ザゼンソウ Symplocarpus foetidus  Salisb. ex W.P.C.Barton
    var. latissimus  H.Hara
サトイモ科 ザゼンソウ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県香美町・河畔 2008.4/27)

半日陰の湿地や細流脇に生える多年草。大型で花には悪臭がある。
北方系の種で、関東以西では山地〜低地の湿地に、氷河期の遺存種として隔離分布する。
葉は根生して長い柄があり、心円形、花後も伸びて長さ幅ともに40cm。
花序は仏炎苞に包まれて、葉に先立って現われ、花茎は長さ10〜20cm。
仏炎苞はふつう暗紫褐色まれに緑色、卵円形のボート状で肉質、筒部はなく、長さ約20cm、径約15cmになり、先端はとがる。
花序は約2cmの肉穂花序で楕円形、密に小花をつけ下部は花序に埋まる。
小花は4個の花被片を持ち、両性小花。雄蕊4個で花糸は扁平、葯は黄色で外向、柱頭よりもやや高くつく。
雌蕊は1個、子房は1室で下部は花軸に埋まり、1個の胚珠がある。
果序は球形で、多数の種子がある。種子には種子と胚乳はなく、スポンジ状の花軸に埋まる。
後に花軸はくずれて種子を散らす。果実は液果。

ザゼンソウは肉穂花序の開花時に発熱することでよく知られる。その温度は20℃にものなり、周辺の雪を溶かし、
送粉者となるハエを呼び込むという。ザゼンソウはミズバショウと違って自家不合和性であり、送粉者なしでは結実できない。

ザゼンソウよりも小型な花をつけるものにヒメザゼンソウS. nipponicus)がある。
仏炎苞の大きさは4cm程度で、先に葉を出し、開花は葉が枯れ落ちる6月頃。林縁や道端の湿地に生え、日本海側に分布する。
近似種 : ミズバショウ、 ヒメザゼンソウ、ヒメカイウ

■分布:北海道、本州 ・ 朝鮮半島、アムール、ウスリー、樺太
■生育環境:半日陰の湿地や、樹林内の細流脇など。
■果実期:3〜5月
■西宮市内での分布:分布しない。西日本には隔離分布し、自生地は局限される。

Fig.2 仏炎苞に包まれた花序。(兵庫県香美町・河畔 2008.4/27)
  花序は黄色〜赤紫色を帯びたものまで様々。楕円形で多数の小花が密につく。
  花は開花時に15〜30℃に発熱することが知られており、悪臭を放って越冬後のハエを引き寄せる。
  画像のものは開花したばかりのもので、雌蕊の柱頭は現われているが、雄蕊の葯はまだ花被の外に出ていない。

Fig.3 果実形成期のザゼンソウ。(兵庫県香美町・河畔 2008.4/27)
  花後の色褪せた仏炎苞が何物かによって壊され、果実形成期の果序が観察できた。
  果実はいびつな6角形で、肉色となり、柱頭部分がふくらんでいた。
  仏炎苞は肉質で厚味があることがわかる。

Fig.4 根生葉。(兵庫県香美町・河畔 2008.4/27)
  根生葉は大きく心円形で、長い柄があり、長さ幅ともに約40cmになる。

生育環境と生態
Fig.5 半日陰の湿地に生育するザゼンソウ。(兵庫県香美町・湿地 2008.4/27)
自生地は兵庫県が天然記念物に指定し、保護されているが車道や木道から観察することができる。
スギ植林に囲まれた平坦地に雪解けによってできた湿地があり、春先になるとザゼンソウが開花する。
この時期には競合する種がほとんど見られず、混生する種はオオバタネツケバナのみだった。
半常緑のスゲ属sp.が萌芽していたが、いまだ出穂のないこの時期に種は特定できなかった。
6月頃再び訪れたい。

Fig.6 河畔に生育するザゼンソウ。(兵庫県香美町・河畔 2008.4/27)
同じ保護地区内には寺社林があり、その端を山から流れてきた細流が流れており、その脇にもザゼンソウが生育している。
手前に見えているのは残雪で、除雪作業によって溜まったものだろう。
残雪の脇に近いものほど花は新しく、奥の寺社林に近いものはすでに花期は終わって、大きな根生葉を広げている。
細流脇には他にコチャルメルソウ、オオバタネツケバナ、コンロンソウ、ウワバミソウ、サンインネコノメなどが生育している。


【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980 ミズバショウ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 144〜145. 北隆館
大橋広好, 1982 ザゼンソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
          pp.138. pls.121. 平凡社
北村四郎, 2004 ザゼンソウ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.190〜191. pls.49. 保育社
牧野富太郎, 1961 ザゼンソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 810. 北隆館
村田源. 2004. ザゼンソウ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター

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