コマツカサススキ Scirpus fuirenoides  Maxim, カヤツリグサ科 クロアブラガヤ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2013.8/23)

Fig.2 (兵庫県三田市・湿地 2011.8/15)

日当たりのよい貧栄養な溜池畔、湿地などに生える多年草。
有花茎は硬く、高さ80〜120cm、横断面は鈍3稜形、4〜5節ある。
葉は堅く線形、幅3〜4mm。1〜2個の側生する分花序があり、頂生の分花序は5〜6個の花穂からなる。
苞葉の葉身は葉状、花序よりも長い。小穂は楕円形、長さ5〜7mm、完熟すると褐色となり、10〜30個集まって球状の花穂をつくる。
鱗片は長卵形、長さ3〜4mm、幅1〜1.3mm、鋭頭。痩果は倒卵形、長さ1.3〜1.5mm、淡褐色、上端に嘴状部がある。
刺針状花被片は5〜6個、糸状で屈曲し、痩果よりもはなはだ長く、上部は上向きの小刺がある。柱頭は3岐する。

よく似たものに平地の湿地に生育するマツカサススキS. mitsukurianus)があるが、花序枝が分岐し、
鱗片の幅が約0.7mmの披針形である点で区別できる。
ヒメマツカサススキS. karuizawensis)は本州中部のみに生育し、球状花序はやや多数で、5〜10個の小穂からなり、
頂花序は2回分枝し、鱗片は狭卵形で幅1〜1.3mm。
アブラガヤとの種間雑種にコマツカサアブラガヤS. × fujimakii)があり、両種の中間的な形質を持つ。
花序の柄はざらつき、茎は鈍3稜形で、葉幅6〜7mm、小穂の先端は丸く、痩果の先端の嘴状突起はアブラガヤのものと同じ長さで、
花茎の中ほどまで側生花序がつく。
近似種 : マツカサススキアブラガヤアイバソウ、 ヒメマツカサススキ、クロタマガヤツリ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:日当たりのよい貧栄養な溜池畔、湿地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:4ヶ所の湿地や溜池畔で確認できた。やや稀。

Fig.3 開花中のコマツカサススキ。(西宮市・湿地 2004.9/3)
  この時期は雌蕊柱頭が伸びて、白く見える。

Fig.4 花序枝は分枝しない。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  同属のマツカサススキは花序枝が分枝して、沢山の分花序をつける。

Fig.5 分花序の花穂。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  小穂が10〜30個集まって、花穂をつくる。

Fig.6 小穂。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  楕円形で鈍頭。鱗片は幅が1〜1.3mmあり、鋭頭、褐色。

Fig.7 痩果。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  痩果は淡褐色、長さ1.3〜1.5mmで、上部は嘴状となる。
  刺針状花被片は痩果よりもかなり長く、屈曲が著しい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 貧栄養な溜池畔で抽水状態で生育するコマツカサススキ。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
市内の湿地や溜池では群生することはなく、あちこちで点々と生えていることが多い。
水面の浮葉植物はフトヒルムシロ。この他に浮葉植物ではジュンサイ、ヒツジグサ、ヒシが見られ、抽水性のものではクログワイ、
ハリコウガイゼキショウが見られ、ホタルイ、ヤチカワズスゲ、オタルスゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、イヌノハナヒゲ、ヌマガヤ、サワギキョウ、
サワシロギク、モウセンゴケなどの湿生植物が多い。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 溜池畔の貧栄養湿地に生育するコマツカサススキ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/8)
緩い傾斜の溜池畔に広がるかなり大きな規模の貧栄養湿地内に点々と生育が見られた。
湿地は山際から帯状に湧出する湧水によって成立しており、イヌノハナヒゲを優占種とした湿生植物群落が見られる。
ここではコマツカサススキの他、ヤチカワズスゲ、タチスゲ、ゴウソ、オタルスゲ、マツバスゲ、カサスゲ、ミカヅキグサ、コイヌノハナヒゲ、
ハリイ、オオハリイ、アブラガヤ、マネキシンジュガヤ、ホタルイ、ヤマイ、ノテンツキ、ヒメヒラテンツキ、コアゼガヤツリ、ヒナガヤツリ、
イヌシカクイ、カキラン、サギソウ、ヤマトキソウ、ツクシクロイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、ノハナショウブ、チゴザサ、トダシバ、ヌマガヤ、コウガイゼキショウ、
アオコウガイゼキショウ、ハリコウガイゼキショウ、コケオトギリ、オトギリソウ、ミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、モウセンゴケ、タチモ、
アリノトウグサ、ムカゴニンジン、セリ、ヒメジソ、サワヒヨドリ、キセルアザミ、ヌマトラノオ、リンドウ、ツリガネニンジン、キガンピなどが見られる。

Fig.10 隠田跡の湿原に群生するコマツカサススキ。(滋賀県・湿原 2012.10/1)
山間の隠田が放棄された跡が広大な湿原となっている場所で、一画をコマツカサススキのほぼ純群落が占めていた。
湿原はシカの撹乱が激しい場所が多いが、コマツカサススキは全く食害に遭った様子は見られない。
コマツカサススキ群落の周辺ではヌマガヤ、アブラガヤ、ミズオトギリ、シロイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲが見られた。
画像の後方にはヨシ原が広がっている。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.219〜222. pl.56. 保育社
牧野富太郎, 1961 コマツカサススキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 766. 北隆館
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 431〜434. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 コマツカサススキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 110,111. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 クロアブラガヤ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 168〜170. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コマツカサススキ. 『六甲山地の植物誌』 252. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コマツカサススキ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター
早坂英介. 2001. コマツカサアブラガヤ,宮城県新産.すげの会会報 9:1-2. すげの会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. コマツカサススキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:178.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Mar.2014

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