ゴウソ Carex maximowiczii  Miq.var. maximowiczii カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・休耕田 2007.4/30)

Fig.2 (西宮市・用水路脇 2009.5/28)

溜池周辺や湿地、用水路脇、河川敷などの明るい湿った場所に生育する多年草。
根茎は短く、叢生する。基部の鞘は葉身を欠き、淡褐色で柔らかく、糸網は生じない。
草丈は30〜50cmで、頂小穂は雄性、側小穂は雌性で円柱形。長い柄があって下垂する。
雌鱗片は褐色を帯び、鋭頭かまたは芒のある鋭頭。果胞は長さ3.5〜5mmで、乳頭状突起を密布する。
果胞の嘴は短く、口部は全縁。痩果は円形で、径2〜3mm。雌蕊柱頭は2岐する。

あまり抽水状態で生育しているものは見かけないが、抽水状態のものは競合する種が少ないためか大型化していることがある。
普通、雌鱗片の中肋周辺部には褐色の部分があるが、半日陰〜日陰に生育するものの中には、雌鱗片、果胞ともに褐色味を
全く帯びないものがあり、この場合、普通のゴウソよりもやや遅れて開花する傾向が見られる。

ゴウソの変種に以下のものがある。
 ・ホシナシゴウソ(var. levisaccus)……大型で、果胞表面には乳頭状突起がなく緑色。分布は北海道、本州、九州。
 ・チャボゴウソ(var. minor)……ゴウソよりも全体に柔らかく、雌小穂は短く細い。果実の頂部は曲がった短い嘴状となる。
近似種 : ヒメゴウソ

■分布:日本全土、千島、朝鮮半島、中国
■生育環境:溜池畔、湿地、水田周辺、河川敷など。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:六甲南麓の丘陵地から北部まで広く分布する。普通種。

Fig.3 出穂して間もない小穂。(西宮市・溜池畔 2007.4/20)
 雌小穂はまだ1本しか出ていない。通常2〜3本出る。右手前のピンボケのほうが雄小穂、左奥が雌小穂。

Fig.4 種子が成熟して果胞が膨らんだ雌小穂。(西宮市・休耕田 2007.4/30)

Fig.5 頂小穂は雄性、側小穂は雌性で種子が熟すにつれて下垂する。(西宮市・溜池畔 2007.4/20)
 苞葉は長い。

Fig.6 雌小穂の拡大。(西宮市・溜池畔 2007.4/20)
 柱頭は2岐する。鱗片は果胞よりも若干短い。

Fig.7 雄小穂の部分拡大と雌鱗片。(西宮市・溜池畔 2007.4/20)
 左:雄小穂。葯は取れやすい。
 右:雌鱗片。中肋は緑色で、周囲は褐色。外辺は半透明。中肋は突出して芒となる。

Fig.8 果胞とその表面。(西宮市・溜池畔 2007.4/20)
 果胞は扁平で嘴はごく短く、口部は全縁。
 右:果胞表面には乳頭状の突起が密生する。このためゴウソの果胞は灰緑色に見える。
    ホシナシゴウソには乳頭状突起がない。  

Fig.9 種子は扁平なレンズ状でほとんど円形。(西宮市・溜池畔 2007.7/1)
 

Fig.10 鱗片や果胞に褐色部分がない青いタイプのゴウソ。(西宮市・溜池畔 2007.5/12)
  よく目にする典型的なゴウソよりも雌小穂はやや小型で、鱗片の芒は果胞よりも超出している。
  開花は普通のゴウソよりもやや遅いように思われる。市内ではこのような個体が2ヶ所で見られる。
  種子を調べてみたが、嘴は湾曲せずゴウソと変わらなかった。他に植物体の各部に相違がないか確認してみたい。
  また、市外域でも分布するかどうか、注意しておきたい。  

Fig.11 ヒメゴウソ(狭義・左)とゴウソ(右)。(兵庫県三田市・素掘り水路脇 2013.6/2)
  こうして並べると違いは明らかである。
  青白いタイプの狭義ヒメゴウソは熟しても褐色とならず、果胞は緑白色のまま落果する。
  一方、ゴウソは熟すと果胞が褐色となって落果する。果胞はゴウソのほうが大きい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 休耕田の埋没しつつある水路の縁で生育するゴウソ。(西宮市・休耕田 2007.4/30)
耕作放棄されてからかなりの年月を経た休耕田で、かつて水田であった部分は乾燥化が進み、セイタカアワダチソウやクズが生い茂っている。
かつての素掘りの水路も埋没しつつあるが、山手にある水田はまだ耕作されていて、そこからの浸透水によりかろうじて湛水している。
水路内にはタガラシが目立ち、ケキツネノボタン、カズノコグサ、タネツケバナ、セリが、水路脇の山手の水田側斜面にはかなり大きなゴウソの株が点在し、
イグサ、チゴザサ、ムシクサ、アリノトオグサ、コウガイゼキショウなどが見られる。

Fig.13 環境良好な棚田の斜面に他のスゲ類と混生するゴウソ。(西宮市・棚田 2007.5/13)
細流から水路へと水を取り込むあたりで沢山の湿生植物が見られた。
混生するスゲ類はタチスゲ、マツバスゲ、ヤチカワズスゲで、他にはミズギボウシ、ヌマトラノオ、ホソバリンドウ、サワシロギク、ワレモコウ、キセルアザミが生育していた。
Fig.14 貧栄養な小さな溜池畔で抽水状態で生育するゴウソ。(西宮市・溜池畔 2007.5/13)
ゴウソが抽水状態で生育する例は比較的珍しい。
この池畔の東側には小湿地があり、そこではイヌノハナヒゲやオタルスゲが優占するが、反対側の木陰になる場所で抽水状態の
ゴウソが数株みられた。
水面に見られる浮葉はフトヒルムシロのもの。
他地域での生育環境と生態
Fig.15 用水路脇で生育する大株のゴウソ。(兵庫県篠山市・用水路脇 2010.5/29)
棚田の山際を流れる用水路脇にサワオグルマ、ハルガヤ、ニガナ、ナツフジ、ヒカゲノカズラ、ノテンツキなどとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. ゴウソ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.163. pl.144. 平凡社
小山鐡夫, 2004 スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社
牧野富太郎, 1961 ゴウソ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 785. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ゴウソ. 『六甲山地の植物誌』 245. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ゴウソ. 『近畿地方植物誌』 158. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ゴウソ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:152.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Mar.2014

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