アブラガヤ Scirpus wichurae  Boecklr.
form. concolor  Ohwi
カヤツリグサ科 クロアブラガヤ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池畔 2010.9/16)

休耕田や湿地、溜池畔などの日当たりのよい湿った場所に生育する大型の多年草。
安定した湿原などよりも、攪乱を受ける湿地や、比較的遷移初期の荒れた湿った裸地などによく見られる。
アブラガヤの名は、穂が油色で、油臭いことによる。
根茎は短く叢生し、茎は高さ1〜1.5mになり、質は硬く、基部の鞘は密に茎を包む。
葉は長さ20〜40cm、幅5〜15mm。
花序は3〜5個、頂生または側生し、数回分枝し、多数の小穂を密につける。
小穂は1〜5個づつつき、卵形〜長楕円形、長さ4〜8mm、幅3〜4mm、赤褐色。雌蕊柱頭は3岐する。
鱗片は広倒卵形で、長さ約2mm。痩果は長さ約1mm、断面は扁稜形で、刺針状花被片は6個つき、糸状で屈曲し、長くちぢれ、
先端にはまばらに上向きの小刺がある。

アブラガヤは変異が多く、多数の品種や亜種がある。
シデアブラガヤ(f. cylindricus)は小穂が狭披針形〜長楕円形となるもの。
アイバソウ(f. wichurai)は小穂が花序枝の先に単生するもので、やや山地寄りに見られる。
チュウゴクアブラガヤ(subsp. lushanensis)は痩果が鱗片よりも大きく、はみ出すもの。
エゾアブラガヤ(ヒゲアブラガヤ)(subsp. asiaticus)は小穂がほぼ球形で、熟すと刺針状花被片が伸びて小穂が包まれ、側花序はない。
また、コマツカサススキとの種間雑種にコマツカサアブラガヤS. × fujimakii)があり、両種の中間的な形質を持つ。
花序の柄はざらつき、茎は鈍3稜形で、葉幅6〜7mm、小穂の先端は丸く、痩果の先端の嘴状突起はアブラガヤのものと同じ長さで、
花茎の中ほどまで側生花序がつく。
近似種 : アイバソウシデアブラガヤエゾアブラガヤ(ヒゲアブラガヤ)

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:休耕田、湿地、溜池畔、湿った荒れ地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では中・北部で普通に見られる。

Fig.2 開花中の頂花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/8)
  小穂は分枝した花序枝の先に1〜5個づつつく。頂花序の小穂は卵形〜長卵形、長さ4〜8mm、幅3〜4mm。

Fig.3 側花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/8)
  茎上部の節には側花序がつく。側花序には長い柄があって、葉腋からでる。側花序につく小穂は頂花序のものよりも小さくなることが多い。

Fig.4 小穂の熟した頂花序。(西宮市・用水路脇 2010.9/20)
  熟した小穂は赤褐色となる。

Fig.5 新鞘を生じた花茎。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.11/6)
  野生動物に花茎の上部を食害されたが、そこから新鞘が生じていた。
  珍しい例かと思われるので、掲載しておく。


Fig.6 花序を出し始めた個体。(西宮市・道端の小湿地 2006.8/19)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.7 休耕田の畦に生育するアブラガヤ。(西宮市・休耕田の畦 2010.9/20)
イノシシによる害で一時的に休耕中の水田の畦に生育しているもので、草刈りも行われなかったため、アブラガヤものびのびと生育していた。
畦の脇には排水用の素掘りの水路があり、かなり多湿な環境であり、周辺には画像に見られるキセルアザミ、サワヒヨドリのほか、
ミズギボウシ、ヌマトラノオ、オミナエシ、イヌシカクイなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.219〜222. pls.56. 保育社
牧野富太郎, 1961 アブラガヤ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 766. 北隆館
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 431〜434. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 アブラガヤ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 112,113. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 クロアブラガヤ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 168〜170. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アブラガヤ. 『六甲山地の植物誌』 253. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アブラガヤ. 『近畿地方植物誌』 167. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
早坂英介. 2001. コマツカサアブラガヤ,宮城県新産.すげの会会報 9:1-2. すげの会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. アブラガヤ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:179.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.Sep.2010

<<<戻る TOPページ