アズマナルコ Carex shimidzensis  Franch. カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生植物

Fig.1 (西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)

Fig.2 (西宮市・溜池畔 2013.5/27)

日当たりのよい渓流沿いの湿った斜面や湿地などに生育する大型のスゲで、夏緑性の多年草。
基部は太く幅5〜10mm、鞘は葉身を欠き淡褐色で、背は丸い。全体に柔らかく葉幅は5〜12mm。
花茎は高さは40〜80cmになり、小穂は3〜6個で、たがいにやや接近する。
頂小穂は雄性、または上部に雌花部をつけ、長さ4〜10cm。
側小穂は雌性、円柱形で長さ4〜10cm、幅4〜5mm、下垂することが多い。
雌鱗片は淡緑色、狭卵形で鋭頭、長さは果胞とほぼ同長。
果胞は狭卵形で、長さ2.5〜3mm、平滑でほとんど無脈、嘴は短く口部は凹形。熟すと膨らみ、痩果をゆるく包む。
痩果は卵円形、長さおよそ1.5mm。雌蕊柱頭は2岐する。
近似種 : カワラスゲテキリスゲアゼナルコオタルスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ ウツリョウ島
■生育環境:日当たりのよい渓流沿いの湿った斜面や湿地、溜池畔など。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:山地渓流沿いの湿った斜面や、砂防ダム内の湿地、溜池畔などで見られるが少ない。

Fig.3 アズマナルコの花序。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)
  頂小穂は雄性。側小穂は2〜5個付け、普通雌性だが、ときに先端部は雄性となることがある。

Fig.4 基部。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)
  株はやや疎らに叢生し、茎の基部は太くて0.6から1cm近くに達し、鞘には葉身がなく、稜もない。
  テキリスゲ、アゼナルコに似るが、テキリスゲは葉が硬くて著しくざらつき、株は密に叢生、基部はアズマナルコほど太くならず、糸網を生ずる。
  アゼナルコは株が密に叢生し、基部は太くなく、鞘の背面に稜があり、僅かに糸網を生ずる。

Fig.5 雌小穂 (西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)
  鱗片は淡緑色で鋭頭、果胞と同長かやや短い。
  鱗片の周辺部が一部褐色に見えるが、これはカメムシやアブラムシによる食害によって痛んだためで、本来は白〜淡緑色。

Fig.6 果胞(左)と未熟な種子(左) (西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/5)
  果胞は狭卵形で痩果をゆるくと包む。
  種子は広卵形で熟すと褐色になり、表面に微細な凹凸がある。

Fig.7 アズマナルコの萌芽。 (西宮市・砂防ダム内の湿地 2008.4/22)
  アズマナルコは冬期には地上部は枯れ、地下の根茎に翌年の新芽をつくる。
  翌春の4月になると根茎の新芽が発芽する。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 砂防ダム内にできた湿地の脇の斜面に生育するアズマナルコ。(西宮市 2007.6/5)
アズマナルコの生育箇所は斜面の地下水の滲み出す場所よりわずかに上部で、湿地を点々と囲むように生育している。
ここでは同じような立地にアケボノソウやリンドウ、ウシクグ、カワラスガナ、アイバソウなどが見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. アズマナルコ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.165. pl.146. 平凡社
小山鐡夫, 2004 スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミヤマナルコスゲ(アズマナルコ). 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 787. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アズマナルコ. 『六甲山地の植物誌』 248. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アズマナルコ. 『近畿地方植物誌』 160. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. アズマナルコ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:159.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.June.2013

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