オタルスゲ Carex otaruensis  Franch. カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・池畔 2007.5/24)

丘陵部〜山地の渓流沿いや、山間の湿地、池畔などに見られる中型のスゲ。多年草。
根茎は短く、密に叢生する。基部の鞘は葉身を欠き、濃褐色で一部に赤味を帯び、糸網を生じる。
花茎は高さ30〜60cmになり、先端部に小穂が4〜6個つく。頂小穂は雄性で、線形、長さ3〜6cm
側小穂は雌性で、円柱形、長さ3〜6cm、幅3〜4mm、長い柄があり、下方のものはやや垂れ下がる。
雌鱗片は狭長楕円形で鋭頭または鋭尖頭、果胞より少し短く、淡緑色。
果胞は卵状長楕円形で両凸形、長さ2.5〜3mm、淡緑色で無脈、嘴はやや長く、口部は凹形。
痩果は果胞に密に包まれ、倒卵形で、長さ1.5〜2mm。雌蕊柱頭は2岐する。

生育環境は日陰の渓流の縁から明るい湿原までと、適応範囲は広い。
また、貧栄養な湿地から、中栄養な湿地まで広範囲にわたって生育可能のようだ。
和名のオタルスゲは最初の発見地にちなんで付けられたもの。
近似種 : カワラスゲテキリスゲアゼナルコアズマナルコヒメゴウソ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:渓流沿いや溜池畔、湿地など。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:丘陵部から低山にかけての日陰〜半日陰の渓流沿いや、山間の溜池畔や湿地などに普通に見られる。

Fig.2 花序。小穂は長い柄があり、頂小穂は雄性、側小穂は4〜6個付け雌性。花茎の頭頂部に集まる。(西宮市・池畔 2007.5/24)

Fig.3 開花したばかりのオタルスゲ。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.5/5)
  開花して間もない頃の側小穂はまだ下垂しない。

Fig.4 株の基部の鞘には葉身はなく暗褐色〜赤褐色。明瞭な糸網を生じる。(西宮市・池畔 2007.5/24)

Fig.5 雌小穂 (西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)
  鱗片は淡緑色で鋭頭。短い芒を持ち、果胞より短い。雌蕊柱頭は2岐している。

Fig.6 果胞・鱗片(左)と種子(左) (西宮市・池畔 2007.5/24)
  果胞は種子を緊密に包み、やや長い嘴があり、口部は凹形。
  種子は倒卵形でごく短い嘴がある。

Fig.7 明るい中栄養な湿地で条件があうと画像のように大株となる。(西宮市・池畔の湿地 2007.5/27)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 山中の小さな貧栄養な池畔の一画に群落をつくるオタルスゲ。(西宮市・池畔 2007.5/27)
この一画では群落中にノイバラが数本と、アブラガヤが数株生育している以外、全てオタルスゲの株で埋め尽くされていた。
池の水面に見られる浮葉植物は貧栄養な溜池に多いフトヒルムシロ。

Fig.9 やや富栄養化した溜池畔で開花したオタルスゲ。(西宮市・溜池畔 2007.5/5)
長年にわたって刈り込まれ、密に叢生した大株となっている。
オタルスゲは市内ではもっとも頻繁に眼にする機会の多いスゲである。

Fig.10 湿った草地に生育するオタルスゲ。(西宮市・湿った草地 2010.5/9)
社寺境内の、かつては湧水が停滞する湿地があった場所が整地され、撹乱後にも頑強な湿生植物が復活し、オタルスゲも数多く見られた。
スゲ属では他にテキリスゲ、ゴウソ、アオスゲ、ノゲヌカスゲ、メアオスゲが生育し、コウガイゼキショウ、イグサ、スズメノヤリ、ミゾイチゴツナギ、
カニツリグサ、ニョイスミレ、ヒメスミレ、タチツボスミレ、ナガバノタチツボスミレ、ヘビイチゴ、チドメグサ、キツネノボタン、キランソウ、トウバナ、
カキドオシ、ヤブタバコ、コウゾリナ、カラスビシャク、センニンソウ、ヘクソカズラ、アケビなど、湿生から草原性もしくは畦畔植物が混生する。
整地以前にはアキチョウジが見られたが、消滅した。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. オタルスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.163. pls.144. 平凡社
小山鐡夫, 2004 スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pls.75. 保育社
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. オタルスゲ. 『六甲山地の植物誌』 246. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. オタルスゲ. 『近畿地方植物誌』 159. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. オタルスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:155.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:9th.Apr.2011

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