コバギボウシ Hosta albo-marginata  (Hooker) Ohwi ユリ科 ギボウシ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・用水路脇 2006.8/27)

日当たりの良い湿地、水田の畦、用水路脇などに生える多年草。
特に二次的自然度の高い里山環境の用水路脇などで群生している様子が良く見られる。
湿地では周辺部の林縁などで群生をつくる。
地下には横走する根茎があり、葉は叢生し斜上する。葉身の長さ10〜20cm、幅5〜8cm、光沢は鈍く、表面の脈はへこむ。
葉身の基部は急に柄に沿って流れ、心形にはならず、長い柄がある。
夏に開花。花茎は高さ30〜40cm、多数の花をつける。花は長さ4〜5cm、花被は淡紫色で、内側の脈は濃紫色で目立つ。
コバギボウシは栽培もされ、斑入り種など、多くの園芸品種が作出されて市場に流通している。
ちなみに、オモトギボウシとして流通しているのは、関西〜中国地方のコバギボウシの斑入り品であることが多い。
近似種 : ミズギボウシキヨスミギボウシカンザシギボウシ、 オヒガンギボウシ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:日当たりの良い湿地、用水路脇など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:市内では中部の棚田周辺で見られ、北部に多いミズギボウシと混生することはない。

Fig.2 花被は淡紫色で、内側には鮮やかな濃紫色の脈がある。(兵庫県篠山市・細流脇 2013.8/23)
  花被は先端部は外に向かって開くが、中部から下では筒状に合着する。
  花は1日花で、他家受粉によって結実するため、雄蕊と雌蕊は離れている。
  花粉の媒介者はハナバチ類で、筒状の花被内にもぐって密を吸ったあと、ハチが花から出る際に花粉が付きやすいように
  雄蕊の花糸は大きく曲がって、上を向いている。


Fig.3 熟して裂開したコバギボウシの果実。(西宮市・休耕田 2007.11/18)
  刮ハは3室からなり、内部には翼の付いた種子が数個づつ並び、熟すと3つに裂開して種子が現れる。

Fig.4 種子は黒色で翼を持ち、8〜9mm。(西宮市・休耕田 2007.11/18)
  種子の発芽率は80%程度と高く、栽培は容易である。

Fig.5 春先に根茎から萌芽した新葉。(西宮市・休耕田 2009.4/7)
  よく似た生育環境に生えるミズギボウシと較べると、すでに葉幅は広く、この時期でも区別は可能である。

Fig.6 休耕田の水路脇で群生するコバギボウシ。(西宮市・休耕田 2007.5/5)
  地中には横走する根茎があり、時としてこのような大きな群落をつくることがある。市内一の群生地である。

Fig.7 葉身の脈はへこみ、基部は急に柄に沿って流れる。葉柄は長い。(西宮市・休耕田 2007.4/30)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 夏草に埋もれながら花茎を高く上げて開花する、休耕田の水路脇の群生。(西宮市・休耕田 2007.8/30)
棚田の溜池直下にある休耕田で、土堤下部から滲みだした水が水路となっている場所に、群生が見られた。
画像からは、ススキのほかにイグサ、ヒメシダなどの湿生植物が見られるが、この土堤の斜面下部にはホソバリンドウ、
サワヒヨドリ、オミナエシ、キクバヤマボクチ、リュウノウギク、イナカギクなどが見られ、休耕田内にはアゼスゲ、タチスゲ、
ゴウソ、ヒロハノコウガイゼキショウ、コウガイゼキショウ、ウシクグ、シカクイ、コゴメガヤツリなど多様な植生が見られた。

Fig.9 山間棚田の畦に生育するコバギボウシ。(西宮市・棚田 2011.9/6)
西宮市内では棚田の畦にコバギボウシが生育する場所が数ヵ所点在しており、個体数も多く、夏場に畦畔を美しく飾る。
畦には画像に見えるセンニンソウのほか、アキノタムラソウ、サワヒヨドリが同時期に開花し、春にはアマナが、秋にはヤマハッカ、
アキチョウジ、チョウセンガリヤス、ノコンギクの群生が見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 溜池直下の湿田脇の林縁草地に群生するコバギボウシ。(兵庫県三田市・湿田脇林縁草地 2010.8/15)
溜池直下にある湿田の畦の湿った日当たり良い林縁草地に群生が見られた。
付近はネザサを主体とした良好な半自然草原環境が保たれており、サワシロギク、サワヒヨドリ、ノアザミ、キセルアザミ、オミナエシ、ワレモコウ、リンドウ、
コガンピ、ツクシハギ、クマヤナギなどが見られ、直下の水路ではタウコギ、キクモが生育する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔,1982. ユリ科ギボウシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
       p.31〜34. pls.24〜25. 平凡社
村田源, 2004 ユリ科ギボウシ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.132〜139. pls.35〜37. 保育社
木場英久・高橋秀男. 2001. ユリ科ギボウシ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 200〜201. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コバギボウシ. 『六甲山地の植物誌』 216. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コバギボウシ. 『近畿地方植物誌』 142. 大阪自然史センター
藤田昇・布施静香・黒崎史平・高橋弘・田村実・山下純. 2007. コバギボウシ. 兵庫県産維管束植物9 ユリ科. 人と自然18:95. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:5th.Nov.2011

<<<戻る TOPページ