ヒメゴウソ(アオゴウソ)
 (ホナガヒメゴウソ含む)
Carex phacota  Spreng. カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2009.5/29)

低地の湿地、溜池畔に生える多年草。
根茎は短く叢生する。基部の鞘は葉身がなく、褐色、わずかに糸網を生じる。
有花茎の高さは30〜50cm。葉は粉緑色で幅2〜6mm。
小穂は3〜5個つき、頂小穂は雄性、側小穂は雌性。下方のものは柄があり垂れ下がる。
雌小穂の果胞には乳頭状突起を密布するため、粉白味を帯びる。
雌鱗片は淡緑色で果胞より短いか同長、凹頭または鈍頭で芒がある。
果胞は広楕円形で扁平、長さ2.5〜3.5mm、嘴は短く、口部は凹形。
痩果は広倒卵形で長さ約2mm。雌蕊柱頭は2岐する。

ヒメゴウソの変種にホナガヒメゴウソ(var, phacota)がある。
雌鱗片の芒は果胞より突出し、果胞は3〜3.5mmと、ヒメゴウソよりも大きい。(Fig.8,9,12 参照)
兵庫県下では青白いタイプのヒメゴウソは貧栄養地に生育し、ホナガヒメゴウソはやや富栄養な場所に見られ、棲み分けが見られる。
近似種 : ゴウソオタルスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■果実期:5〜6月
■西宮市内での分布:市内では今のところ、北部の1ヶ所の貧栄養な溜池畔で確認できただけで、自生地はイノシシによる撹乱が激しい。

Fig.2 基部と根茎。(西宮市・溜池畔 2009.5/29)
  根茎は短く、叢生する。基部の鞘は葉身がなく、褐色、わずかに糸網を生じる。

Fig.3 花序。(西宮市・溜池畔 2009.5/29)
  頂小穂は雄性、褐色で線形。側小穂は雌性、粉白色を帯びた緑色で、円柱形、有柄で下垂する。

Fig.4 雌小穂。(西宮市・溜池畔 2007.5/13)
  鱗片は凹頭、または鈍頭で芒があり、果胞と同長か短い。
  雌蕊柱頭は2岐し、果胞の口部はやや凹形。

Fig.5 果胞(左)と鱗片(右)。(西宮市・溜池畔 2007.5/13)
  果胞は長さ3.5mm。卵形で、表面に乳頭状突起を密布し、脈が見られる。
  鱗片の中肋は緑色、芒の縁には小歯がある。

Fig.6 痩果は広倒卵形で、長さ約2mm、茶褐色。果胞にゆったりと包まれる。(西宮市・溜池畔 2007.7/1)
  画像の痩果の表面には、果胞内側の細胞膜が剥離して張り付いている。

Fig.7 開花期のヒメゴウソ。(西宮市・溜池畔 2010.4/26)
  開花時の葯は淡黄褐色。雌小穂はまだ直立して下垂せず、柱頭は白色。

Fig.8 ホナガヒメゴウソとされる草体の雌小穂。(神戸市北区・溜池畔 2010.6/4)

Fig.9 ホナガヒメゴウソの雌小穂拡大。(神戸市北区・溜池畔 2010.6/4)
  果胞はヒメゴウソより大きく、ヒメゴウソの雌小穂よりも長いものが多く、雌鱗片は芒を含めて果胞よりも長い。
  これまで観察したうちでは、ヒメゴウソとされるものは粉白色を帯び青味も強いものが多かったが、ホナガヒメゴウソとされる
  芒が突出するものでは褐色を帯び、葉が黄緑色となるものが多かった。
  ヒメゴウソは変異の多いスゲであるが、さらに詳細な観察が必要だろう。

Fig.10 ヒメゴウソ(狭義・左)とゴウソ(右)。(兵庫県三田市・素掘り水路脇 2013.6/2)
  こうして並べると両種の違いは明らかである。
  青白いタイプの狭義ヒメゴウソは熟しても褐色とならず、果胞は緑白色のまま落果する。
  一方、ゴウソは熟すと果胞が褐色となって落果する。果胞はゴウソのほうが大きい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 満水の溜池で、抽水状態で見られたヒメゴウソ。(西宮市・溜池畔 2007.5/13)
長期にわたる降雨で、抽水状態となったもので、普段はヒメゴウソが生育している場所まで、湛水することはない。

Fig.12 オオミズゴケ群落中に生育するヒメゴウソ。(西宮市・溜池畔 2009.5/29)
自生地の溜池はオオミズゴケ群落により縁取られており、そこにサワギキョウ、イヌノハナヒゲなどとともに生育している。
オオミズゴケ群落の下側(水際寄り)は水位変動のある裸地となっており、そこにはヒメゴウソがほとんど見られない。

他地域での生育環境と生態
Fig.13 溜池畔に群生するホナガヒメゴウソ。(神戸市北区・溜池畔 2010.6/4)
改修された溜池畔に先駆植物のように群生するホナガヒメゴウソ。
付近は大規模な公園となる地域で、これまであった休耕田が潰され、自然型工法により調整池や砂防施設がつくられている。
画像は新たに造成された調整池で、その法面用土には付近から採取された休耕田の土が張られており、そこから発芽し他のスゲ類を抑えて群生したもの。
水分条件の良い場所ではこのようにホナガヒメゴウソが優勢となり、ホナガヒメゴウソが耐えられないやや乾いた場所では、丈の低いタチスゲ、アオスゲが増え、
乾いた斜面ではヤワラスゲ、ノゲヌカスゲ、アオスゲが多く見られた。

Fig.14 水路脇のオオミズゴケ群落中に生育するヒメゴウソ。(兵庫県篠山市・水路脇 2010.5/29)
山間の谷池から流れ出す水路脇に少数の生育が見られた。水路脇はオオミズゴケ群落が発達しており、すぐ隣りは自然度の高い休耕田がある。
ここに生育しているのは青白いタイプのヒメゴウソであり、当地の青白いタイプのものはオオミズゴケ群落中を好むのかもしれない。
水路脇には画像に見えるノギラン、ショウジョウバカマのほか、コシンジュガヤ、ヒメコヌカグサ、タチカモメヅル、サワギキョウ、ノリウツギ、
シケシダ、リンドウ、サワオトギリ、サワヒヨドリなどが生育している。

Fig.15 溜池直下の排水路脇に生育するヒメゴウソ。(兵庫県三田市・水路脇 2013.5/23)
山際の溜池直下の水田に湧水の素掘りの排水路が掘られており、その土堤側にヒメゴウソが生育していた。
同所的にイヌノハナヒゲ、コシンジュガヤ、マネキシンジュガヤ、ヤチカワズスゲ、チゴザサ、ミズギボウシ、ホソバリンドウ、
スイラン、キセルアザミ、ショウジョウバカマ、スギナが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. ヒメゴウソ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.163. pl.143. 平凡社
小山鐡夫, 2004 スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社
牧野富太郎, 1961 アオゴウソ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 786. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメゴウソ. 『六甲山地の植物誌』 246. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヒメゴウソ. 『近畿地方植物誌』 159. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヒメゴウソ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:156.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Mar.2014

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