スイレン (温帯スイレン) Nymphaea spp. スイレン科 スイレン属
水生植物 > 浮葉植物 園芸植物 帰化植物
Fig.1 (西宮市山口町・溜池 2008.9/22)

本来は栽培されていたものが逸出、または人為的に植栽され溜池などに群生する多年草。
栽培種は大まかに温帯スイレンと熱帯スイレンに分けられるが、国内の野外に逸出しているのはすべて温帯スイレンである。
根茎は太く発達して泥中を横走し、先端から根生葉とひげ根を出し、新芽をつくる。
浮葉は在来のヒツジグサと比べ一回り大きく、生育環境により開きがあるが約30cm程度、円形で全縁、基部は葉柄の付けねまで切れ込む。
花は屋外の溜池などで見られるのは白色か紅色であり、花弁は多数。
果実や種子もできるらしいが、まだ観察したことはなく、雌蕊の柱頭とともに一度じっくりと観察する必要がある。

【メモ】 園芸品種の温帯スイレンは根茎による栄養繁殖が旺盛で、栄養条件が良いと浮葉で水面を覆いつくし、さらには水面上にまで葉を立ち上げて
     抽水状態でも生育していることがある。また、渇水しても表土が乾かない程度であれば陸生形でも生育していることがある。
     この繁殖力と適応力のため、溜池に一度スイレンを投入すると、在来の水生植物は序々に押され気味となり、スイレンの浮葉が水面の全体を覆うようになると
     在来の水生植物、特に浮葉植物は完全に駆逐されてしまい、在来の水生植物の生育する溜池に安易に植栽するべきものではない。

在来のスイレン属のものにヒツジグサ(N. tetragona)があり、貧栄養〜中栄養または腐植栄養質の溜池に生育する。
花は白色でスイレンよりも小さく径3〜7cmで、花弁数は少ない。浮葉は楕円形〜卵形で長さ5〜30cm、幅4〜25cmで、花も浮葉も北方にいくほど大きくなる。
近似種 : ヒツジグサ

■分布:園芸品種の逸出・帰化。原産地は北半球温帯域の各国。
■生育環境:溜池、水路など。
■花期:6〜9月
■西宮市内での分布:数ヶ所の溜池に、おそらくは植栽されている。

Fig.2 スイレンの花。(西宮市山口町・溜池 2008.9/22)
  スイレンの花は在来のヒツジグサの倍近くあり、花弁数も多く美しい。雄蕊の数も多い。

Fig.3 紅花品。(愛知県長久手町・溜池 2005.5/25)
  交雑させることにより、スイレンには数多くの品種がある。これは普及品の紅花のもの。

Fig.4 水面に浮かぶ浮葉。(西宮市山口町・溜池 2008.9/22)
  浮葉は円形で、光沢があり、全縁で縁は波打ち、基部は葉柄の付けねまでするどく切れ込む。
  ひと株からは多数の浮葉を出す。栄養条件がよいと水面上に折り重なるように浮葉を展開する。

Fig.5 抽水状態のスイレン。(愛知県・溜池 2005.6/21)
  浮葉が水面を覆いつくすと、葉を水面上に立ち上げて抽水状態となる。

Fig.6 浮上した根茎。(兵庫県加西市・溜池 2010.11/10)
  根茎は太く、径2〜3cmのものが多く見られた。分枝した先には小さな浮葉が束生していた。

Fig.7 陸生形のスイレン。(滋賀県・湿地 2008.9/8)
  水のない場所でも陸生形となって生育する。葉数は少なく、浮葉よりも径は小さい。開花は見られなかった。

Fig.8 水中に小さな葉をつけて越冬するスイレン。(兵庫県三木市・溜池 2007.2/22)
  冬期には浮葉より多少柔らかい小型の沈水葉を出して越冬する。画像のように小型の浮葉が紅葉して残ることもある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 やや中栄養な溜池の水面を覆うスイレン。(西宮市・溜池 2008.9/22)
やや中栄養〜富栄養な溜池に生育するものは栄養条件に恵まれているためか、水面上の大部分をスイレンの浮葉が覆ってしまう。
この溜池ではごくわずかな隙間にジュンサイとフトヒルムシロの浮葉が見られ、かろうじて生き残っている。
水面を密に浮葉が覆ってしまった箇所では、葉が水面上に出て抽水状態となっている。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 スイレンの根茎の集塊によって生じた浮島。(兵庫県加西市・溜池 2010.11/10)
水田や畑地に囲まれた東播磨の平野部の溜池に見られたもの。
池底の泥土が少なく、基層が堅く締まった沖積層がある溜池で、周囲の田園から栄養塩類が流入するような環境であった。
泥中に根茎は盛んに分枝して増え、古い根茎も容易に腐植しないため、浅い泥中で自身の浮力に耐え切れず、かなり大きな面積の浮島が多数出現している。
浮島にはヒレタゴボウ、アゼナ、アメリカアゼナが生育し、根茎から生じた小さなスイレンの陸生形が見られる。
比較的ふるくに生じた浮島では表土があってメリケンカルカヤが隙間なく群生していた。
夏場は水面がスイレンによって覆いつくされるため、水底には太陽光が届かず、スイレン以外の水生植物は全く見られない。
農家の方の話しによると、底面はほとんどの場所がスイレンの根茎によって覆いつくされ、浮島の根茎は膨大な量で手の打ちようがないという。
溜池畔には刈り込みの行き届いた草地から湧水による湿地がゆるやかに連続し、ゴマクサ、ヤマラッキョウ、キセルアザミ、モウセンゴケ、サワヒヨドリ、
ミカワシンジュガヤ、スズメノコビエ、ヌマカゼクサ、サイコクヌカボ、オオホシクサ、イヌノヒゲ、シロイヌノヒゲなどが生育するだけに残念である。
花を愛でる気持ちも解るが、この溜池は、その草本の性質もよく理解しないまま、園芸種を安易に山野に植栽するのは避けるべきであることを教えている。

参考画像----------ヒメスイレン----------
Fig.11 ヒメスイレン   Nymphaea cv.        (自宅植栽 2006.7/31)
在来種のヒツジグサの血を引くという園芸品種。草体も花もヒツジグサと似て小型だが、花茎を次々に上げ、花弁数は多い。
いくつかの品種が作出されており、紅花品もある。場所をとらず育て易いため、安価で販売されている。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 スイレン科スイレン属. 『日本水草図鑑』 109〜112. 文一統合出版
大滝末男, 1980 ヒツジグサ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 96,97. 北隆館

最終更新日:26th.Dec.2010

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