ヤガミスゲ Carex maackii  Maxim. カヤツリグサ科 スゲ属 ヤガミスゲ節
湿生植物  兵庫県RDB Aランク
Fig.1 (西宮市・河川敷 2009.5/21)

河川敷などの湿地や湿った草地に生育する中〜大型のスゲ。多年草。
根茎は短く叢生し、ときに大株となる。葉幅は3〜6mm、茎の中部にもつき、有花茎は高さ40〜70cm、鋭稜があって著しくざらつく。
花序は無柄の小穂を円柱状に密生し、長さ3〜5cm、幅約1cm、苞は短く葉身がほとんど発達しない。
小穂は長さ5〜8mm、雌雄性で多数の雌花と基部に少数の雄花をつける。
雌鱗片は卵形で鈍頭またはやや鋭頭、淡緑色、果胞よりも短い。果胞は長さ約3.5mmで、熟すとやや開出、狭いが明らかな翼があり、その縁はざらつき、
上部は次第に狭くなって長嘴となる。痩果は長さ1.7mm。柱頭は2岐する。

帰化種に似たものがある。
アメリカヤガミスゲ(C. scoparia)は市内に帰化しているほか六甲山周辺でも稀に見られ、果胞は狭卵形〜披針形、熟しても直立する。
小穂は3〜8個つき、下方のものはやや離れてつく。
北海道に定着している帰化種にクシロヤガミスゲ(C. crawfordii)がある。果胞は狭卵形〜披針形、熟しても直立。 小穂は7〜12個が全て密集してつく。
葉幅は1〜3mmと細い。
また、関東地方に帰化しているものにヒレヤガミスゲ(C. brevior)がある。果胞は広卵形、熟しても直立、縁は幅広い翼となる。 3〜6個の小穂をやや接近してつける。
このほか在来のミコシガヤ(C. neurocarpa)やミノボロスゲ(C. albata)など、ミノボロスゲ節のものが似るが、 いずれの種も小穂は雄雌性なので区別がつく。
近似種 : アメリカヤガミスゲ、 クシロヤガミスゲ、ヒレヤガミスゲ

■分布:北海道、本州、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー、アムール
■生育環境:河川敷の湿地や湿った草地など。
■果実期:5〜6月
■西宮市内での分布:河川敷で見られるが、個体数は少ない。

Fig.2 叢生して大株となったヤガミスゲ。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
  手前の黄緑色の草体は全てヤガミスゲ。

Fig.3 茎には有花茎と無花茎の2様がある。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
  有花茎も無花茎もほぼ同時期に伸びはじめ、無花茎のほうが多少とも長くなる。無花茎には葉鞘の長い葉がつき、夏期過ぎると倒れ込むものが多い。

Fig.4 開花中のヤガミスゲの花序。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
  花序には小穂が密集してつき、苞葉は小さく、ほとんど発達しない。
  小穂は雌雄性で、上部から多数の柱頭が出ている。雄花は下部に少数つく。画像では最下付近の小穂から葯が少しだけのぞいている。
  小穂は基部側から順に開花していくため、雄花の葯はこれから上に向かって出てくるのだろう。ということは雌性先熟ということになる。

Fig.5 果実期の小穂。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
  果胞は熟すとやや開出する。雌鱗片は果胞よりも短く、鈍頭またはやや鋭頭。

Fig.6 果胞と痩果。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
  果胞は卵形で、縁に狭い翼があり、縁はざらつく。果胞の縁がざらついている様子はFig.5画像のほうが解りやすいかもしれない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.7 河畔にアゼナルコとともに生育するヤガミスゲ。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
河畔水際に生育している個体でかなり株は大きく、左隣にはアゼナルコが成育している。

Fig.8 ワンド状の河畔水際に生育するヤガミスゲ。(西宮市・河川敷 2009.5/21)
画像左側は浅水域となりナガエツルノゲイトウが繁茂している。このヤガミスゲは最近定着した比較的小型の個体で、イヌドクサ、クサヨシとともに生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 砂防ダム内の氾濫原に生育するヤガミスゲ。(神戸市・砂防ダム内 2009.6/7)
とある谷筋の砂防ダム内で発見された集団で、砂防ダム内には上流からの砂質の土砂が堆積した氾濫原が形成され、そこに100株以上の個体が確認できた。
大株が多く、基部では径40cmを越える個体も多い。ヤガミスゲがこのような砂防ダム内に生育する例は珍しく、どのような由来によって定着したのか謎である。
この谷の上部には宅地も存在するほか、溜池などもあり、元からあったものなのか、造成の際に土砂とともに移入されたものなのか見極めがたい。
氾濫原内にはクサヨシ、カモジグサ、イチゴツナギ、オヤブジラミに混じってオオブタクサが多いのも気になるところだ。

Fig.10 湖岸の水辺湿地林の林縁に生育するヤガミスゲ。(滋賀県・湖岸 2009.6/11)
湖岸のあちこちを探して、ようやく日が沈んでから発見したため画像は暗い。
ヤナギ類やハンノキなどの水辺湿地林の林縁で丈の低いヨシや他の高茎雑草に埋もれるようにしてアゼナルコとともに十数個体が見られた。
やはり砂質の土壌で生育しているが、草体にあまり勢いはなく、小型の個体が多かった。

Fig.11 河川敷の掘削地に生育するヤガミスゲ。(大阪府・河川敷 2013.5/15)
河川敷のアシ原の掘削された場所に埋土種子からの発芽と思われる個体が多数生育していた。
掘削地には水が溜まっている場所が多いが、ヤガミスゲは抽水状態となるような箇所には生育しておらず、湿った砂地に見られた。
同所的にアゼナルコ、ミコシガヤ、タコノアシ、イヌタデ属sp.などが生育している。
ヤガミスゲはアシ原内や河畔林の林縁などにも点々と生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 ヤガミスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.167. pl.148. 平凡社
小山鐡夫, 2004 ヤガミスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.261. pl.65. 保育社
勝山輝男. 2001. スゲ属ヤガミスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 449〜451. 神奈川県立生命の星・地球博物館
谷城勝弘, 2007 ヤガミスゲ. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 41. 全国農村教育協会
村田源. 2004. ヤガミスゲ. 『近畿地方植物誌』 157. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤガミスゲ. 『六甲山地の植物誌』 245. (財)神戸市公園緑化協会
藤井伸二. 1995. 滋賀県におけるヤガミスゲの記録. 植物分類・地理 46:211. 日本植物分類学会
山本修平. 2008. 和歌山県のヤガミスゲ. すげの会ニュース18:3. すげの会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヤガミスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:151.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.May.2013

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