ミズギボウシ Hosta longissima  Honda ユリ科 ギボウシ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・棚田奥の小湿地 2008.8/10)

Fig.2 (兵庫県三田市・用水路脇 2013.8/23)

貧栄養な湿地、湿地に由来する湿田の畦や用水路脇に生える多年草。
湿地の中心部には見られず、湿原に続く斜面や、湿地周辺の流路脇に見られることが多い。
根茎は短く、湿田の用水路脇がミズギボウシでびっしりと覆われるのを見かけることもある。
花茎は高さ40〜60cm。花茎の苞葉は中心が舟形にくぼむ。
花の構造はコバギボウシに非常に似るが、花茎に付く花はまばらで3〜5個、コバギボウシよりもはるかに少ない。
葉はこの仲間では最も細く、幅2cm前後、長さ15〜30cmで、披針形、先端は鈍頭。葉柄は不明瞭。
近似種 : コバギボウシ

■分布:本州(愛知県以西)、四国、九州
■生育環境:貧栄養な湿地、湿田の用水路脇など。
■花期:8〜9月
■西宮市内での分布:中部では六甲山系の湿地、北部では棚田上部の湿田周辺で見られる。

Fig.3 花序。(西宮市・棚田の用水路脇 2008.8/2)
  総状花序で、近縁種のコバギボウシに比べ花付きはまばらで少ない。

Fig.4 花被。(西宮市・用水路脇 2008.8/10)
  花の径は4cm前後。雌蕊はコバギボウシよりも短く、花冠の外にとび出さない。

Fig.5 花被片。(西宮市・棚田奥の小湿地 2008.8/10)
  花被片の縁には透明の部分があり、内側には紫色の条線が入る。

Fig.6 上から花被の外面を見る。(西宮市・棚田奥の小湿地 2008.8/10)

Fig.7 冬枯れの果実。(西宮市・用水路脇 2007.1/25)
 果実は3室からなり、内部に翼を持った種子が並び、熟すと3つに裂ける。

Fig.8 果実とこぼれ出た種子。(西宮市・用水路脇 2007.1/25)
  種子には翼があり、長さ7〜9mm。

Fig.9 春先に根茎から萌芽したミズギボウシ。(西宮市・溜池土堤 2007.4/8)

Fig.10 成長期のミズギボウシ。(西宮市・小湿地 2007.5/13)
  葉身は細く、幅1.5〜2cmで、披針形、鈍頭、基部に向かうにつれて細まり、葉柄は不明瞭。
  表面には光沢があり、平行脈はやや不明瞭でコバギボウシほど目立たない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 谷戸奥の小規模な湿地の流路脇に生育するミズギボウシ。(西宮市・小湿地 2007.8/2)
暗い上にブレていて解りにくいが、流路周辺には、オオミズゴケ、ヒメシロネ、マメスゲ、ヒメアギスミレ、イヌツゲなどが見られる。
この流路内と、流路脇の地下水が滲み出す場所では、それぞれ別種のカワモズクsp.が見られるが、まだ種は確定できていない。
あるいは同種の別ステージのものであるかもしれない。さらに観察を続けたいと思う。

Fig.12 溜池の土堤の最下の、水が滲み出す場所につくられた水路脇に生育するミズギボウシ。(西宮市・溜池土堤最下 2007.5/13)
土堤最下部はオオミズゴケ群落が発達し、付近にはモウセンゴケ、ヌマトラノオ、ホソバリンドウ、ヤマラッキョウ、キセルアザミ、サワシロギク、
イヌシカクイ、アギスミレなどの湿生植物が見られた。

Fig.13 棚田の用水路脇に生育するミズギボウシ。(西宮市・用水路脇 2008.8/2)
水路の脇には湧水が滲出する場所があり、オオミズゴケ群落があり、オニスゲ、ムカゴニンジン、アキノウナギツカミなどが見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 貧栄養な湿地に点在するミズギボウシ。(兵庫県宝塚市・湿地 2010.9/7)
果樹園の傍らに刈り込み管理された貧栄養湿地があり、そこにかなりの個体が点在していた。
ミズギボウシは開花個体数が多くとも、1株につく花数が少ないため、より普通に見られるコバギボウシよりも目立たない。
ここではキセルアザミ、サワヒヨドリ、サワシロギク、コケオトギリ、イヌノハナヒゲ、イトイヌノヒゲ、イヌシカクイ、ヤマイ、チゴザサなどとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔,1982. ユリ科ギボウシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
       p.31〜34. pls.24〜25. 平凡社
村田源, 2004 ユリ科ギボウシ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.132〜139. pls.35〜37. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミズギボウシ. 『六甲山地の植物誌』 217. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズギボウシ. 『近畿地方植物誌』 142. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
藤田昇・布施静香・黒崎史平・高橋弘・田村実・山下純 2007. ミズギボウシ. 兵庫県産維管束植物9 ヒルムシロ科. 人と自然18:96. 兵庫県立・人と自然の博物館.

最終更新日:26th.Feb.2017

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