ヒツジグサ | Nymphaea tetragona Georgi | スイレン科 スイレン属 |
水生植物 > 浮葉植物 |
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池 2011.8/15) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池 2013.5/24) |
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Fig.3 (兵庫県篠山市・溜池 2013.6/4) |
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Fig.4 (兵庫県篠山市・溜池 2011.9/24) 主に貧〜中栄養または腐植栄養質な溜池や湖沼、止水した水路などに生育する多年草。 太い塊状の根茎から葉を根生し、葉は沈水葉と浮葉の2型がある。 沈水葉は側裂片が横に広がる幅の広い矢じり形〜半円形で薄く、長さ、幅、ともに15cmまで。 浮葉は楕円形〜卵形で基部は深く切れ込み、側裂片は一部重なる場合から、離れて広がる場合まで変異に富む。 長さ5〜30cm、幅4〜24cm、裏面は多少とも赤紫色を帯びる。 花は直径3〜7cm、萼片4個、花弁は白色で多数。雄蕊も多数で、雌蕊は多数の心皮が合生して1つとなる合生心皮。 開花は2〜3日続き、雌性先熟で、1日目は雌蕊が熟し、2日目には雄蕊が熟す。 花後、花柄は螺旋状に捩れて水中に没し、沈水状態で結実。果実は漿果で萼片に包まれたまま成熟し、 萼片が外れると漿果は溶解して、気泡を含んだ仮種皮に包まれた袋果が多数できて水面に浮いて移動する。 袋果には径2〜3.5mmの種子が数個入っており、約1日後に水底に沈んで、仮種皮は溶ける。 本種はコイやアメリカザリガニの食害に弱く、コイが放流された溜池や、アメリカザリガニの侵入した溜池のものは将来的には絶滅する。 また園芸種の温帯スイレンのように根茎で栄養繁殖することはなく、繁殖力の強いスイレンを移入すると勢いに負けて消滅することも多い。 近似種 : スイレン(温帯スイレン) ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ ヨーロッパ、東アジア、インド ■生育環境:貧〜中栄養または腐植栄養質な溜池や湖沼、ときに止水した用水路など。 ■花期:6〜11月 ■西宮市内での分布:中・北部の丘陵〜山間の溜池、棚田周辺の水路内などに生育するが、あまり多くない。 現在6ヶ所の溜池や用水路で確認しているが、アメリカザリガニの侵入した溜池では食害がひどく、絶滅寸前である。 |
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↑Fig.5 花冠。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16) 花径は3〜7cm、画像のものは5cm程度で、5cm〜6cm程度のものを最もよく見かける。 萼片は4枚で、十文字に配列し、外面は緑色、内側は白味を帯び、脈が明瞭である。 花は正午あたりから開き始め、午後2時頃全開となり、午後4時頃から閉じ始める。 |
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↑Fig.6 雌性期の花。(西宮市・溜池 2010.9/28) 開花は最初に偽柱頭が開き柱頭が現われる雌性期が1〜2日間あり、次に偽柱頭が閉じて雄性期となる。中央の5枚が偽柱頭。 画像のものは開花1日目の夕方で、偽柱頭が開いており、葯は中心部が裂開しかかっており、雌性期末期のものである。 雄蕊と花弁が未分化の小さな黄色の花弁が1枚見られる。 |
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↑Fig.6 雄性期の花。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16) 雄蕊成熟期で、葯が開いて花粉が放出している。 多数ある雄蕊の最外列のものは大型で幅広く、表面には花粉が見られず、花弁への移行状態を形質的にとどめている。 雌蕊は複数(ふつう8個)の心皮からなる合生心皮だが、柱頭基部の付属物が発達して偽柱頭となり、内側に折れ曲がって柱頭を覆い、 本来の柱頭は偽柱頭に隠れて見えない。 |
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↑Fig.8 ヒツジグサの果実。(西宮市・溜池 2007.10/28) 花後、果実は水中に没して熟す。萼片は果実が完全に熟すまで宿存する(上)。 萼片を取り除いた果実(下)。下半部には雄蕊のついた痕跡が残り、柱頭は灰黒色となる。 果実は漿果で、内部には8個内外の仮種皮状の袋果が形成され、袋果内には数個の種子ができる。 |
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↑Fig.9 ヒツジグサの種子。(西宮市・溜池 2007.10/28) 種子は卵形、長さ2〜3.5mmで、暗黄褐色。表面には細かい点刻が縦に線状に並ぶ。 ヒツジグサは根茎をのばして栄養繁殖することはなく、種子によって繁殖する。そのため発芽率は非常によい。 小さな睡蓮鉢に果実を放置しておいたところ、翌年いっせいに発芽して実生苗が底面を覆いつくしたことがあった。 こういった場合、実生苗は移植しても定着せず、数本の苗を残して間引くしかない。 増殖を考えるならば、種子をひとつひとつポリポットに蒔種してプラ舟や水槽に沈水させておいたほうがよい。 ヒツジグサが自生する溜池に園芸品種のスイレンを植栽すると、最後にはヒツジグサが消えてしまうのは、 根茎で盛んに栄養繁殖するスイレンに負けてしまうからである。 |
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↑Fig.10 早春のヒツジグサの根茎。(西宮市・溜池 2007.4/8) 園芸品種のスイレンとは異なり、横走する根茎は持たず塊状で、繊維質に包まれる。 早春に、径1〜2mmのひげ根を多数叢生してから、4月頃水中葉を根生しはじめる。 画像にも見られるように、ひげ根は紫色を帯びることがある。 |
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↑Fig.11 初夏の浮葉と沈水葉。(西宮市・溜池 2007.5/12) 沈水葉は側裂片が横に広がり、膜質で波をうつ。 初期の浮葉はやや細身で、側裂片が細長く、互いに離れていることが多い。 |
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↑Fig.12 若い個体に見られる沈水葉。(兵庫県篠山市・溜池 2011.9/24) 花茎を上げる成熟した個体では、開花期にはふつう沈水葉は消失するが、花茎を上げない未成熟の個体では通年沈水葉が見られる。 |
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↑Fig.13 開花期の浮葉。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16) 開花期の充分成熟した浮葉は楕円形〜卵形。側裂片の先端部は多少とも外側へ向くことが多い。 |
