ヒナザサ | Coelachne japonica Hack. | イネ科 ヒナザサ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2007.11/25) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔 2011.9/14) 貧栄養な池畔や湿地に生える軟弱で小型の1年草。 裸地が多い貧栄養な池畔で、ホシクサ科植物やハリイなどの背丈の低い草本とともに見られることが多い。 茎(稈)は地表を這って分枝し、先端は立ち上がって高さ5〜20cm程度。立ち上がった茎からは分枝しない。 節は紫色を帯びることが多く開出毛が生じる。葉鞘は茎をゆったりと包み、口部には葉舌はなく、列毛が生える。 葉は1〜3cm、幅3〜6mm、披針形で先端は尖鋭頭。葉縁には短い毛を散生する。 円錐花序中軸からのびる花序枝は短く、それぞれの花序枝に1〜2個の小穂がつき、円錐花序は幅が狭い。 小穂は長さ2.5mmで1〜2個の小花からなり、2小花の場合、第1小花は両性花、第2小花は雄性花となる。 小穂につく2枚の苞穎は不同長で小さく、護穎は長さ約2.5mmで無脈。 【メモ】 2009年までは兵庫県RDB Cランク種であったが、多くの自生地が確認され標本数も多いことからレッドリストから除外された。 ハイチゴザサ(Isachne nipponensis)に似るが、ヒナザサには葉舌はなく、葉鞘は茎をゆったりと包み、草体はより小型で柔らかい。 近似種 : ハイチゴザサ ■分布:本州、九州 ■生育環境:貧栄養〜やや中栄養な溜池畔、湿地。 ■花期:8〜10月 ■西宮市内での分布:2ケ所の溜池畔で確認。自生地は今後もさらに見つかると思うが、比較的分布は限られると思う。 |
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↑Fig.3 全草の様子。(西宮市・池畔 2007.10/18) 茎は横に這って、節から分枝し、先端は立ち上がって花序をつける。 稈、花序枝ともに近似種のハイチゴザサよりも太く柔らかい。 |
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↑Fig.4 ヒナザサの花序。(西宮市・池畔 2007.10/18) 幅の狭い円錐花序で、中軸から分枝する短い花序枝に1〜2個の小穂が付く。 |
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↑Fig.5 葉鞘はほとんど無毛で、節は紫色を帯びることが多く、開出毛を生じる。(西宮市・池畔 2007.10/18) |
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↑Fig.6 葉身は披針形で先端は尖鋭頭。葉舌がないのが大きな特徴。(西宮市・池畔 2007.10/18) 平行脈は葉面から浮き出して目立つ。 脈上には短い斜上毛を散生する。(画像下) |
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↑Fig.7 小穂は約2.5mmで、1個の両性小花からなる。(西宮市・池畔 2007.10/18) 苞穎2個は不明瞭な中央脈があり、小さく不同長で、第一苞穎は第二苞穎よりもやや短い。 護穎は2.5mmで洋紙質で無脈。 |
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↑Fig.8 小穂を解体した様子。(西宮市・池畔 2007.10/18) 画像の小穂は、まだ葉鞘に包まれた状態のものだったが、すでに雄蕊の葯は開いており、新鮮な状態の雌蕊は確認できなかった。 おそらく、ほとんどの小花は閉鎖花なのではないかと思う。 |
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↑Fig.9 沈水〜抽水状態で生育するヒナザサ。(兵庫県加東市・溜池畔 2008.9/22) 沈水〜抽水状態でも生育し、水中で花穂もつけて結実がみられる。やはり閉鎖花なのだろう。 |
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↑Fig.10 沈水状態で結実するヒナザサ。(兵庫県姫路市・溜池 2011.10/2) 降雨で増水した溜池で沈水状態で結実していた。茎は地表を這うことなく、直立している。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.11 干上がった池畔を覆う、湿生1年草群落。(西宮市・池畔 2007.10/18) 判別のしにくい、一面枯れ草の絨毯のような画像だが、ここにはヒナザサ、サワトウガラシ、ツクシクロイヌノヒゲが密生しており、 あとはミミカキグサ、ハリイがわずかに見られる程度の密な群落をつくっていた。 |
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Fig.12 溜池畔でニッポンイヌノヒゲと混生するヒナザサ。(西宮市・溜池畔 2007.11/1) ここでは、アシボソ、チゴザサなど、比較的似た種も自生しており、やや紛らわしく、注意していないと見落とすだろう。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.13 抽水状態で溜池畔に他種とともに背丈の低い湿生植物群落を形成するヒナザサ。(兵庫県加東市・溜池畔 2008.9/22) やや中栄養な溜池畔で、水に浸からないあたりはほとんどアゼスゲが占め、その外側の浅水域に生育していた。 画像に見えるホシクサ、タチモ、サワトウガラシ、ハリイのほか、オオホシクサ、イヌノヒゲ、イボクサなどが生育。 |
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Fig.14 溜池の浅水域で沈水状態で生育するヒナザサ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/10) 沈水形のヒナザサはあまり分枝せず、葉はやや細身となり水中を直立して伸びる。溜池が干上がると地表に倒伏して分枝して広がる。 この溜池では浅水域にツクシクロイヌノヒゲ、ヒメホタルイ、タチモ、ホソバミズヒキモ、フラスコモsp.などと混生しているのが見られた。 |
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Fig.15 減水した溜池畔で生育するヒナザサ。(兵庫県加東市・溜池畔 2010.9/29) 干上がった溜池の湧水のある泥濘地にヒナザサの群生が見られた。 同所的にイボクサ、イヌノヒゲ、オオホシクサ、マツバイ、ヒメホタルイ、ヌマトラノオ、ミズユキノシタなどが生育している。 付近の落葉の下にはヒメタイコウチも見られた。 |
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Fig.16 溜池畔に密生するヒナザサ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2011.9/14) ヒナザサは貧栄養な自然度の高い溜池畔に生育するが、1年草ということもあってか、攪乱の多い裸地での生育が目立つ。 この年は大雨が多く、流れ込み付近では土砂により多年草が埋没することも多く、その上に軟泥が薄く積もり、そこでヒナザサがマット状に生育していた。 多年草では画像にも見られるようにエゾハリイが多く見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 佐竹義輔, ヒナザサ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.97. pls.78. 平凡社 小山鐡夫, 2004 イネ科ヒナザサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.339〜340. pls.86. 保育社 藤本義昭. 1995. イネ科チゴザサ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 84〜85. 藤本植物研究所 木場英久. 2001. ヒナザサ. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 348. 神奈川県立生命の星・地球博物館 桑原義晴, 2008 ヒナザサ. 『日本イネ科植物図譜』 p.155〜156. 全国農村教育協会 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒナザサ. 『六甲山地の植物誌』 227. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ヒナザサ. 『近畿地方植物誌』 172. 大阪自然史センター 藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子. 2008. ヒナザサ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:174. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:12th.Nov.2011 |