ヤマテキリスゲ | Carex flabellata H. Lev. et Vaniot | カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節 |
湿生植物 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.5/23) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・山間の溜池跡 2013.5/24) 主に山地の湿地や水湿のある山の斜面などに生育する多年草。 根茎は短く、叢生する。基部の鞘は葉身を欠き、赤褐色、糸網を生じる。 葉は幅5〜12mmで、平滑で裏面は粉白色を帯びる。 有花茎は高さ40〜60cmで平滑。小穂は3〜6個、やや接近してつき、苞は葉状で無鞘。 頂小穂は雄性、線形で長さ3〜5cm。側小穂は雌性または雄雌性、円柱形で長さ2〜5cm、幅3〜4mm、下方のものは長い柄があって垂れ下がる。 雌鱗片は淡緑色、卵状長楕円形で先は短い芒となり、果胞より短い。 果胞は広卵状楕円形で長さ2〜2.5mm、嘴は短く、口部は凹形、平滑で細脈があり、熟すと著しくふくらみ、痩果をゆるく包む。 痩果は楕円形〜広楕円形で断面はレンズ状、長さ1.5mm。柱頭は2岐する。 テキリスゲ(C. kiotensis)に似るが、テキリスゲは茎・葉ともに著しくざらつき、雌鱗片と果胞は同長であることにより区別できる。 アズマナルコ(C. shimidzensis)も似るが、アズマナルコの基部は円柱状で太く、鞘は淡褐色で糸網はないことにより区別できる。 また雌小穂も長さ3〜12cmと、かなり長い 近似種 : テキリスゲ、 アズマナルコ ■分布:北海道、本州(主に日本海側)、四国(稀) ■生育環境:山間の湿地や、渓流畔、溜池畔、湿った山の斜面など。 ■果期:5〜6月 ■西宮市内での分布:市内には見られない。兵庫県の中北部、特に日本海側に記録が多い。 |
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↑Fig.3 基部。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.5/23) 基部の鞘に葉身は無く、赤褐色で糸網を生じる。 |
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↑Fig.4 葉表。(兵庫県宍粟市・沢源頭部の湿地 2011.6/8) 葉は表面にやや光沢があり、濃緑色、幅5〜12mmで、平滑かわずかにざらつき、3脈があり、断面はM字形。 |
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↑Fig.5 葉裏。(兵庫県宍粟市・沢源頭部の湿地 2011.6/8) 裏面は粉白色を帯びて光沢はなく、中央脈が膨出して目立つ。 |
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↑Fig.6 有花茎。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.5/23) 果実形成期の有花茎は斜上し、下方の長い柄のある側小穂は垂れ下がる。 頂小穂は雄性。側小穂は雌性または雄雌性でるが、画像のものは短い雄花部がある雄雌性である。 アゼスゲ節では側小穂が雄雌性となる例が多く見られる。 |
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↑Fig.7 未熟な側小穂の一部拡大。柱頭は2岐する。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.5/23) |
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↑Fig.8,9 熟した花序(上)と側小穂雌花部の拡大(下)。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.6/14) 果胞はふくらみ、雌鱗片は果胞より短く、先は芒となる。 |
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↑Fig.10 果胞(左)と痩果(右)。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.6/14) 果胞は広卵状楕円形で長さ2〜2.5mm、嘴は短く、口部は凹形。 痩果は楕円形〜広楕円形で断面はレンズ状、長さ1.5mm。 |
生育環境と生態 |
Fig.11 山間の溜池畔に生育するヤマテキリスゲ。(兵庫県篠山市・山間の溜池畔 2009.5/23) 溜池の土堤の水際や流れ込み部分に点々と生育しており、大株のものも見られる。 同所的にゴウソ、タチスゲ、イグサ、サワオトギリ、アカショウマ、ニガナなどが生育していた。 |
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Fig.12 管理放棄されて湿地化した溜池跡に生育するヤマテキリスゲ。(兵庫県篠山市・管理放棄された溜池跡 2009.6/14) 画像奥に見える叢生した大株の集団がヤマテキリスゲで、ここでは多数の個体が見られた。 画像手前中央の針状の葉の草体はサトヤマハリスゲ。サトヤマハリスゲとヤマテキリスゲの間の浅水域を覆う浮葉植物はフトヒルムシロで、 陸生形へと移行中の集団である。 この溜池跡は大部分がゴウソ、ヤマテキリスゲ、イグサ、ヌマトラノオ、ムカゴニンジン、チダケサシ、アイバソウ、コマツカサススキによって占められ、 浅水域ではフトヒルムシロが優占し、ヒツジグサが少量混じる。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. ヤマテキリスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.163. 平凡社 小山鐡夫, 2004 アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社 勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版 村田源. 2004. ヤマテキリスゲ. 『近畿地方植物誌』 156. 大阪自然史センター 黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヤマテキリスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:146. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:15th.Mar.2014 |