ヤリノホゴケ Calliergonella cuspidata  (Hedw.) Loeske ヤナギゴケ科 ヤリノホゴケ属
湿生〜抽水蘚類  兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)

Fig.2 (西宮市・休耕田 2015.3/17)

湿地や休耕田、用水路、湿った草の上などに抽水性〜陸生する蘚類。
水際付近に緑色〜褐色を帯びた群落をつくり、触るとやや硬い感触がある。
茎は長く10cmに達し、やや羽状に不規則に分枝し、横断面は表皮細胞は他よりも大きくて薄膜、透明。枝は長さ5〜10mm。
葉は長さ2〜3o、ふつう長さと幅の比は2:1以上で、あまり展開せず、枝先では覆瓦状に葉をつけて真直ぐにとがる。
茎葉は卵形〜楕円状卵形で舟形に凹み、葉頂は丸いが、ときに短尖頭がある。カバーグラスを乗せると、葉先は裂けやすい。
葉縁は全縁、中肋は2本で短いか全く欠く。葉身細胞は波状の線形、長さ65-85μ、幅約5μ、膜は薄い。
翼細胞は方形で薄膜、やや透明で明瞭な区画をつくる。
枝葉は小型でふつうしだいに狭くなりややとがる。
雌雄異株で凾ヘまれ。剳ソは長さ5〜6cm。剋浮ヘ2列で完全。
近似種 : ミヤマカギハイゴケ、ウカミカマゴケ、ウスキシメリゴケ、 ササオカゴケ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ シベリア、アジア温帯域、ヨーロッパ、北アメリカ、ニュージーランド、北アフリカ。
■生育環境:湿地や休耕田、用水路、湿った草の上など。
■西宮市内での分布:北部の休耕田で生育している。

Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
  茎は長く10cmに達し、やや羽状に不規則に分枝する。触るとやや硬い感触がある。

Fig.4 茎の頂端と枝。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
  茎頂や枝先では覆瓦状に葉をつけて真直ぐにとがる。枝は長さ5〜10mm。

Fig.5 茎の拡大。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
  緑色の葉は今年になってから生じた葉で、褐色で斜開しているものは前年の葉。葉には光沢がある。

Fig.6 茎葉。(西宮市・休耕田 2015.3/17)
  葉は長さ2〜3o、ふつう長さと幅の比は2:1以上で、向軸側は舟形に凹む。

Fig.7 茎葉の葉先。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
  葉先はカバーグラスを乗せると裂けやすく、画像のものも裂けている。葉先は円頭、ときに短尖頭、全縁。

Fig.8 葉身下部。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
  中肋は2本で短いか全く欠く。翼細胞は明瞭な区画をつくる。

Fig.9 翼細胞。(西宮市・休耕田 2015.3/17)
  翼細胞は方形で薄膜、やや透明。

Fig.10 葉身細胞。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2015.2/27)
  葉身細胞は波状の線形で細長く、長さ65-85μ、幅約5μ、膜は薄い。
  画像の個体では葉身細胞の長さは60〜100μと変異幅があったが、85μを越えるものは少数だった。

Fig.11 茎の横断面。(西宮市・休耕田 2015.3/17)
  中心束は弱い。表皮細胞は1層薄膜のものが並び、次に小さくて厚膜の細胞が数層並び、薄膜で大きな細胞に移行する。

Fig.12 早春に立ち上げた新茎。(兵庫県篠山市・用水路脇 2015.2/22)
  最初、茎は直立〜斜上し、槍の穂のように見えるが、突端は丸味を帯びた鈍頭となる。

Fig.13 乾時の苔体。(兵庫県篠山市・水田の畦 2015.4/3)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 休耕田に生育するヤリノホゴケ。(西宮市・休耕田 2015.3/17)
山際の沖積地にある休耕田2枚にわたってヤリノホゴケが広くマットを形成していた。
地下水位が高いためか、高茎多年生草本の侵入は少なく、夏から秋にかけては多数のミズオオバコが開花する場所である。
草本はガマのほかはよく見られる水田雑草が主体で、ヤリノホゴケのほかコウライイチイゴケ、コツボゴケ、コメバキヌゴケ、ヒロクチゴケ、
アゼゴケなどの蘚類が生育している。

生育環境と生態

Fig.15,16 休耕田に生育するヤリノホゴケ(上)と自生地全景(下)。(兵庫県篠山市・休耕田 2011.3/29・2009.9/11)
山際に造られた溜池のすぐ隣にある休耕田で、かなり経年しており湿地化している場所に生育している。
ヤリノホゴケは春先に目立ち、夏を過ぎるとほぼ全面がサワトウガラシに覆われてしまうため、目立たなくなる。
高茎本草はヤナギタデ、イヌビエ、ミゾソバが一画にある程度で、イヌノヒゲ、マツバイ、ハリイ、ウリカワ、アゼトウガラシ、アゼナなどの
草丈の低い1年生草本が多い。山際の日陰の部分はオオミズゴケ群落が発達し、湧水が供給されていることがわかる。

Fig.17 素掘りの用水路に生育するヤリノホゴケ。(兵庫県篠山市・素掘りの水路 2014.3/11)
谷池の溜池直下にある水路の水中や土手にヤリノホゴケが生育している。
水路内には湧水が混入しており、水田型イヌタヌキモが生育するほか、ヘラオモダカ、セリ、チドメグサ、キツネノボタン、ウマノアシガタ、
コケオトギリ、サワオトギリ、ノミノフスマ、コウガイゼキショウ、イグサ、ノハナショウブ、チゴザサなどの湿生・水生植物が生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ヤナギゴケ科. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.204〜212. pl.29. Figs.103〜107. 保育社
兵庫県. 2010. ヤリノホゴケ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落)』. (財)ひょうご環境創造協会

最終更新日:10th.May.2015

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