コウライイチイゴケ | Taxiphyllum alternans (Card.) Z.Iwats | ハイゴケ科 キャラハゴケ属 |
湿生〜抽水蘚類 兵庫県RDB Aランク種 |
Fig.1 (兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 湿地や休耕田、畦畔、渓流畔、湧水地周辺などに抽水性〜陸生する蘚類。 水際付近に黄緑色〜黄褐色を帯びたマットをつくる。茎は長く6cm前後、不規則に分枝する。 枝は葉をゆるくつけ、枝先を除いて葉はあまり重ならず、乾いても展開するが、葉先は下方を向き、枝は葉を含めて幅2〜4(〜5)mm。 偽毛葉は三角形。枝葉は卵形〜広い卵形で凹み、長さ2〜4mm、多くは相称、葉先はやや急に尖り、葉縁はほぼ全縁または細かい歯がある。 中肋は2叉して短いが、ときに葉長の1/3前後となる。葉身細胞は線形、幅6〜10μ。 翼部の細胞は数が少なく、矩形で1〜3列、葉縁で2〜5個の細胞が縦に並ぶ。凾ヘ見つかっていない。 キャラハゴケ(T. taxirameum)は似た環境に生えることもあるが、やや小型で、葉の長さ1.0〜2.5mm、葉身細胞上端にはふつうパピラ(乳頭状突起)がある。 ミズキャラハゴケ(T. barbieri)は熱帯アジア産の外来種で、全周にはっきりとした微鋸歯があり、葉頂部では顕著。葉身細胞の長さ50〜100μ。偽毛幅は基部で2〜4細胞。 サナダゴケ(T. aomoriense)は葉が密に重なりあい、長さ1.5〜2mmで、枝の幅は葉を含めて1.5〜2mm、やや乾いた場所に生える。 トガリバイチイゴケ(T. cuspidifolium)は葉がふつう丸く茎につき、枝は扁平とならず、枝の幅は葉を含めて1.5〜2mm。兵庫県内では石灰岩地以外の場所で見つかっている。 ユガミタチヒラゴケ(T. arcuatum )は葉が著しく後方に湾曲し、葉先は円頭〜広い鈍頭となり、葉の全形は勾玉状となる。 近似種 : キャラハゴケ、 ミズキャラハゴケ、 サナダゴケ、 トガリバイチイゴケ、 ユガミタチヒラゴケ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、北アメリカ東部。 ■生育環境:湿地や休耕田、畦畔、渓流畔、湧水地周辺、湿った草の上など。 ■西宮市内での分布:北部の休耕田にわずかながら生育している。 |
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↑Fig.2 全草標本。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 茎は長く6cm前後、不規則に分枝し、茎や枝は扁平である。 |
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↑Fig.3 茎腹面の拡大。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 褐色の仮根が束になって茎から出ている。 |
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↑Fig.4 枝の一部拡大。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 枝は葉をゆるくつけ、枝先を除いて葉はあまり重ならない。 |
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↑Fig.5 枝の幅は葉を含めて幅2〜4(〜5)mm。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) |
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↑Fig.6 さらに拡大した枝。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 枝葉は卵形〜広い卵形で凹み、多くは相称、葉先はやや急に尖り、ふつう2叉する中肋がある。 |
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↑Fig.7 乾くと葉先は下に曲がる。(西宮市・休耕田 2015.3/17) |
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↑Fig.8 偽毛葉。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 偽毛葉は特に休止芽周辺に見られ、三角〜長三角状で、画像の長いもので長さ0.52mm、後方の短いものは長さ0.2mm。 |
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↑Fig.9 透過光で見た偽毛葉。(西宮市・休耕田 2015.3/17) |
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↑Fig.10 中肋。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 中肋はふつう2叉して短いが、ときに葉長の1/3前後となる。 |
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↑Fig.11 葉身細胞。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 1目盛は2.5μm。葉身細胞は線形で、長さ110〜170μに及び、幅は6.5〜10.2μあった。細胞膜は薄膜。 細胞上端にはキャラハゴケに見られるようなパピラは見られない。 |
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↑Fig.12 葉先。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 枝葉の先にはわずかに鋸歯が見られた。鋸歯の全くない集団もあるようだ。 |
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↑Fig.13 翼細胞。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 1目盛は2.5μm。翼部の細胞は数が少なく、矩形で1〜3列、長さ56〜67μだった。葉縁では2〜5個の細胞が縦に並ぶ。 |
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↑Fig.14 茎の横断面。(西宮市・休耕田 2015.3/17) 弱い中心束がある。表面付近の細胞は小さく、厚膜。 |
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↑Fig.15 冬期の冬芽の様子。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.16 休耕田に生育するコウライイチイゴケ。(西宮市・休耕田 2015.3/17) 休耕して10年程経過している休耕田にヤリノホゴケ、コツボゴケなどと混生している。 この休耕田では広い範囲がヤリノホゴケによって覆われており、コウライイチゴケは縁の部分で1u程度のマットを作っている。 草本ではアゼガヤ、カズノコグサ、ムツオレグサ、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、チゴザサ、イヌホタルイ、ヒデリコ、テンツキ、 カワラスガナ、タマガヤツリ、ヒメクグ、イボクサ、コウガイゼキショウ、イグサ、オモダカ、キツネノボタン、タガラシ、ノミノフスマ、 タネツケバナ、スカシタゴボウ、セリ、チドメグサ、ゲンゲ、クサネム、コケオトギリ、コモチマンネングサ、チョウジタデ、ムシクサ、 アゼナ、タケトアゼナ、コオニタビラコ、アメリカセンダングサなどの水田雑草が生育し、湛水部分ではミズオオバコが見られる。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.17 休耕田の地表をマット状に覆うコウライイチイゴケ。(兵庫県三田市・休耕田 2015.1/8) 河川の氾濫原由来と見られるチゴザサの優占する休耕田にコウライイチイゴケが広くマット状に覆っていた。 チゴザサが茂っている時期では発見は難しいだろう。 同所的にキツネノボタン、タガラシ、チドメグサ、コケオトギリ、ムシクサなどの生育が見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 岩槻善之助, 1972. キャラハゴケ属. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.236〜238. pl.32. Fig.124. 保育社 兵庫県. 2010. コウライイチイゴケ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落)』. (財)ひょうご環境創造協会 最終更新日:18th.Mar.2015 |