ヤマネコノメソウ Chrysosplenium japonicum  (Maxim.) Makino ユキノシタ科 ネコノメソウ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・水田の畦 2008.3/25)

ふつう日陰〜半日陰の林縁や林床に生える多年草。盛夏には半日陰となるような水田の畦、用水路脇にもよく見られる。
根生葉には長い柄があり、葉身は腎円形で、幅15〜25mm、浅い鋸歯がある。葉柄には軟毛が生え、ときに葉身にも軟毛が散生する。
花茎は高さ5〜15cmで、斜上または直立し、1〜2枚の少数の葉を互生する。花茎、葉柄ともに軟毛がある。
花は淡緑色、花弁はなく、萼片は扁円形で開出し、長さ約1mm。雄蕊はふつう4、または8個で、ごく短い。
花後、開出していた萼片は立ちあがり、萼片につつまれて2個の突起を左右に張り出した果実をつける。
果実は熟すと洋杯状に裂開し、下半に多数の種子をつける。
種子は広円形で1稜あり、微細な小凸粒がある。
花後、花茎の基部に紫褐色の小さな珠芽(ムカゴ)をつくり、栄養繁殖も行う。
近似種 : ネコノメソウ

■分布:北海道(西南部)、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島・満州
■生育環境:日陰〜半日陰の湿った林縁や林床。夏場には半日陰となる水田の畦、用水路脇など。
■果実期:3〜4月
■西宮市内での分布:中北部の六甲山麓の肥沃な神戸層群や洪積層上の村落周辺の水田の畦や、畑地周辺の湿った場所で見られる。

Fig.2 開花したヤマネコノメソウ。(西宮市・水田の畦 2008.3/16)
  花弁はなく、4個の黄緑色〜淡緑色の萼片が開出した花被をつける。
  雄蕊は黄色で、ふつう4個か8個。地域によって変異があるようで、西宮市内のものは雄蕊が4個つく。
  雌蕊の柱頭は2個だが、非常に小さく、この画像からではわからない。
  苞葉にはまばらに軟毛が見られるが、後出Fig.4のように、毛の生えないものもある。

Fig.3 花茎についた葉。(西宮市・水田の畦 2008.3/16)
  花茎につく葉はふつう1〜2個で、互生し、花茎や葉柄には軟毛が目立つ。
  近似種のネコノメソウの葉は対生し、下部の葉腋から分枝することが多く、花茎や葉柄はほとんど無毛。
  葉の鋸歯はネコノメソウのものよりも広く、欠刻は浅い。

Fig.4 果実形成期。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.3/25)
  花後、萼片は立ち上がり未熟な果実を包み込む。
  果実はほぼ同形の2個の心皮からなり、雌蕊の花柱の2個の突起が発達し、左右に少し張り出す。
  猫の目の名は、この果実からきたというが、まるで遮光器土偶の眼のように見える。

Fig.5 果実は熟すと裂開して、多数の種子があらわれる。(西宮市・水田の畦 2007.3/29)
  果実は洋杯状に裂け、下半部に沢山の種子がある。種子は雨滴などに打たれることによって周囲に散布される。
  フデリンドウなどのリンドウ科の一部のものが同様の散布方法を持っている。

Fig.6 花後、茎の基部に肉芽(むかご)を形成する。(兵庫県篠山市・果樹園の土手 2008.5/16)
  肉芽は発芽して翌年にそなえてロゼットを形成して越冬する。

Fig.7 冬期に形成されるロゼット。(西宮市・水田の畦 2007.1/5)
  冬期には腎円形の葉をロゼット状に広げる。
  この頃のものは見慣れないうちは、同様な環境に生えるカキドオシ、ツボクサ、チドメグサなど間違えるかもしれない。
  しかし、ヤマネコノメソウは走出枝を生じない点で明確に区別できる。

Fig.8 ロゼットの葉身。(西宮市・水田の畦 2007.1/5)
  ロゼットで越冬中の個体では、葉身、葉柄ともに軟毛が目立つ。
  春先に生じる葉よりも光沢があり、やや厚味を帯びる。

Fig.9 花茎をあげはじめたヤマネコノメソウ。(兵庫県篠山市・林縁 2008.3/2)
  まだこの時期の根生葉は目立つが、花茎を多数あげた最盛期になると、根生葉は枯れはじめる。

Fig.10 暗所で群生する個体群。(兵庫県篠山市・スギ植林地内 2008.4/13)
  ヤマネコノメソウは暗所にもよく適応して生育する。
  暗所で生育するものは花茎が伸び、花期がやや遅れる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 休耕田の畦に生育するヤマネコノメソウ。(西宮市・休耕田の畦 2008.3/16)
画像の場所は夏になると草花が生い茂り、用水路脇ではシノダケが伸びて半日陰となる、ハイゴケなどの蘚苔類に覆われた畦で、
ヤマネコノメソウはそこに点々と生育している。
この畦にはノアザミ、カキドオシ、ヨモギ、ムラサキケマン、アキカラマツ、ツルリンドウ、アキノタムラソウ、アキノウナギツカミ、ホソイ、
ミゾイチゴツナギなど、農耕地、林縁、水田に生育する植物が入り混じって生育する。
付近の集落周辺では畦以外でも竹やぶの脇の湿った場所、日陰の畑の土手などに見られ、個体数は多い。

Fig.12 河川敷の湧水による湿地に生育するヤマネコノメソウ(果実期)。(西宮市・河川敷の湿地 2010.4/13)
スギナ、セリ、オオバタネツケバナ、ニシノオオタネツケバナ、ニョイスミレ、カキドオシなどとともに河川敷内に生じた湿地に生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大場秀章, 1982. ユキノシタ科ネコノメソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.157〜161. pls.147〜150. 平凡社
村田源, 2004 ユキノシタ科ネコノメソウ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花編』 p.138〜143. pls.34.
牧野富太郎, 1961 ヤマネコノメソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 236. 北隆館
高橋秀男・長谷川義人. 2001. ユキノシタ科ネコノメソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 792〜797. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤマネコノメソウ. 『六甲山地の植物誌』 132. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヤマネコノメソウ. 『近畿地方植物誌』 95. 大阪自然史センター
福岡誠行・布施静香・橋本光政・黒崎史平・若林三千男 2002. ヤマネコノメソウ. 兵庫県産維管束植物4 ユキノシタ科. 人と自然13:135. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Apr.2010

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