ミヤマシラスゲ Carex olivacea  Boott  var. angustior  Kukenth. カヤツリグサ科 スゲ属 ミヤマシラスゲ節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・湿地 2007.5/17)

湿地や溜池畔、水路などに生育する中型の多年草。
地下に褐色の鱗片のある横走する根茎があり、群生する。基部の鞘は淡色で、葉幅8〜15mm、下面は粉白色を帯びる。
花茎は高さ30〜80cm、茎中部にも1葉ある。頂小穂は雄性、線形で汚黄色、長さ3〜7cm。側小穂は雌性で2〜6個付き、長さ2.5〜6cm。
苞には長い葉身がある。
果胞は鱗片より長く、長さ約4mm、熟すと著しく膨らんで、隙間なく密集する。雌鱗片は凹頭で芒がある。雌蕊柱頭は3岐する。

カサスゲC. dispalata)に似るが、果胞は熟しても膨らまず、基部の鞘は赤紫色を帯び糸網を生じ、
鱗片は鋭頭で芒があり、赤紫色の部分がある。また、葉の下面はミヤマシラスゲのように粉白色を帯びない点などで区別できる。
近似種 : カサスゲキンキカサスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔、水路など。
■果実期:5〜6月
■西宮市内での分布:市内では北部の溜池跡の湿原とその周辺で自生を確認しているだけで稀だか、自生地では大きな群落をつくっている。
              兵庫県内では普通に見られる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/21)
  地下部に横走する根茎があり、群生することが多い。葉幅8〜15mm。有花茎は高さ30〜80cm。

Fig.3 基部と根茎。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/21)
  基部の鞘は淡色。地下部には根茎がある(画像中の右に伸びている)。

Fig.4 花序。(西宮市・湿地 2007.5/17)
  頂小穂は雄性、汚黄色で線形。側小穂は雌性で、互いに離れてつき、柄は短く直立または斜上する。
  苞には葉身があり、花序よりもかなり長い。

Fig.5 雌小穂。(西宮市・湿地 2007.5/17)
  淡緑色の嘴の長い果胞が多数つき、円柱状となる。成熟前の雌小穂では超出した鱗片の芒が目立つ。

Fig.6 成熟しつつある雌小穂。(西宮市・湿地 2007.5/17)
  果胞は成熟すると著しく膨らみ、隙間なく密集する。
  鱗片の本体は膨らんだ果胞の間にすっかり埋もれてしまい、鱗片先端の芒だけが隙間から出ている。

Fig.7 痩果。(神戸市北区・湿地 2007.7/15)
  長さ約1.7mm、3稜ある倒卵形で、短い嘴があり、茶褐色。上半部の表面には短毛がまばらに生える。

Fig.8 開花中のミヤマシラスゲ。(兵庫県三田市・農道脇の水路 2007.5/11)
  3岐する雌蕊柱頭と、未熟な果胞よりも超出した鱗片の芒が目立つ。
  この頃の花序はカサスゲに似るが、カサスゲの雄小穂は茶褐色であり、雌小穂の鱗片は赤紫色の部分があって鋭頭で、
  葉の下面はミヤマシラスゲのように粉白色を帯びないことで区別できる。

Fig.9 冬期に残存した雌小穂。(兵庫県三田市・林道脇の湿地 2009.1/7)
  雌小穂は時に冬期でも立ち枯れて残存することがある。

Fig.10 冬期には半常緑越冬する。(兵庫県三田市・溜池土提直下の湿地 2008.3/13)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 管理放棄されて湿原と化した溜池跡で群生するミヤマシラスゲ。(西宮市・湿地 2007.5/17)
泥や枯れた植物体の堆積物などで埋まり、遷移が進みつつある溜池跡で、ミヤマシラスゲの大群生が見られた。
かなり大きな群落だが、市内でのミヤマシラスゲのまとまった自生地は今のところここだけにしかない。
溜池跡の湿原は周囲をハンノキの湿地林と、小規模なヨシの群落に囲まれており、ミヤマシラスゲ群落中には、
セリ、ホソバノヨツバムグラ、アブラガヤ、キツネノボタンなどの湿生植物が点々と見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. ミヤマシラスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.151. pls.129. 平凡社
小山鐡夫, 2004 ミヤマシラスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.290. pls.72. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミヤマシラスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 802. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属ミヤマシラスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 478〜480. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005 ミヤマシラスゲ節. 『日本のスゲ』 320〜330. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007 スゲ属ミヤマシラスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 59〜63. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミヤマシラスゲ. 『六甲山地の植物誌』 246. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミヤマシラスゲ. 『近畿地方植物誌』 159. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ミヤマシラスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:143.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:24th.May.2011

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