ホソバリンドウ | Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim. form. stenophylla (Hara) Ohwi |
リンドウ科 リンドウ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・湿地 2004.10/25) |
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Fig.2 (兵庫県三田市・溜池土堤 2011.10/23) 湿地や棚田の用水路脇などに生える多年草。湿地に生えるリンドウの1品種。 湿地では中心部よりもヌマガヤ、ワレモコウ、カキランなどが見られるような周辺部に多く、 他の草にもたれかかるようにして開花していることが多い。 棚田ではサワヒヨドリ、ワレモコウ、ヤマラッキョウ、タチスゲ、ヤチカワズスゲなどが見られる自然度の高い用水路周辺でよく目にする。 ホソバリンドウの名は、リンドウよりも葉幅が狭いことから付けられた。 茎は直立〜斜上し、高さ30〜100cm。葉は対生し線状披針形で、長さ3〜8cm、幅5mm〜10mm。 湿生植物の中でも、もっとも遅くまで開花するもののひとつで11月下旬でも開花が見られる。 花は3〜4cmで5中裂し、鮮やかな青紫色で、普通、茎の先端に集まって付くが、茎のそれぞれの葉腋に花を付けるものもある。 花は陽が当たらないと開花しない。果実は刮ハで、熟しても残っている枯れた花弁に包まれたままであることが多い。 熟した刮ハは先端が2裂し、内部には両端が翼状に伸びた種皮をもつ小さな種子が無数にある。 近似種 : リンドウ ■分布:本州、四国、九州 ■生育環境:湿地や、棚田の用水路脇など。 ■花期:10〜11月 ■西宮市内での分布:市内では六甲山系の湿地や、北部の棚田周辺に見られ、リンドウとともに見られる場所もある。 兵庫県下では分布は南部に偏っており、丹波地方に入るとわずかに2ヶ所で見られるだけとなる。 |
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↑Fig.3 花冠は5中裂し、青紫色。(兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2010.10/27) 雄蕊は5個、雌蕊の柱頭は浅く2裂し、外側に反る。 鮮やかな青紫色の花は、枯野に変わりつつある山野の中でひときわ目を引く。 花は雄性先熟で、開花したばかりのものは雄蕊が花柱を完全に包んでおり、その状態で花粉を放出する(Fig.1の中央の花)。 その後、花粉を放出し終わった雄蕊は四方に開いて、2岐する柱頭が現われる。 画像中央の花は雄性期終わり頃のもので、これから花糸が四方に開くところで、画像左の花は2岐する柱頭が現われて雌性期に入っている。 |
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↑Fig.4 葉は対生し、線状披針形。(西宮市・湿地 2007.11/22) 長さ3〜8cm、幅5〜10mmで、リンドウよりも細長い。基部はくさび形に狭まり、葉柄は不明瞭。 |
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↑Fig.5 春に出芽したホソバリンドウ。(西宮市・溜池畔 2007.3/21) |
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↑Fig.6 成長期の個体。(兵庫県三田市・棚田の畦 2013.5/23) この頃からすでに葉は細く、リンドウと区別することができる。 |
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↑Fig.7 ホソバリンドウの刮ハ。(西宮市・湿地 2007.11/22) 上:花冠の花弁は刮ハが熟しても宿存し、刮ハを包む。枯れた花弁を切り開いて刮ハを出したところ。 下:熟して先端が2裂した刮ハを、縦に裂いたところ。内部には種子が横向きに無数に並ぶ。 |
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↑Fig.8 ひとつの刮ハから得られた種子。(西宮市・湿地 2007.11/22) これほど多数の種子が散布されているにも関わらず、個体数自体はあまり増加しないのは、 実生苗が充分な陽光と水分を必要とするからだろう。 自生環境を考えると、そのような場所に種子が定着する確率は非常に低いだろうことは、容易に想像される。 |
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↑Fig.9,10 ホソバリンドウの痩果。(西宮市・湿地 2007.11/22) 種子は中心部が茶褐色で、上下に黄褐色の種皮がのびた翼を持ち、長さ1.6mm前後。 表面には網目状の隆起がある。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.11 崩壊地の小さな湧水湿地の周りで晩秋を飾る花たち。(西宮市・崩壊地の小湿地 2006.10/26) ホソバリンドウはこの時期、まだ開花が始まったばかりで、画像に見えるセンブリとアキノキリンソウは最盛期。 |
