ショウジョウバカマ Heloniopsis orientalis  (Thunb.) C. Tanaka ユリ科 ショウジョウバカマ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・林縁の水路脇 2008.4/6)

Fig.2 (兵庫県篠山市・湿った草地土手 2014.4/12)

丘陵や低山の湿った崖や細流脇、湿地、水田の畦、用水路脇などから高山帯までの湿った場所によく見られる多年草。
根生葉は多数で、長さ7〜20cm、幅1.5〜4cmのへら状で、表面には光沢があり、全縁、鋭頭または鈍頭。
根生葉は冬期も枯れず、そのまま越冬する。葉先にはときに無性芽をつくる。
春になると数個の鱗片葉をつけた高さ10〜30cmの花茎をあげ、頂端に3〜10花からなる総状花序をつける。
花被片はふつう6個、濃紫色〜淡紅色と変化に富み、倒披針形で長さ10〜15mm、下部は次第に狭くなって、花柄との境がすこし膨れる。
花被片は花後も緑色となり残る。
雄蕊は6個で、花糸は花被片と同長。葯は黒紫色で狭長楕円形、長さ2mm内外。
刮ハは3つに深くくびれ、種子は線形で両端がとがり、長さ約5mm。
刮ハが熟す頃には、花茎は50〜60cmにも伸びる。

関東以西の本州と四国の山地にはよく似たシロバナショウジョウバカマ(var. flavida)がある。
花は白色で、葉はやや膜質、縁が細かい波状となり、ショウジョウバカマよりもやや小型。渓流畔や湿った岩壁に生育する。
九州の山地にはツクシショウジョウバカマ(var. breviscapa)があり、花は白色または淡紅色、花被片はやや短い倒卵状長楕円形で
下部が急に狭くなり、花柄との境がふくらまない。
最近ではシロバナショウジョウバカマとツクシショウジョウバカマをあわせてコチョウショウジョウバカマH. breviscapa)に分類する
見解が提出されており、今後はこちらの名称が一般的となる可能性が高い。
近似種 : コチョウショウジョウバカマ (シロバナショウジョウバカマ)

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、樺太
■生育環境:丘陵や低山の湿った崖や細流脇、湿地、水田の畦、用水路脇など。
■果実期:4〜5月
■西宮市内での分布:中、北部の棚田の用水路脇や低山の渓流畔、湿地に普通
              標高500m以上になるとコチョウショウジョウバカマ(シロバナショウジョウバカマ)が多くなる。

Fig.3 花茎を立ち上げて開花したショウジョウバカマ。(西宮市・林縁の水路脇 2008.4/6)
  花茎は直立し鱗片葉を互生してつける。
  鱗片葉は膜質、淡緑色〜淡褐色で披針形。落脱しやすく、花期も後半になるとほとんど残っていない。

Fig.4 総状花序についた花被。(西宮市・林縁の水路脇 2008.4/6)
  花被は花茎頂部に横向きにつくことが多い。花被片は倒披針形。
  成熟した雄蕊の葯は黒紫色。淡紫色のものは成熟途上のもの。白い花粉に覆われたものもある。

Fig.5 花被片と花柄の境は、少し膨らむ。(西宮市・林縁の水路脇 2008.4/6)

Fig.6 花被の色などは変化に富む。(西宮市・用水路脇 2008.4/6)
  画像のものは雌蕊柱頭が鮮紅色のもの。

Fig.7 果実形成期。(兵庫県三田市・用水路脇 2008.5/4)
  果実は刮ハで3つにくびれて膨らむ。花被片や花糸は果実が形成されても宿存する。

Fig.8 熟して裂開した刮ハ。(西宮市・湿地 2008.6/12)
  刮ハの稜線が裂けて開き、糸くずのような小さな種子が風に飛ばされて散布される。


Fig.9,10 ショウジョウバカマの種子。(西宮市・湿地 2008.6/12)
  下は胚などがある中央部の拡大。
  種子は長さ約6mm。種皮が上下に長く伸びて翼状となり、風に飛ばされやすくなっている。

Fig.11 伸びた種皮の下端にある孔。(西宮市・湿地 2008.6/12)
  おそらく水分を保持し乾燥を防ぐための仕組みだろうと思われる。
  長く伸びた種皮は、風に飛ばされるためと、水分保持の2つの役割を持ち、その効率の良い仕組みに驚かされる。
  湿生植物のなかでもホソバリンドウ、ウメバチソウ、モウセンゴケなども翼状に広がった種皮のある種子をつくるが、このような孔はなく、
  このような仕組みがショウジョウバカマの分布域の広さと、個体数の多さの一因となっているのかもしれない。

