サワトウガラシ Deinostema violaceum  (Maxim.) Yamazaki. ゴマノハグサ科 サワトウガラシ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2008.7/27)

Fig.2 (滋賀県・水田 2011.8/18)

Fig.3 (兵庫県小野市・溜池畔 2014.9/23)

貧栄養な溜池畔や湿地、休耕田、自然度が高い水田などに生える1年草。
除草剤の使用や圃場整備によって減少した水田雑草で、環境良好な水田でないと見られず、現在では溜池畔などで見かける機会が多い。
茎は根元から分かれ、斜上し高さ5〜20cm。
葉は対生し線状披針形で長さ7〜10mmで鋭頭、全縁。
晩夏から秋にかけて、紅紫〜紫色の2唇形の花を茎の上部に咲かせ、萼は深く5裂する。花柄と萼には毛がはえる。
また、茎の下部には細長い萼片に覆われた長さ3mmほどの、花柄のない閉鎖花を葉腋に多数つける。

よく似た種に、稀に水田などで見られるマルバノサワトウガラシ(D. adenocaula)がある。葉は卵円形〜楕円形で長さ5〜8mm。
近似種 : マルバノサワトウガラシ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:貧栄養な溜池畔、湿地、休耕田、水田など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では中〜北部の棚田の水田中や休耕田、溜池畔などに点々と自生地がある。やや稀。

Fig.4 花冠は筒状で先は唇形。(自宅植栽 2009.9/4)
  萼や花柄には腺毛が生じる。4個ある雄蕊のうち、下唇側にある2個は小さな突起状の仮雄蕊となって退化している。
  上唇側つく2個の雄蕊はアゼトウガラシやスズメノトウガラシ類のようには見えず、花糸は大きく反転して花筒内の奥に納まる。
  画像のものは自宅で種子から栽培したもので、栽培は容易で、維持して5年目に入る。2009年は多数の個体が開花した。

Fig.5 強く紫色を帯びた花冠の個体。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.7/27)
  花冠の色は自生地によって濃淡に差がある。白色の花冠を持つものもあるようだが、いまだに出合ったことはない。

Fig.6 棚田の水田内で生育中のサワトウガラシ。(西宮市・水田 2006.8/21)
  茎は根元から分かれて斜上する。葉は線状披針形で対生し、葉柄はない。

Fig.7 刈り取り後の水田に見られた、サワトウガラシの閉鎖花の果実。(西宮市・水田 2006.10/26)
  サワトウガラシは茎の下部の葉腋に沢山の閉鎖花をつける。
  閉鎖花には正常花にみられるような花柄はなく、葉腋にじかにつき、長い萼片に包まれる。

Fig.8 沈水状態で生育するサワトウガラシ。(愛知県・溜池 2005.10/13)
  沈水状態では閉鎖花をつけ、溜池などのかなり水深のある場所では一生を沈水状態で過ごす個体もある。

Fig.9 抽水状態で開花したサワトウガラシ。(兵庫県篠山市・溜池 2009.9/2)
  池内から陸上にかけて群生している集団の開花が始まっていた。

Fig.10 秋季、寒さにあたって紅葉したサワトウガラシ。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  時として、紅葉した草体が開花していることもある。
  画像右に見えるホシクサ科植物はツクシクロイヌノヒゲ。

Fig.11 減水した溜池畔で紅葉・開花した集団。(兵庫県篠山市市・溜池畔 2009.9/14)
  乾燥のためか、あるいは寒気にあたったためか、草体が紅葉しながら、沢山の花をつけていた。


Fig.12 サワトウガラシの種子。(西宮市・溜池畔 2007.10/14)
  長さ0.5〜0.6mmで楕円形。濃褐色で、表面には明瞭な格子模様がある。
  種子の発芽率はよく、栽培は比較的容易である。

Fig.13 浅い水中で発芽したサワトウガラシ。(西宮市・休耕田 2007.8/5)

Fig.14 干上がった溜池の底で生育中のサワトウガラシ。(兵庫県篠山市・改修中の溜池底 2008.7/27)
  充分に生育して、間もなく葉腋から花茎をあげはじめる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.15 貧栄養な溜池畔でまばらに生育するサワトウガラシ。(西宮市 2007.9/20)
溜池畔ではホシクサ類とともに出現することが多く、画像にもシロイヌノヒゲが見えている。
ホシクサ科植物同様、緩く傾斜する池畔の、開花期になると水上から出るような場所に見られることが多い。
サワトウガラシの右隣に写っているイネ科植物はチゴザサ。

Fig.16 水田に生育するサワトウガラシ。(西宮市 2012.9/6)
西宮市内でサワトウガラシが見られる水田は少なく、2次的自然環境が残された良好な場所と言える。
ここでは群生するキカシグサに混じってアゼトウガラシ、ミズマツバ、コナギなどとともに生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 晩秋の休耕田に出現したサワトウガラシ。(滋賀県 2007.11/4)
晩秋に芽生えた個体は小さな草体のまま、多数の閉鎖花をつけて正常花を開花せずに終わる。
ここでは、画像に見えるミズワラビ、イチョウウキゴケ、コハタケゴケ、ヒナガヤツリ、アゼナのほか、
ハリイ、ヒロハイヌノヒゲ、アゼトウガラシ、ヒロハノスズメノトウガラシ、ヌメリグサ、ミズネコノオが見られ、非常に自然度の高い休耕田だった。

Fig.18 干上がった溜池畔のタチモ群落中に生育するサワトウガラシ。(兵庫県篠山市 2008.7/27)
広く緩斜面となった浅水域にタチモの群落があり、そこにホシクサ類、ミミカキグサなどとともに生育していた。

Fig.19 溜池畔に群生したサワトウガラシ。(兵庫県篠山市 2008.7/27)
画像中央から手前にかけての黄緑色部分は池畔、水中ともに全てサワトウガラシに覆われている。
画像上部に群生する線形の草体はヒメホタルイ。水中のサワトウガラシ群落中にはミズニラ、ホソバミズヒキモ、シャジクモなどが点在する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. ゴマノハグサ科サワトウガラシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.102. pl.87. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 ゴマノハグサ科サワトウガラシ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.148. pl.45. 保育社
牧野富太郎, 1961 サワトウガラシ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 555. 北隆館
城川四郎. 2001. サワトウガラシ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1261. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サワトウガラシ. 『六甲山地の植物誌』 190. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. サワトウガラシ. 『近畿地方植物誌』 38. 大阪自然史センター
布施静香・黒崎史平 2006. サワトウガラシ. 兵庫県産維管束植物7 ゴマノハグサ科. 人と自然16:103. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Oct.2014

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