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↑Fig.14 湿地内の水路で生育するヒツジグサ。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/21) ヒツジグサとともに、ジュンサイ、フトヒルムシロが見られる。 いずれの種も本来は水深のある溜池に生育する水生植物であり、この湿地が以前は溜池であったことをうかがわせる。 ヒツジグサはこのような状態でもちゃんと開花結実が見られる。 |
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↑Fig.15 湿田内の用水路で開花した個体。(西宮市・湿田内の水路 2007.8/2) 水深の浅い湿田の用水路内に生育する個体では、周囲から草が覆いかぶさり日照量が少ないため、草体全体が矮小化する。 水面に現われている葉は沈水葉と浮葉の中間的な形態を持ち、花弁は細く、中心部の花弁は雄蕊の大きさとあまり変わらないものもある。 |
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↑Fig.16 ヒツジグサの陸生形。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.6/14) 時に溜池畔の陸上で陸生形を見かけることがある。葉身は小型化し厚味を増して波を打ち、葉柄は短く太い。 このような状態のものが開花しているのを見たことはまだない。 |
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↑Fig.17 浮葉上のガガブタネクイハムシ。(兵庫県篠山市・溜池 2013.6/4) 丹波地方のヒツジグサの葉上に見られるネクイハムシは、ほとんどがこのガガブタネクイハムシ。 成虫は5〜11月に出現するが、初夏に見かけることが多い。 ヒツジグサのほかジュンサイも食害するが、ガガブタを食草とするかどうか疑問が持たれている。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.18 腐植栄養質な溜池に生育するヒツジグサ。(西宮市 2006.10/9) 山中にある溜池で水深は比較的深く、周囲の森林から常に植物遺体が供給される。 浮葉植物のほとんどをヒツジグサが占め、水底にはイトモの群生が見られるほか、フトヒルムシロが少量見られた。 流れ込み部分には湿地が形成され、湿生植物群落が発達する。 |
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Fig.19 水位の落ちた秋期の溜池の浅瀬で生き残るヒツジグサ。(西宮市 2006.10/9) 浅瀬というよりも、ほとんど泥濘地のような状態だが、このような状況でも、浮葉を展開し光合成を行い根茎に栄養分を蓄えて、 翌年、春期の満水時には芽を出して生育することができる。 周囲に倒れ込んでいる線形の草体のうち、太いものはクログワイで、細いものはハリイ。 |
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Fig.20 用水路内で生育するヒツジグサ。(西宮市 2007.9/20) 日当たりが良く、開水面の少ない用水路では浮葉をひしめきあうように展開して生育し、花は小さくこじんまりと咲かせる。 この用水路は溜池直下にあり、溜池で生育していたものの子孫であろう。 本来自生していたはずの上部の溜池にはコイが放たれ、現在ではヒツジグサは見られない。 用水路脇にはミズギボウシ、モウセンゴケ、キセルアザミ、ヌマトラノオ、オオミズゴケなどの豊富な湿生植物が見られ、 早春にはカスミサンショウウオの卵塊も見られる。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.21 純群落が発達した山間の溜池。(兵庫県篠山市 2009.6/14) この溜池の上流部にはヒツジグサのほか、フトヒルムシロ、ホソバミズヒキモ、ミクリsp.が生育する溜池があるが、ヒツジグサだけが純群落を作っているのは どういった理由によるものだろうか?放流されている数匹のコイが原因だろうか。 |
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Fig.22 オオフトイ、フトヒルムシロなどとともに生育するヒツジグサ。(兵庫県篠山市 2009.5/23) ブラックバス、ブルーギル、コイの放流がなく、アメリカザリガニの侵入していない溜池では豊富な湿生・水生植物が見られる。 ここでは溜池内でヒツジグサ、フトヒルムシロ、ジュンサイ、ヒシ、イヌタヌキモ、オオフトイ、ヒメホタルイが見られ、池畔ではアゼスゲ、タチスゲ、ヌマトラノオ、 ムカゴニンジン、コウガイゼキショウが、土堤の湿った場所ではヒメコヌカグサ、モウセンゴケなどが見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑および一般図書を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 田村道夫, 1982. スイレン科スイレン属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.94〜95. pl.95. 平凡社 北村四郎, 2004 スイレン科スイレン属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.251〜252. pl.56. 保育社 牧野富太郎, 1961 ヒツジグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 164. 北隆館 諏訪哲夫. 2001. スイレン科スイレン属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 717. 神奈川県立生命の星・地球博物館 角野康郎, 1994. ヒツジグサ. 『日本水草図鑑』 p.109 pls.111. 文一統合出版 大滝末男, 1980. ヒツジグサ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 96〜97. 北隆館 浜島繁隆, 2001. ヒツジグサ. 浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 (編)『ため池の自然』 p.75〜76. 信山社サイテック 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. スイレン. 『六甲山地の植物誌』 123. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ヒツジグサ. 『近畿地方植物誌』 113. 大阪自然史センター 角野康郎・高野温子 2006. ヒツジグサ. 兵庫県産維管束植物7 スイレン科. 人と自然12:143. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:27th.Feb.2014 |