Fig.12 クモノスゴケの間から出芽した幼苗。(西宮市・雑木林内の細流脇 2009.3/7)
  既に多数の葉が出ているので、出芽は前年の早い時期だったのだろう。出芽時期を確認したい。

Fig.13 ロゼットで越冬するショウジョウバカマ。(西宮市・農道脇の斜面 2008.2/25)
  ショウジョウバカマは多数の根生葉をつけたままロゼットで常緑越冬する。

Fig.14 大きな花芽をつけたロゼット。(岡山県真庭市・林道脇の濡れた斜面 2007.2/11)
  根生葉はへら状で全縁、表面には光沢があり、先は鋭頭または鈍頭。

Fig.15 根生葉の赤いもの。(西宮市・林縁の石垣上 2010.4/13)
  冬期に霜害や厳しい寒さに遭ったものは、根生葉が紅葉し、葉面が少し縮れて波を打つものもある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.16 農道脇の斜面に生育するショウジョウバカマ。(西宮市・農道脇の湿った斜面 2008.4/6)
ショウジョウバカマは丘陵地や低山の林道の湿った斜面に好んで生育する。
斜面最下部には溝が掘られ、キクムグラ、ニシノオオタネツケバナ、タネツケバナ、サワヒヨドリ、キツネノボタンなどが見られる。

Fig.17 畦の斜面に生育するショウジョウバカマ。(西宮市・水田の畦 2008.4/6)
西日本の丘陵部の谷間を開いてつくられた水田の畦では、春先になると用水路側によくこのような光景が見られる。
ここではヒメシダやゴウソが萌芽し、タチツボスミレ、ツボスミレなどのスミレ類が開花していた。

Fig.18 湿原の緩斜面上部に生育するショウジョウバカマ。(西宮市・湿原 2008.7/10)
湿地では斜面の湧水が湧き出す部分よりも、わずかに上方で生育していることが多い。
同所的にサワシロギク、ハイニガナ、モウセンゴケ、アリノトオグサ、イヌノハナヒゲ、ヌマガヤなどが生育する。

Fig.19 渓流畔の崖に生育するショウジョウバカマ。(西宮市・渓流畔 2010.4/13)
ショウジョウバカマは里山でもよく見かけるが、山地の渓流畔にも多い。
ここでは渓流畔の湿度の高い土崖に沢山の個体が生育していた。
同所的に見られるものはシシガシラ程度の貧栄養な場所であるが、ショウジョウバカマはあまり土壌の栄養状態を選ばないようである。

他地域での生育環境と生態
Fig.20 半日陰の渓流畔の苔むした斜面に生育するショウジョウバカマ。(兵庫県篠山市・渓流畔の斜面 2008.4/13)
ミヤマカタバミ、マルバコンロンソウ、タチツボスミレ、オニタビラコ、オオバチドメなどの草本とともに見られた。

Fig.21 山腹の北向きの苔むした急斜面に生育するショウジョウバカマ。(兵庫県篠山市・山腹の斜面 2011.4/13)
刈り込みの行き届いた山腹北側のハイゴケが密生するやや乾いた斜面に多くの個体が開花していた。
斜面にはショウジョウバカマのほか、シシガシラ、ヒカゲノカズラ、ネザサ、ススキ、チガヤ、メリケンカルカヤ、ヤマスズメノヒエ、ツルボ、
ウバユリ、タチツボスミレ、ゲンノショウコ、ニリンソウ、ウマノアシガタ、ヨモギ、カンサイタンポポ、ヒメジョオン、ニガナなどが生育する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982. ユリ科ショウジョウバカマ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.26. pl.16. 平凡社
北村四郎, 2004 ユリ科ショウジョウバカマ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.151. pl.42. 保育社
牧野富太郎, 1961 ショウジョウバカマ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 830. 北隆館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ショウジョウバカマ. 『六甲山地の植物誌』 216. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ショウジョウバカマ. 『近畿地方植物誌』 141. 大阪自然史センター
藤田昇・布施静香・黒崎史平・高橋弘・田村実・山下純 2007. ショウジョウバカマ. 兵庫県産維管束植物9 ユリ科. 人と自然18:94. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:25th.Aug.2014

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