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Fig.12 棚田上部の溜池の土堤で点々と生育するホソバリンドウ。(西宮市・溜池土堤 2006.10/30) 画像には開花中のヤマラッキョウの他、チゴザサ、ヤマイなどが写り込んでいる。 ここでは、土堤上部にイナカギク、リュウノウギクが、中部ではスズサイコ、下部ではホソバリンドウやヤマラッキョウのほか、 ヤチカワズスゲ、タチスゲ、アゼスゲ、カキラン、ヌマトラノオ、ワレモコウ、ホソバノヨツバムグラなどの豊富な湿生植物が見られる。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.13 溜池畔の湧水湿地で開花するホソバリンドウ。(兵庫県三田市・溜池畔の湿地 2009.10/15) 小さな溜池の縁の緩斜面に湧水による貧栄養湿地が形成され、そこにヤマラッキョウなどとともに開花している。 湿地は小規模ながら豊富な植生が見られ、コイヌノハナヒゲ、ヌマガヤ、チゴザサ、ヤマイがパッチ状に群落をつくり、そこにサギソウ、トキソウ、 カキラン、カガシラ、マネキシンジュガヤ、ミカヅキグサ、イヌノハナヒゲ、ノハナショウブ、ノギラン、イシモチソウ、モウセンゴケ、ミミカキグサ、 ホザキノミミカキグサ、イヌノヒゲ、イトイヌノヒゲが生育するホットスポットである。 |
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Fig.14 溜池土堤の水路周辺で開花するホソバリンドウ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2011.10/23) 多数の小規模な溜池が群集する棚田の溜池土堤の斜面半ばにある導水溝の周辺で多数のホソバリンドウが開花していた。 ホソバリンドウは溜池畔にも見られ、溜池畔ではほかにスイラン、コマツカサススキ、アブラガヤ、マネキシンジュガヤ、サギソウ、イヌノハナヒゲが生育し、 土堤は刈り込まれて矮小化したネザサを主体としてチガヤ、トダシバ、チゴザサ、ハイヌメリ、コシンジュガヤ、ミカワシンジュガヤ、イヌノハナヒゲ、 イヌシカクイ、ノグサ、ノテンツキ、ヒメリラテンツキ、ノギラン、ソクシンラン、ヤマラッキョウ、ヤマトキソウ、カキラン、モウセンゴケ、イシモチソウ、 ワレモコウ、ミツバツチグリ、センブリ、ツリガネニンジン、キセルアザミ、ノアザミ、サワシロギク、アキノキリンソウなどが生育し、植生は多様に富む。 三田市内ではミカワシンジュガヤが生育する場所は今のところここでしか見ていない。 |
参考画像----------リンドウ---------- |
Fig.15 リンドウ Gentiana scabra Bunge var. buergeri (Miq.) Maxim. (西宮市・棚田の畦 2006.11/9) Fig1のホソバリンドウの画像と比べるとよく解るが、ホソバリンドウよりもかなり葉幅が広い。 西宮市内では6ヶ所で確認できた。 いずれの場所も水田の畦で、他の草と同様に刈り込みを受けて矮小化し、多数の花を開花する。 当地のリンドウはホソバリンドウよりも青味がかなり薄い。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 佐竹義輔, 1981. リンドウ科リンドウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.29〜32. pls.23〜27. 平凡社 北村四郎・村田源・堀勝, 2004. リンドウ科リンドウ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.218〜222. pl.66. 保育社 牧野富太郎, 1961 ホソバリンドウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 492. 北隆館 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホソバリンドウ. 『六甲山地の植物誌』 176. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ホソバリンドウ. 『近畿地方植物誌』 50. 大阪自然史センター 福岡誠行・布施静香・黒崎史平 2005. ホソバリンドウ. 兵庫県産維管束植物6 リンドウ科. 人と自然15:110. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:26th.Oct.2013 |