テキリスゲ-西宮の湿生・水生植物-

テキリスゲ	Carex kiotensis 　Franch. et Sav.	カヤツリグサ科
湿生植物


Fig.1　（西宮市・雑木林の細流脇　2010.5/17）

Fig.2　（西宮市・社寺境内　2013.6/5）丘陵～山地の川沿いや砂防ダム内の湿地、湧水のある斜面に生育する多年草。日なた～半日陰を好む。根茎は短く叢生する。基部の鞘は葉身を欠き、濃褐色で硬く糸網を生じる。葉は幅4～8mmで、著しくざらつく。花茎は高さ40～60cmになり、著しくざらつき、小穂は4～7個がやや接近してつく。頂小穂は通常雄性で、長さ4～10cmの線形。側小穂は雌性、円柱形で長さ4～10cm、下方のものは下垂する。雌鱗片は淡緑色、倒卵形で凹頭、または円頭で短い芒があり、果胞と同長かやや短い。果胞は広卵状楕円形で長さ2～2.5mm、平滑で無脈、嘴は短く、口部には短い2歯がある。果胞は熟すと膨らんで、痩果をゆったりと包む。痩果は広楕円形で、長さ1～1.5mm。雌蕊柱頭は2岐する。テキリスゲによく似たものに以下の種がある。トダスゲ(C. aequialta)は関東～近畿、九州の河畔に稀に生育し、基部の鞘は黒紫色または赤褐色で糸網を生じ、葉の下面は粉白色を帯びる。側小穂は直立し、果胞は卵円形、平滑で細脈があり、嘴は軽く外曲し、口部は全縁。ヤマテキリスゲ(C. flabellata)は北海道、本州の主に日本海側に生育し、葉幅5～12mm、下面は粉白色を帯び、葉茎ともに平滑。果胞は広卵状楕円形で、嘴は短く口部は凹形で、平滑で細脈がある。近似種　：　ヤマテキリスゲ、カワラスゲ、アズマナルコ、アゼナルコ、オタルスゲ ■分布：北海道、本州、九州、中国 ■生育環境：山地帯の川沿いや湿った斜面、砂防ダム内に見られる。 ■花期：5～6月 ■西宮市内での分布：六甲山麓の砂防ダム内や細流のほとりなどで見られる。

↑Fig.3　テキリスゲの基部。（西宮市・林縁の細流脇　2007.5/27）　基部の鞘には葉身はなく、濃褐色。画像では見にくいが、糸網を生じている。

↑Fig.4　花序の様子。ふつう、頂小穂は雄性、側小穂は雌性。（西宮市・砂防ダム内の砂地　2007.5/27）　小穂には長い柄があり下垂する。

↑Fig.5　ときに側小穂の一部や先端が雄花になることがある。（西宮市・林縁の細流脇　2007.5/27）

↑Fig.6　小穂の拡大。（西宮市・砂防ダム内の砂地　2007.5/27）　雌蕊の柱頭は2岐。鱗片は果胞と同長かやや短く、その先端は芒となる。

↑Fig.7　鱗片（左）と果胞（右）。（西宮市・砂防ダム内の砂地　2007.5/27）　鱗片は淡い緑色で芒がある。　果胞は倒卵形で嘴は短く、口部は凹形で、縁が短い2歯となる。

↑Fig.8　冬期のテキリスゲ。（西宮市・小湿地　2008.2/7）　冬期には地上部はほとんど枯れ、わずかに緑色の部分が見える。

西宮市内での生育環境と生態


Fig.9　砂防ダム内の小さな湿地に生育するテキリスゲ。(西宮市・砂防ダム内の砂地　2007.5/27) 周囲にはイグサ、オタルスゲ、ヤブヘビイチゴ、サワオトギリなどが生育する、成立して間もない湿地だった。

Fig.10　渓流畔の砂地に生育するテキリスゲ。(西宮市・渓流畔　2009.5/28) 渓流畔の増水すれば水につかりそうな砂地に数株のテキリスゲが生育していた。砂地上にはコアカソ、コウガイゼキショウ、コナスビ、ナガバノタチツボスミレ、ミツバアケビ、コブナグサなどが生育していた。すぐ後方のウツギなどの潅木類の下にはヒゴクサ、アリマイトスゲ、クサスゲが生育している。この場所に生育していたテキリスゲは、2年後には大雨に流されて見られなくなった。
【引用、および参考文献】（『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。）大井次三郎, 1982.　テキリスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫（編）　　　　　　　『日本の野生植物草本Ⅰ 単子葉類』　p.163. pl.143.　平凡社小山鐡夫, 2004　スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑草本編（3）単子葉類』　p.298～303. pl.75.　保育社牧野富太郎, 1961　テキリスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚（補遺・編）『牧野新日本植物図鑑』　786.　北隆館勝山輝男.　2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会（編）『神奈川県植物誌　2001』　453～456. 神奈川県立生命の星・地球博物館勝山輝男, 2005　アゼスゲ節. 『日本のスゲ』　92～123　文一総合出版谷城勝弘, 2007　スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』　46～56　全国農村教育協会小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. テキリスゲ. 『六甲山地の植物誌』 244.　（財）神戸市公園緑化協会村田源. 2004. テキリスゲ. 『近畿地方植物誌』 157.　大阪自然史センター黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. タニガワスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:149. 　　　　　　　兵庫県立・人と自然の博物館最終更新日：7th.June.2013