コオニタビラコ(タビラコ) Lapsana apogonoides  Maxim. キク科 ヤブタビラコ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・水田 2008.3/29)

耕作前の日当たりよい水田や休耕田、それらに続く湿地などで見られる越年草(2年草)。
水田の圃場整備が進んだ昨今では、平野部ではあまり見かけないようになってしまった。
根生葉はロゼット状に広がり、倒披針形、頭大羽状に深裂し、長さ4〜10cm、幅1〜2cm。
頂小片は亀甲状で、各裂片には刺状の鋸歯がある。ほぼ無毛。
花は花茎頂端に単生し、黄色、普通6〜9個の舌状花が集まった頭状花序をなし、径約1cm、舌状花の先端は4〜5浅裂する。
総苞は円筒形で、内片は5〜6個あり披針形、外片は鱗片状で小さい。
花後には総苞はヤブタビラコのように膨らまず、筒状のままで、痩果には冠毛はなく、長さ4.5mmで先端に2〜4個の突起がある。

よく似たものにオニタビラコYoungia japonica)とヤブタビラコLapsana humilis)がある。
両種ともに水田の畦などに見られることも多く、特にヤブタビラコはコオニタビラコと酷似し、混生している場合は紛らわしい。
オニタビラコはコオニタビラコよりかなり大型で、全体に毛が多く、花茎を長く直立して、高さ20〜100cmとなり、
花茎頂部は多数分枝して多くの花をつけ、花後には冠毛のある痩果ができる。
根生葉は頭大羽状に深裂するが、頂小片は長楕円形〜卵形、ときに亀甲状と一定せず、
頂小片の基部が側小片とはっきりと分化しないこともあり変異が多い。
ヤブタビラコはコオニタビラコに酷似するが、全体に軟毛があり、とくに花茎や葉柄ではそれが目立つ。
また、根生葉はロゼット状に地表に広がらず、やや立ち上がり気味に斜開する。
花茎は上部で分枝することが多く、舌状花は多く、花後、総苞は丸く膨らみ、痩果には冠毛がなく、突起を生じない。

「田平子」は水田にロゼット状の根生葉を平たく広げた姿から来たもの。
「春の七草」のホトケノザは本種のことで、シソ科オドリコソウ属のホトケノザではなく
「仏の座」も、広げた根生葉が蓮華台を思わせることに由来する。
食用となり、七草粥での利用法が一般的。さっと茹でておひたしやあえものにしてもおいしいが、近年少なくなったので、
大量に採取するのが憚られ、もっぱら七草粥だけの利用にとどめている。
オニタビラコやヤブタビラコも食用となる。
近似種 : ヤブタビラコ、 オニタビラコ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:水田や休耕田などの湿った場所。
■花期:3〜5月
■西宮市内での分布:平地の水田では見られず、中・北部の棚田で見られる。

Fig.2 ロゼットから蕾を出しはじめたコオニタビラコ。(西宮市・休耕地 2007.4/8)
  蕾が開花に向けて沢山付いている様子が判る。

Fig.3 コオニタビラコの花冠。(西宮市・休耕地 2007.4/8)
  径約1cm。舌状花が6〜12個並び、先端は4〜5浅裂する。

Fig.4 長く伸びた花茎。(西宮市・水田 2010.4/26)
  花茎は分枝して枝の先に頭花を単生する。
  開花後期ともなると花茎は長くのびて、花後の頭花の柄は下に向かって湾曲し、頭花は下向きとなって熟す。

Fig.5 熟した頭花。(西宮市・水田 2010.4/26)
  熟した頭花は総苞内片を平開し、数個の痩果が露出する。

Fig.6 痩果。(西宮市・水田 2010.4/26)
  痩果には冠毛はなく、淡黄褐色、約4mm、上端(画像の右側)に外曲する小突起がある。表面には縦条があり、稜上には短毛が生える。

Fig.7 刈り取り後の水田で発芽した実生苗。(兵庫県三田市・水田 2007.10/7)
  双葉は卵形〜長卵形で葉柄がある。出たばかりの本葉は2枚までは双葉より多少広い卵形で、
  3〜5枚目ではまだ羽状にはならないが、形は亀甲状となり棘状の鋸歯も備わる。

Fig.8 晩秋の草体。(西宮市・水田 2008.11/16)
  葉身はまだ単葉で、羽状複葉となっていない。

Fig.9 冬期の水田でロッゼット状態で越冬するコオニタビラコ。(西宮市・水田 2009.1/4)

Fig.10 主根が長く伸びる地下部。(西宮市・水田 2008.1/7)
  七草粥のために採取したもの。
  主根は地中深くまで伸び、この時期では普通10cmを越す。
  地上部と同様、根も食用となる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 冬期の水田を埋め尽くすコオニタビラコの群生。(西宮市・水田 2008.2/1)

Fig.12 半日陰の湿地に見られた群生。(西宮市・小湿地 2008.2/25)
地下水の影響によるものなのか、Fig.11 のものに比べ、草体はみずみずしく、生長もはやい。

Fig.13 農耕地近くの鉱物質の湿地に抽水状態で生育するコオニタビラコ。(西宮市・小湿地 2008.2/25)
溜池畔や農耕地の湧水がある場所では、稀に抽水状態で生育しているものを見かける。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北村四郎, 1981. キクネ科ヤブタビラコ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.234. pls.224. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 キクネ科ヤブタビラコ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.14〜15. pls.4. 保育社
牧野富太郎, 1961 タビラコ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 681. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 コオニタビラコ. 『野草図鑑 4 たんぽぽの巻』 pls.42. p.44. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998 コオニタビラコ. 『六甲山地の植物誌』 208. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コオニタビラコ. 『近畿地方植物誌』 25. 大阪自然史センター
小山博滋・黒崎史平・高野温子 2007. コオニタビラコ. 兵庫県産維管束植物8 キク科ヤブタビラコ属. 人と自然17:174. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:20tht.May.2010

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