エゾアブラガヤ(ヒゲアブラガヤ) Scirpus asiaticus  Beetle カヤツリグサ科 クロアブラガヤ属
湿生植物


Fig.1 (西宮市・湿った草地 2009.8/17)

湿地、溜池畔、湿った草地などの日当たりのよい湿った場所に生育する大型の多年草。
根茎は短く叢生する。茎は硬く、太く、鈍3稜形で、高さ1.3〜2.2m。
花序は茎頂に1個つき、ふつう花茎の葉腋から側生しない。花序は円形〜楕円形。
花序枝の枝長や分枝のパターンはアブラガヤと同様。小穂は球形〜広楕円形。
刺針状花被片は熟すと長く伸びて、白い糸に包まれたようになりヒゲアブラガヤと称されることがある。
その他の特徴はアブラガヤとほとんど変わらない。

【メモ】 アブラガヤとの種間雑種では種子が不稔となるという。
近似種 : アブラガヤアイバソウシデアブラガヤ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔、湿った草地など。
■果実期:8〜9月
■西宮市内での分布:市内では北部の休耕田や溜池半、粘土質の湿った草地などに見られる。
              兵庫県内ではアブラガヤやアイバソウよりもはるかに稀である。

Fig.2 地上部標本。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24)
  ふつう草体はアブラガヤよりもかなり大きく、注意していればアブラガヤとは異なった種であることが一目瞭然である。
  ふつう花序は花茎に頂生し、花茎の節から側花序は出さず、出ているものはアブラガヤか、アブラガヤとの雑種を考慮すべき。

Fig.2 有花茎。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24)
  有花茎は平滑、中部で径約5mm、葉鞘の口部は逆U字形、横断面は鈍3稜形で硬く、やや脆い。中心部は中空。


Fig.3,4 有花茎の葉。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24 2点とも)
  葉幅はアブラガヤよりも広く7〜15mm。葉縁(Fig.3)と裏面中央脈上(Fig.4)には上向きの刺状突起があり、いちじるしくざらつく。

Fig.5 花序。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24)
  花序は頂生し、アブラガヤよりも大きく、小穂をより密につける。花序の苞葉は葉状で、1〜2個が花序より長い。


Fig.6,7 様々な花序。(上:兵庫県宍粟市・高地の原野 2009.9/26 下:兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/24)
  花序枝の長さは個体によって様々である。Fig.6のものは花序枝が短く、直立〜斜上し花序全体が球形に見える。
  兵庫県下で見られるものは北部や高所のものほど花序枝が短く、花序が球形となり、南部のものは草体も大型化し、花序も広がるものが多い。

Fig.8 花序枝と小穂。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24)
  花序枝は複生し、ざらつく。小穂は花序枝の先にふつう4個以上が頭状に密につく。小穂の形状は球形〜広楕円形。

Fig.9 果実期の花序。(兵庫県養父市・湿生草原 2010.10/11)
  痩果が熟す頃、小穂からは伸びた刺針状花被片が出て、もじゃもじゃとした白い糸に包まれたようになる。
  別名のヒゲアブラガヤはここからきている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 溜池畔に生育するエゾアブラガヤ。(西宮市・溜池畔の湿地 2010.8/13)
この溜池畔では2個体のみが見られ、他の似た草体は全てアイバソウであった。
溜池畔にはこの他ハリイが多く、ヌマトラノオ、イヌノハナヒゲ、ホタルイ、イヌノヒゲsp.、オオミズゴケ群落、アリノトウグサ、陸生形フトヒルムシロなどが
生育していた。池内はハリイの沈水形とフラスコモsp.が見られた。

Fig.11 休耕田に群生するエゾアブラガヤ。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
谷津田の途中の水田が湛水状態の休耕田となり、おびただしい数のアゾアブラガヤが群生している。
休耕田内の一画でコガマ(画像手前)とアゼスゲの群落が見られるほかは、エゾアブラガヤが優占している。
中層ではチゴザサ、ヌマトラノオ、ヤノネグサ、コケオトギリ、イヌタデが生育し、畦畔にはミツバツチグリ、アキノタムラソウ、ヒメシダが目立つ。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 溜池畔の湿地に点在するエゾアブラガヤ。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.7/24)
緩やかな斜面の棚田の間にある溜池畔の湿地上部に点在していた。草丈は高く、湿地内でよく目立っていた。
池は水田からの栄養塩類の流入があるためか水面にはヒシ群落がやや発達し、水際には抽水状態でカンガレイとガマ、ショウブがパッチ状に群生し、
やや中栄養な溜池であることが伺えた。
湿地部は大部分がミソハギとチゴザサが優占し、ヤノネグサ、ヌマトラノオ、アゼスゲがパッチ状に小群生し、湧水がある部分ではイヌノハナヒゲが群生している。
エゾアブラガヤはイヌノハナヒゲの群落上部に発達するネザサ群落との境界付近や、侵入したアカメヤナギ、ハンノキなどの樹林の脇にムカゴニンジンなどと混生している。
ここでは他に比較的安定した湿地に出現するコマツカサススキ、ヌマガヤ、ノハナショウブなどの生育が見られた。
また水中にはイヌタヌキモが多く、溜池土堤外側下部の浸透水が湧出する場所ではカキラン、オトコゼリが見られ、自然度の高い場所である。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.219〜222. pls.56. 保育社
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科クロアブラガヤ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 431〜434. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 エゾアブラガヤ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 114,115. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 クロアブラガヤ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 168〜170. 全国農村教育協会
村田源. 2004. エゾアブラガヤ. 『近畿地方植物誌』 167. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. エゾアブラガヤ. 『六甲山地の植物誌』 253. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. エゾアブラガヤ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:178.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Oct.2010

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