チョウジタデ Ludwigia epilobioides  Maxim. アカバナ科 チョウジタデ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・水田 2006.9/12)

水田、休耕田、用水路、中栄養〜やや富栄養な溜池や湿地に生育する1年草。
茎は直立、多数分枝して高さ30〜70cm、稜線があり、ふつう紅色を帯び、無毛または短毛がある。
葉は互生し、披針形〜長楕円状披針形、長さ3〜10cm、幅7〜25mmで全縁、短い柄がある。
花は葉腋につき、花柄はないが、子房は花柄状で、花後長さ1.5〜2.5cmの刮ハとなる。子房の基部には2個の小苞がある。
萼裂片は4個、長さ2〜3mm。花弁は黄色で4個、ふつう萼裂片と同長か短い。雄蕊は4個。ときに萼裂片、花弁、雄蕊ともに5個づつ付くこともある。
刮ハは線状円柱形で、やや不明瞭な4稜があり、赤紫色、長さ1.5〜3cm。種子は海綿状の内果皮に包まれ、紡錘形で長さ0.9mm。

酷似するものにウスゲチョウジタデL. greatrexii)があり、兵庫県下では但馬地方に局所的に分布する。
花盤に明らかに毛が密生し、果実期の紅葉はチョウジタデよりも明るい橙赤色となり、刮ハ表面は凹凸が少なく、海綿状の内果皮はもろく崩れやすい。
5個の花弁や茎葉の毛はときにチョウジタデにも見られるものであり、花床の毛と刮ハ表面の凹凸、内果皮の状態を総合した上で判断されるべきものである。
他に似たものでは外来種のヒレタゴボウL. decurrens)があり、花は大きく径2.5cm前後。刮ハは4稜あり、4個の萼片は宿存する。
同じく外来種のタゴボウモドキL. hyssopifolia)はチョウジタデに酷似するが、雄蕊は8個である点で区別できる。
近似種 : ウスゲチョウジタデ、 ヒレタゴボウ、 タゴボウモドキ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、台湾、北ベトナム
■生育環境:水田、休耕田、用水路、中栄養〜やや富栄養な溜池や湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:山地帯を除いた市内全域に普通。

Fig.2 花は葉腋につく。(滋賀県・水田 2008.9/8)
  花は無柄で、子房が花柄状に長く伸びる。
  ふつう萼裂片、花弁、雄蕊は4個づつつくが、画像のように5個づつつくものもよく見られる。
  花弁数によって酷似するウスゲチョウジタデと区別することはできない。

Fig.3 茎の様子。(滋賀県・水田 2008.9/8)
  茎には葉柄の縁へと流れる稜があるが、ヒレタゴボウのように顕著な翼状にはならない

Fig.4 葉。(滋賀県・水田 2008.9/8)
  葉は互生してつき、披針形で、長さ3〜10cm、短い柄がある。
  小さな葉は鈍頭であることが多く、大きな葉はやや鋭頭。

Fig.5 チョウジタデの果実。(西宮市・水田 2006.11/16)
  果実は刮ハで4室あり、中の種子は海綿状の内果皮に包まれている。

Fig.6 半ば種子の落ちた刮ハ。(西宮市・水田 2009.11/20)
  種子は海綿状の内果皮に包まれたまま、ばらけて落ちる。内果皮は浮力があり、水面に浮かんで種子散布も為される。
  酷似するウスゲチョウジタデの内果皮は脆く崩れやすく、種子に密着することなく、刮ハが裂けるとばらけてしまう。
  したがって、ウスゲチョウジタデは内果皮の浮力による種子の水散布は期待できないことになる。
  兵庫県下でのウスゲチョウジタデの分布域が限られるのは、少なくともこのことがひとつの要因となっていると予想される。

Fig.7 海綿状の内果皮に包まれた種子。(西宮市・水田 2009.11/20)
  海綿状の果皮に包まれた種子は斜めになって朔室内に縦に並んで収まっている。内果皮を取り除くと種子が現れる(右)。

Fig.8 痩果。(西宮市・水田 2009.11/20)
  痩果は長楕円形、長さ約1.4mm、淡紅色を帯びて美しい。

Fig.9 痩果の表面には非常に細かい横長の格子紋が見られる。(西宮市・水田 2009.11/20)

Fig.10 呼吸根。(西宮市・休耕田 2007.10/14)
  カヤツリグサ科のように空気を送る導管が発達していないためか、抽水状態の大きな株になると地中に広げた根から呼吸根を上げる。

Fig.11 発芽して間もない幼苗。(西宮市・休耕田 2007.6/27)
  幼苗の頃から赤味を帯びていることが多い。

Fig.12 成長期のチョウジタデ。(兵庫県三田市・休耕田 2007.6/23)
 

Fig.13 チョウジタデの葉を後食するコガタルリハムシ。(西宮市・休耕田 2007.9/13)
  コガタルリハムシの幼虫はスイバやギシギシを食草とするが、成虫は意外と食性の幅は広いようで、キカシグサやヒメミソハギも後食する。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 休耕田で生育するチョウジタデ。(西宮市・休耕田 2007.8/19)
度々耕起される管理休耕田に生育しているもの。
画像中にはタマガヤツリ、ヒロハイヌノヒゲ、キカシグサ、コウガイゼキショウ、イボクサ、セリ、ヤナギタデなどが見える。

Fig.15 水田内に生育するチョウジタデ。(西宮市・水田 2007.9/6)
少し環境のよい水田であれば、たいていチョウジタデの姿を眼にすることができる。
画像にはアメリカタカサブロウが見えるが、他にオモダカ、クログワイ、イヌホタルイ、ミズオオバコ、キカシグサなどが見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般図書を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. アカバナ科チョウジタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.266〜267. pls.243. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 アカバナ科チョウジタデ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花編』 p.43〜44. pls.12. 
長田武正・長田喜美子, 1984 チョウジタデ. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 p.132. pls.130. 保育社
村上司郎. 2001. アカバナ科チョウジタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1037〜1040. 神奈川県立生命の星・地球博物館
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七. 2001. ヒレタゴボウ、タゴボウモドキ. 『日本帰化植物写真図鑑』 206,207. 全国農村教育協会
大場秀章. 2001. アカバナ科チョウジタデ属. 清水建美(編)『日本の帰化植物』 p.143〜144. pls.64. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. チョウジタデ. 『六甲山地の植物誌』 163. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. チョウジタデ. 『近畿地方植物誌』 64. 大阪自然史センター
黒崎史平 2003. チョウジタデ. 兵庫県産維管束植物5 アカバナ科. 人と自然14:147. 兵庫県立・人と自然の博物館
小林禧樹・菅村定昌・松岡成久・黒崎史平. 2010. 円山川下流域(豊岡市)のウスゲチョウジタデ(アカバナ科)の標本による形質観察.
       兵庫の植物 20:15〜18. 兵庫県植物誌研究会

最終更新日:15nd.Jan.2011

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