2〜1/3。刮ハは長楕円形で褐色、内花被片より短く、3室。
種子は倒卵状楕円形で、長さ0.5〜0.6mm。

【メモ】 最近、部分帰化とみなされるものが各地の宅地、荒地、河川敷で見られるという。
     ヒメコウガイゼキショウは変異が多い上、外来のものと在来のものとでは明確な形態的な差はなく、市街や平野部の水田に現われるものは
     注意が必要のようだ。
     ヒメコウガイゼキショウのみならず、世界の広範の地域に生育するコスモポリタン種には、外来である可能性も考慮せねばならない。
     また、この仲間(クサイ亜属)は雄蕊の数は安定しておらず、基本的に3数性であると認識すべきものと思う。
     地域集団によって雄蕊が3個であったり6個であったりすることがしばしばある。
クサイJ. tenuis)に似るが、クサイはより大型で高さ30〜50cm、鞘部に長さ2〜3mmの膜質の葉耳があり、花序の最下苞は花序より長く、
内花被片と外花被片はほぼ同長、刮ハは不完全な3つの隔室からなる。
近縁種 : クサイ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ ほとんど全世界の暖帯・温帯域
■生育環境:休耕田、河畔、畑地、湿地など。
■花期:5〜9月
■西宮市内での分布:市内では絶滅したものと思っていたが、平野部の水田で高密度で生育していた。

Fig.2 全草標本。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
  茎は多数束生し、茎の低い位置から花序枝を多数分枝する。地下部の根はほとんど発達しない。

Fig.3 市内産の標本。(西宮市・水田の畦 2010.5/28)
  一見するとクサイと見紛うが、草体は細く弱々しい。また、最下の苞葉は花序よりも短い。

Fig.4 葉身。(西宮市・水田の畦 2010.5/28)
  葉は扁平で、幅は中部で約1.3mm。上面は溝状にくぼむ。

Fig.5 花序。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
  凹集散状に広がる。最下の苞葉は花序よりはるかに短く、線形で、表面には葉と同様の溝がある

Fig.6 花被と刮ハ。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
  花被は分花序に数個頂生する。刮ハは花被片より短かく、凸頭となる。

Fig.7 内外花被片と雄蕊。(西宮市・水田の畦 2010.5/28)
  内花被片(左)は外花被片(右)より短く、ともに披針形で鋭頭、基部に雄蕊が1個づつつく。
  雄蕊は計6個、花被片の約1/2、葯は花糸の1/2〜1/3。

Fig.8 刮ハ。(西宮市・水田の畦 2010.5/28)
  長楕円形で凸頭。花後熟すにつれて赤味を帯び、成熟すると褐色となって裂開する。

Fig.9 痩果。(西宮市・水田の畦 2010.5/28)
  痩果は0.5〜0.6mm、倒卵形。湿っている状態では表面に粘性があり、画像のように物に粘着する。

Fig.10 紅葉した草体。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
  稀にコカウガイゼキショウに見られるような紅葉した草体のものを見かける。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 水入れを待つ水田で群生するヒメコウガイゼキショウ。(西宮市・水田 2010.5/3)
画像中の深緑色の線形の葉を持つものは全てヒメコウガイゼキショウ。
カズノコグサ、スズメノテッポウ、スズメノカタビラ、カワヂシャ、ムシクサ、タガラシ、タネツケバナ、ゲンゲなどとともに生育している。

Fig.12 休耕田に密生したヒメコウガイゼキショウ。(西宮市・水田 2010.5/3)
休耕田でよほど生育条件がよく合ったのか、隙間のないほど密生しているのが見られた。
除草剤を使用している水田や休耕田ではヒメコウガイゼキショウの他、カズノコグサも姿を消す。

他地域の生育環境と生態
Fig.13 休耕田で点在するヒメコウガイゼキショウ。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
道路建設予定地となり、耕作放棄された水田の湛水部分で点在していた。
水田内にはこの時期、トキワハゼ、ムシクサ、コオニタビラコ、スズメノテッポウ、セトガヤ、ドジョウツナギが見られた。

Fig.14 休耕田の湛水部分を埋めるヒメコウガイゼキショウ。(兵庫県淡路島・休耕田 2010.4/29)
この休耕田ではヒメコウガイゼキショウが湛水部分に高密度で密生していた。
同所的にコウガイゼキショウ、ムツオレグサ、ドジョウツナギが生育。コウガイゼキショウも盛んに開花していた。
秋期にはヒメヒラテンツキ、クロテンツキが多産する比較的自然度の高い休耕田である。

Fig.15 河川敷の氾濫原で生育するヒメコウガイゼキショウ。(大阪府枚方市・河川敷 2013.5/15)
河川敷の氾濫原でヒメコウガイゼキショウが点在していた。
同所的にムシクサ、アゼナ、アメリカアゼナ、アズマツメクサ、ミズハコベ、スズメノテッポウ、カズノコグサ、ギシギシ、ホソバツルノゲイトウ、
タデ類の幼苗、トキワハゼ、カヤツリグサ類の幼苗がまばらに点在している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982. イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 66〜71. 平凡社
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹. 1992. ヒメコウガイゼキショウ. 『淡路島の植物誌』 177. (財)神戸市公園緑化協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメコウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. 自然環境研究所
村田源. 2004. ヒメコウガイゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. ヒメコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:109. 兵庫県立・人と自然の博物館
上赤博文 2003.[naturplant:936] Re: 大阪府立農芸高校内の帰化植物. 帰化植物メーリングリスト.
植村修二 2003.[naturplant:937] 外来のヒメコウガイゼキショウ. 帰化植物メーリングリスト.
Hirohiko MORITA 2003.[naturplant:939] ヒメコウガイゼキショウ. 帰化植物メーリングリスト.
上赤博文 2003.[naturplant:942] Re: ヒメコウガイゼキショウ. 帰化植物メーリングリスト.
内野秀重 2003.[naturplant:945] ヒメコウガイゼキショウの生育地など. 帰化植物メーリングリスト.
山口純一 2009.[naturplant:4142] 雄しべ3本のヒメコウガイゼキショウ. 帰化植物メーリングリスト.
水田光雄 2010.[naturplant:4595] カラスノチャヒキとヒメコウガイゼキショウ. 帰化植物メーリングリスト.

最終更新日 9th.Mar.2014

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