アゼナルコ Carex dimorpholepis  Steud. カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)

Fig.2 (大阪府・淀川河川敷 2013.5/1)

日当たりのよい湿地や河川敷などに生育する大型のスゲで、多年草。抽水状態で生育しているものもよく見かける。
低山地や丘陵部よりも低地に多く、比較的富栄養な場所でも生育が見られ、ヨシ群落中に生育するものなどはかなり大型化する。
サンカクイ、ヒメガマ、ヨシ、ツルヨシなど、生活環境の重複する種は多く、それらの種とともにどのような競合・棲み分けが
成されているのか興味深い種だ。

根茎は短く、密に叢生する。基部の鞘には葉身がなく、褐色で、背には竜骨があり、少し糸網を生じる。葉幅4〜10mm。
花茎は高さ40〜80cmになり、小穂は4〜7個つき、上方のものは雌雄性、下方のものは雌性となり、柄があって下垂する。
雌小穂は円柱形で長さ3〜6cm、幅は約5mm。雌鱗片は淡緑色でやや褐色を帯び、凹頭、または円頭で芒があり、果胞より長い。
果胞は扁平で長さ2.5〜3mm、表面に乳頭状突起を密布し、無脈。果胞の嘴は短く、口部は全縁。
痩果は倒卵形で、長さ1.5〜2mm。雌蕊柱頭は2岐する。
近似種 : カワラスゲテキリスゲアズマナルコオタルスゲ

■分布:日本全土、朝鮮半島、中国、インドシナ
■生育環境:日当たりの良い湿地、河川敷。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:平野〜丘陵部の溜池畔や河川敷に見られる。仁川や武庫川河川敷には群生が見られる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・休耕田 2010.6/6)
  根茎は短く、密に叢生する。

Fig.4 アゼナルコの花序。(西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)
  頂小穂は雌雄性。側小穂は4〜7個付け雌性。長い柄があり、下垂する。

Fig.5 花序の拡大。(西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)

Fig.6 株の基部の鞘には葉身はなく褐色。わずかに糸網を生じる。(西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)

Fig.7 雌小穂 (西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)
  鱗片は淡緑色でほとんどが凹頭。やや長い芒を持ち、果胞より超出する。

Fig.8 果胞・鱗片(左)と種子(左) (西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)
  先の画像の鱗片はほぼ凹頭だったが、この画像のものはそうではない点に注意。鱗片ひとつとってみても変異がある。
  雌鱗片は果胞よりも長い。突出した芒の縁には小刺が生じている。
  果胞は扁平で種子をゆったりと包む。
  種子は倒卵形で短い嘴がある。

Fig.9 冬期のアゼナルコ (西宮市・武庫川河川敷 2008.12/23)
  兵庫県南部の低湿地ではアゼナルコは半常緑越冬する。
  後方には半常緑越冬するサンカクイの茎がまばらに群生しているのが見える。

Fig.10 開花中の雌花群 (西宮市・細流脇 2010.5/17)
  雌花から2岐する白い柱頭が無数に出ている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 池畔の湿原に点々と生育するアゼナルコ。(西宮市・池畔の湿地 2007.5/31)
湿原はチゴザサが優占し、その間にアゼナルコ、カモノハシ、ハリコウガイゼキショウ、キショウブなどの大型の草本が点在している。
数年前にはクサヨシやイヌゴマも多数見られたが、序々にチゴザサが占拠していってるようだ。
チゴザサの影響の及ばない周辺部ではイヌゴマ、ホソイ、タチスゲ、コウガイゼキショウ、ゴウソが若干数だが健在だ。

Fig.12 河川敷に生育するアゼナルコ。(西宮市・武庫川河川敷 2007.6/4)
武庫川下流部の河川敷の水際部分のほとんどは、ナガエツルノゲイトウ、チクゴスズメノヒエ、キシュウスズメノヒエといった帰化種で
覆いつくされているといっても過言ではないが、ヒメガマ、ヨシ、ツルヨシ、クサヨシ、サンカクイ、アゼナルコなどは所々で叢生しているのが観察できる。
匍匐枝を次々と伸ばし、平面を覆っていくナガエツルノゲイトウも、空間を線形の葉で縦に勢い良く伸びてゆく大型の多年生の草本には、
さすがに打ち勝つこともできないのだろう。

このケースと、1つ前のケースを合わせて考察すると、平面方向に広がる植物に対しては、残存する大株の個体は影響をあまり受けないようだ。
猛威を振るう外来種に対して、分布域をひろげられるかどうかに関しては、アゼナルコは匍匐枝を伸ばして殖えるタイプではないので、
種子の発芽率と実生苗の成長速度が関わってくるだろう。

Fig.13 護岸の隙間に生育するアゼナルコ。(西宮市・甲陽園大池 2010.5/2)
甲陽園大池の護岸の石垣に生育しているもの。
かつてはトチカガミが生育する池であったが、護岸改修により今ではトチカガミは姿を消してしまった。
園芸種のスイレンが投げ込まれて繁殖し、外来種のキショウブ、キシュウスズメノヒエ、トゲミノキツネノボタンが幅をきかす。
アゼナルコはヒメガマとともに、ここでは数少ない在来の湿生植物のひとつである。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. アゼナルコ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.163. pl.144. 平凡社
小山鐡夫, 2004 アゼナルコスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.299,302〜303. pl.75. 保育社
牧野富太郎, 1961 アゼナルコスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 786. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アゼナルコ. 『六甲山地の植物誌』 243. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アゼナルコスゲ. 『近畿地方植物誌』 155. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. アゼナルコ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:144.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.June.2013

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