ムカゴニンジン | Sium sisarum Linn. | セリ科 ヌマゼリ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2007.8/30) |
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Fig.2 (西宮市・溜池土堤 2009.9/22) 湿地や溜池畔、棚田周辺の水路などに生育する多年草。 地下に肥厚した数本の白い根茎がある。茎は細く直立し、高さ30〜80cm。 葉は茎の下部では5小葉(稀に7小葉)で、小葉の長さ2〜8cm、幅5〜10mm。上部では3小葉で小葉も小さくなる。 茎上部は節での屈曲が顕著でジグザグ状になることが多く、花序がつく分枝した茎上に数段にわたって3出葉をつける。 花序は計2〜4cm、総苞片および小総苞片は小さく披針形で反曲。 果実は卵球形で、長さ約2mm。分果には約11本の油管があり、横断面はほぼ5角形。 花期〜晩秋にかけて、葉腋にムカゴを形成する。ほとんどのムカゴは親株上で発芽、発根し、親株が枯れて倒れると地上に根付く。 地下の肥厚した根茎は食用となるが、まだ試してみたことはない。 ヨーロッパでは根茎を食用とするために、アジアから持ち込まれたものが、ローマ時代から栽培されたという。 塩茹でにしてバターを付けて食べたり、すりおろしたものをマッシュ・ポテトに加えたり、ドレッシングに混ぜたりしたらしい。 skirretと称され、webで検索すればいくつかのレシピがヒットする。シチューやスープ、カレーなどにも合うという。 ヌマゼリ(S. suave subsp. nipponicum)と誤認されることがある。 ヌマゼリの根茎は肥厚せず、ひげ根状で、稀にムカゴをつくるが長い柄があり、茎上部はあまり屈曲しない。 近似種 : ヌマゼリ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 済州島、朝鮮半島、中国 ■生育環境:湿地や溜池畔、棚田周辺の水路など。 ■花期:8〜10月 ■西宮市内での分布:市内では中・北部の自然度の高い棚田周辺に自生地が点在する。 |
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↑Fig.2 ムカゴニンジンの開花。(西宮市・溜池畔 2007.8/30) |
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↑Fig.3 頭花の拡大。(西宮市・溜池畔 2007.9/20) 花弁は白色で5個つき、広倒卵形で先端は上に反り、中央は山形に隆起する。 雄蕊は5個で、葯は白色。雌蕊は2個。 |
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↑Fig.4 開花直後の未熟な果実。(西宮市・溜池畔 2007.8/30) 果実は2分果。球卵形で長さ約2mm。 |
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↑Fig.5 成熟した果実。(西宮市・溜池畔 2007.10/28) 2分果だが、一方は小さくて不稔であることが多い。 5つの顕著な脈があり、脈の内側果皮内には脈に接して油管がある。 |
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↑Fig.6 溜池畔で生育中の個体。(西宮市・溜池畔 2007.7/19) 茎は細く、葉柄の付け根でやや屈曲しながら直立するが、花期には他の植物に寄りかかることが多い。 |
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↑Fig.7 Fig.6 の個体のその後。(西宮市・溜池畔 2007.8/30) 多くの花茎を分枝して池畔に倒れ込んで開花していた。 花序が分枝する最下にあるのが総苞片で、披針形、反曲する。 多数の小花が分枝する花序枝の付け根にあるのが小総苞片。 |
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↑Fig.8 大きな株では茎の中部から上部でよく分枝する。(西宮市・溜池畔 2007.8/2) 葉柄の付けねは茎を抱く。 |
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↑Fig.9 左:上部の葉は3小葉。右:下部に付く葉は羽状複葉で5枚、まれに7枚の小葉を持つ。(西宮市・溜池畔 2007.8/2) 小葉に柄はなく、葉縁には細かい鋸歯がある。 |
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↑Fig.10 根は白色で太く、数本が集合する。(西宮市・溜池畔 2007.5/5) |
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↑Fig.11 カサスゲ群落の株元で生育中のムカゴニンジン。生長初期の様子。(西宮市・溜池畔 2007.6/5) 手前の披針形の葉を持つ草体はミズギボウシ。 |
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↑Fig.12 葉腋に形成されたムカゴ。(西宮市・溜池畔 2007.8/30) 花茎に蕾が形成される頃、ムカゴも形成されはじめる。 |
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↑Fig.13 葉腋のムカゴから発芽した不定芽。(西宮市・溜池畔 2007.8/30 |
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↑Fig.14 前年に落下したムカゴから発芽した幼株。(西宮市・用水路 2007.7/1) 幼苗や幼株の葉身は円形〜心形で、細かい鋸歯がある。 3小葉の葉身が展開してくるには、もうしばらく時間がかかる。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.15 溜池畔で他種とともに湿生植物群落をつくるムカゴニンジン。(→)がムカゴニンジン。(西宮市 2006.8/21) 溜池にはコイが放たれて水生植物は見られず、やや富栄養化が進んでいるが池畔には豊富な植生が見られた。 画像の場所では初夏にカキランにはじまり、ヌマトラノオ、ノギラン、ミソハギと開花が連続し、続いてムカゴニンジンやサワヒヨドリが開花する。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.16 用水路脇に倒れ込んで生育するムカゴニンジン。(兵庫県三田市・用水路脇 2010.9/2) 里山の素掘りの用水路脇の水際にムカゴニンジンが群生していた。 用水路は堰き止められて止水気味となっており、水路内にハリマノフサモ、キクモ、セリ、イボクサ、ミズユキノシタが生育し、 水際にはムカゴニンジンとともにノハナショウブ、ヤマラッキョウ、キセルアザミ、サワヒヨドリ、スゲ類が生育していた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 北川政夫, 1982. セリ科ヌマゼリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.283. pls.258〜259. 平凡社 村田源, 2004 セリ科ムカゴニンジン属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.15〜16. pl.4. 保育社 牧野富太郎, 1961 ムカゴニンジン. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 439. 北隆館 長田武正・長田喜美子, 1984 ムカゴニンジン. 『野草図鑑 6 おきなぐさの巻』 81. 保育社 河済英子. 2001. セリ科ムカゴニンジン属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1080〜1081. 神奈川県立生命の星・地球博物館 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ムカゴニンジン. 『六甲山地の植物誌』 168. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ムカゴニンジン. 『近畿地方植物誌』 61. 大阪自然史センター 黒崎史平 2003. ムカゴニンジン. 兵庫県産維管束植物5 セリ科. 人と自然14:160. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:2nd.Oct.2014 |