マツカサススキ Scirpus mitsukurianus  Makino カヤツリグサ科 クロアブラガヤ属
湿生〜抽水植物  兵庫県RDB Bランク種

Fig.1 (兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)

Fig.2 (兵庫県神戸市・休耕田 2011.9/25)

湿地、休耕田、溜池畔などの日当たりのよい湿った場所に生育する大型の多年草。
茎は直立し剛強で、丸みのある3稜形、高さ80〜180cm、ふつう5〜7個の節がある。
葉は硬く線形で、扁平、幅4〜8mm、葉縁はざらつき、基部は長い筒状の鞘となって茎を包む。
花序は散房形で3〜5個が頂生および側生する。頂生のものは長さ5〜10cm、苞葉は3〜5個つき、下方の2〜3個は花序よりも長い。
小穂は柄がなく、長さ4〜5mm、楕円形、熟すと濃褐色となり、10〜25個づつ集まって球状の花穂をつくる。
鱗片は披針形、長さ2〜3mm、幅0.5〜0.8mm、膜質で中肋付近は淡褐色。
痩果は倒卵形、長さ1mm、淡色、上端は嘴状。刺針状花被片は8〜10本、糸状で屈曲し、痩果よりもはなはだ長く、先端はざらつくがほぼ平滑。
柱頭は3岐する。

近縁種のコマツカサススキS. fuirenoides)はマツカサススキよりも普通に見られ、球状の花穂が少なく、鱗片は長卵形で幅が1〜1.2mm。
ヒメマツカサススキS. karuizawensis)は本州中部のみに生育し、球状花序はやや多数で、5〜10個の小穂からなり、
頂花序は2回分枝し、鱗片は狭卵形で幅1〜1.3mm。

近似種 : コマツカサススキ、 ヒメマツカサススキ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池、休耕田など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:浜甲子園の記録があるが、現在では見られない。県下でも比較的稀な種である。

Fig.3 全草標本。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  茎は剛強で、丸みを帯びた3稜形で、高さ1mを越えることが多い。
  花序は頂生するほか、上方の節からも側生する。

Fig.4 基部。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  基部は肥厚して、残った古い葉に包まれ、黒褐色〜濃褐色。


Fig.5,6 頂生する花序。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  頂生する花序は散房形で、花序枝は1〜2回分枝する。基部につく苞葉のうち2〜3個は花序よりも長い。

Fig.7 球状の花穂。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  分枝した花序枝に、柄のない小穂が10〜25個づつ集まって球状の花穂をつくる。
  熟した小穂は濃褐色となり、細い鱗片の間から長い刺針状花被片が出て、もじゃもじゃとした印象を受ける。

Fig.8 鱗片。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  鱗片はこの仲間では細く、幅0.5〜0.8mmで、近似種との明瞭な区別点となる。

Fig.9 痩果。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
  痩果は倒卵形、横断面は扁平な3稜形、長さ1mm、淡色、上端は嘴状。屈曲する長い刺針状花被片を持つ。

生育環境と生態
Fig.10 溜池で群生するマツカサススキ。(兵庫県香美町・溜池畔 2009.10/10)
高原状のゆるやかな傾斜地の棚田にある溜池に群生している。
池の外縁部にはオギが群生し、その内側の水際付近で帯状にマツカサススキが陸生〜抽水状態で群落を作っている。
マツカサススキの群落はところどころでマコモ群落と置き換わっている場所があり、遠浅の部分ではガマ群落が発達していた。
池内にはジュンサイ群落が発達し、イヌタヌキモが若干ながら生育している。
マツカサススキ群落内にはショウブ、ヌマトラノオ、ミソハギ、シロネ、ミズオトギリ、オヘビイチゴ、ヒナガヤツリ、チドメグサが生育している。
溜池上部には数枚の棚田があって排水が流入すること、混在する湿生植物の種などから、やや中栄養な溜池と考えられる。

Fig.11 休耕田でエゾアブラガヤとともに生育するマツカサススキ。(兵庫県神戸市・休耕田 2011.9/25)
耕作放棄された溜池直下の山間棚田にエゾアブラガヤ(左後方)とともに多くの個体が点在していた。
溜池から遠い場所は遷移が進みつつあり、ススキ、セイタカアワダチソウが繁茂しつつあるが、里山環境を保全するNPO団体により
草刈りが行われているようであり、溜池直下部分の湿地化した休耕田は今後も安泰のようである。
溜池直下部の湿地ではヤナギタデ、ヌカキビ、チョウジタデ、タカサブロウ、イボクサ、ミソハギ、イヌシカクイ、イグサ、アゼスゲなどの
水田雑草に混じってタコノアシも見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 クロアブラガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.219〜222. pls.56. 保育社
牧野富太郎, 1961 マツカサススキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 765. 北隆館
堀内洋. 2001. クロアブラガヤ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 431〜434. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 マツカサススキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 108,109. 山陽新聞社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. マツカサススキ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. マツカサススキ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター
谷城勝弘, 2007 クロアブラガヤ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 168〜170. 全国農村教育協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. マツカサススキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:179.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:19th.Nov.2011

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