ヤマトキソウ Pogonia minor  (Makino) Makino ラン科 トキソウ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)

丘陵〜山地の日当たりの良い湿った草地や湿地の周縁部に生える多年草。トキソウよりも小型。
根茎は横走し、肥厚せず、地上茎を出す。茎は根茎の節や先から出て、高さ10〜20cm、茎の中央より少し上に1葉をつける。
葉はやや厚く肉質、長楕円形、長さ3〜7cm、幅4〜12mm、基部は狭まり茎に沿って流れる。
花は花茎の頂端に上向きに単生するが、ほとんど開かず、淡紅色。背萼片は線状披針形、側萼片も同形、ともに長さ12mm。
側花弁は萼片と同長であるが、幅が広い。
唇弁は長楕円形、萼片や側花弁より少し短く、3裂し、側裂片は小型、中裂片の表面に肉質突起が密生する。
蕊柱は長さ5mm、葯は4角状球形で、白色。花がまったく白色のものもある。

トキソウP. japonica)は草体がより大きく、花は横を向いて半開し、主に貧栄養な湿地に生育する。
近似種 : トキソウ
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、台湾
■生育環境:日当たりのよい湿った草地や湿地の周縁部など。
■果実期:6〜8月
■西宮市内での分布:個体数が少なく標本は採集していないが、北部の2ヶ所の小湿地周縁に生育しているのを確認している。

Fig.2 開花したヤマトキソウ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)
  花は茎頂に上向きに1個つき、ほとんど開かない。3つの萼片がわずかに開いている。3つの萼片は同形、同長。
  花柄の基部には1個の苞葉がつく。

Fig.3 正面から見た花。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)
  下唇中裂片に肉質突起が密生しているのは判るが、蕊柱などの核心部は見えない。

Fig.4 上方から見た花。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)

Fig.5 葉状の苞と葉。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)
  苞と葉の形はほとんど同一で、苞はやや小さい。

Fig.6 茎中部につく葉。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)
  葉は茎の中央より少し上に1個つき、やや厚く肉質、長楕円形、基部は狭まり茎に沿って流れる。

Fig.7 未熟な果実。(西宮市・小湿地の脇 2013.7/9)
  果実は刮ハで直立してつく。この状態でのトキソウとの区別は難しい。

Fig.8 晩秋の刮ハ。(兵庫県加東市・溜池畔の裸地 2013.11/21)
  刮ハは熟して黒褐色となり、草体の地上部も枯れていたが、刮ハはまだ裂開していなかった。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 湿地の周縁部で生育するヤマトキソウ。(西宮市・湿地周縁部 2015.6/9)
溜池に接した小湿地から乾いた林縁への移行部分に、数個体のヤマトキソウが生育していた。
湿地部分にはイグサ、ハリコウガイゼキショウ、ゴウソ、ヒメゴウソ、ノギラン、トダシバ、チガヤが見られ、乾いた部分には
ススキ、トダシバ、メリケンカルカヤ、ヒメハギ、ニガナ、地衣類のトゲシバリが見られ、貧栄養地であることがわかる。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 溜池土堤で生育するヤマトキソウ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2013.6/4)
草刈り管理の行き届いた溜池土堤の丈の低いネザサ群落中に、30個体ほどが点々と生育している。
土堤最下部からは水がしみ出し、サワヒヨドリ、キツネアザミが多く、その上部にはイシモチソウが群生し、ホソバリンドウ、ヤマラッキョウが生育する。
ヤマトキソウはイシモチソウ群落の上部から現れ、堤体の中部よりやや下に帯状に生育している。
ヤマトキソウの生育帯ではイシモチソウとともに、ノギラン、ソクシンラン、ヤマラッキョウ、ノグサなどが見られる。
ヤマトキソウの生育帯より上はカキラン、イガタツナミ→キキョウ、ツリガネニンジン→センブリと続く。

Fig.11 湿地周縁部のオオミズゴケ群落中に生育するヤマトキソウ。(兵庫県篠山市 2009.6/23)
溜池畔に広がっている貧栄養湿地から雑木林へと続く、湿地周縁部のオオミズゴケ群落中に、10個体ほどのヤマトキソウが生育していた。
オオミズゴケ群落中にはアセビ、モチツツジなどの幼木が疎らに生育し、ヌマガヤの大株が生育している。
湿地側にはミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、コイヌノハナヒゲ、モウセンゴケ、サギソウ、ハリコウガイゼキショウなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
里見信生, 1982. ラン科トキソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.205. pl.184. 平凡社
村田源, 2004 ラン科トキソウ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.25〜26. pl.6. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヤマトキソウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 886. 北隆館
秋山守・佐宗盈 2001. ラン科トキソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 502〜503. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤマトキソウ. 『六甲山地の植物誌』 257. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. トキソウ、ヤマトキソウ. 『近畿地方植物誌』 136. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子 2009. ヤマトキソウ. 兵庫県産維管束植物11 ラン科. 人と自然20:188. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:23rd.Jul.2016

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