ガガブタ Nymphoides indica  (L.) O. Kuntze ミツガシワ科 アサザ属
水生植物 > 浮葉植物  環境省準絶滅危惧種
Fig.1 (兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7)

Fig.2 (兵庫県姫路市・溜池 2011.8/30)

湖沼、溜池やよどんだ水路などに生育する多年生の浮葉植物。水深1.7m以下の水域に生育する。
春先の生育初期には、数枚の沈水葉を形成し、後に水深に応じて長い葉柄を持つ初期の浮葉を水面に広げる。
さらに成育が進むと細長い茎が伸び、水面近くで節ができて、そこから数個の葉や花柄を出す。
葉はほぼ円心形〜卵心形で長さ7〜20cm、全縁。裏面は紫色を帯び、粒状の腺点がある。
花は茎の葉柄基部に多数束生して、順次開花してゆく。1日に咲くのは1花で、花は1日花である。
合弁花で、花冠はふつう5深裂して白色、中心部は黄色、径約15mm、内側全面に白毛が著しい。萼は5深裂。雄蕊5個。雌蕊1個。
長花柱花を持つ株と短花柱花を持つ株の2型があり、それぞれのタイプの株が混生しないと結実しない。
果実は楕円形で長さ3〜5mm、萼片に包まれる。
夏から秋にかけて、葉柄の基部に根が変形肥厚して太短くなり、それがバナナの房状となった殖芽を形成する。
翌春には殖芽から成長する株と、前年の根茎から成長する株とがある。

ヒメシロアサザN. coreana)は葉の長さ2〜6cm。花の径約8mm、花弁の縁だけに白毛がある。
ハナガガブタN. aquatica)はアメリカ原産の外来種。葉の長さは5-15cmほどで、花弁の基部付近に白毛がある。
秋に葉柄基部に形成される殖芽がバナナ状であるため、バナナプラントとも呼称される。
近似種 : ヒメシロアサザ、アサザ
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 東アジア、アフリカ、オーストラリア
■生育環境:湖沼、溜池、よどんだ水路など。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:市内では見られない。

Fig.3 開花したガガブタ。(兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7)
  ガガブタの花序は葉から1〜2cm下の葉柄基部に付くため、浮葉の切れ込んだ部分の水面上に花が出ていることが多い。

Fig.4 水中から見た花序。(兵庫県加東市・溜池 2011.9/19)
  伸びた水中茎に長さ1〜2cmの葉柄を持つ浮葉をつけ、その基部に束状の花序をつける。
  花序には数個〜10数個の花がつき、つぼみが成熟してくると花柄が上向きに曲がり開花時に水面上に出る。
  浮葉の裏面は紫色を帯びるものが多く、水中茎の先に新たに形成された浮葉の葉柄基部には花序となる突起が見える。

Fig.5 ガガブタの短花柱花。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29)
  花冠はふつう5深裂するが、ときに6深裂するものもある。白色で中心部は黄色。花弁の内側には白毛が生える。
  花柱は筒部の奥にあって、この花は雌蕊花柱が短く、短花柱花である。

Fig.6 長花柱花。(兵庫県姫路市・溜池 2011.8/30)
  長花柱花は花柱が花冠から飛び出す。柱頭は2岐。
  ガガブタは長花柱花、短花柱花が同一水域に混生しないと結実しないが、両タイプが混生する場所は稀である。

Fig.7 浮葉。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
  浮葉は円心形〜卵心形で全縁、基部は葉柄の付けねまで深く切れ込む。
  表面の斑模様が顕著なものは根生葉で、水中茎から出た葉には斑がないか、斑があっても薄い。

Fig.8 過密に群生するものは葉が水上に出る。(兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7)
  密な群落では明瞭な抽水葉ではないが、水面上に葉が出ることがある。

Fig.9 干上がった溜池で陸生状態となったガガブタ。(兵庫県加東市・干上がった溜池畔 2008.10/19)
  陸生状態となっても、ある程度の耐性がある。葉は小型化し、葉面の光沢は著しい。
  このような状態のものは開花しているのを見たことがない。長期の渇水はガガブタにはダメージが大きい。

Fig.10 殖芽を形成したガガブタ。(兵庫県加西市・溜池 2008.11/2)
  夏から秋にかけてガガブタは沢山の殖芽をつくる。殖芽は茎につく浮葉の葉柄基部の根が肥厚してできる。

Fig.11 浅瀬に打ち寄せられた殖芽。(兵庫県加西市・溜池 2011.1/26)
  肥厚した根の内部には多量のでんぷんが貯えられ、春の出芽に使われる。

Fig.12 殖芽からの芽生え。(兵庫県明石市・溜池 2007.4/5)
  殖芽は春先になると、まずはじめに線形の葉を出し、その後三角状卵形の小さな葉を出す。
  浮葉は水面には巻いた状態で到達して、水面に出てから広げる。水面には水深には関係なく5日程度で到達するという。
  夏に形成された殖芽は、翌春を待たずに発芽するものも多い。

Fig.13 殖芽からの芽生え。その2。(兵庫県明石市・溜池 2007.4/5)
  次に殖芽の一部が根となり、新芽の基部から根を多数出す。

Fig.14 浅瀬で萌芽直前のガガブタ群落。(兵庫県明石市・溜池 2007.4/5)
  ガガブタは小さな三角卵状の葉を数個つけた状態で越冬する。画像では水面に出ているが、この葉は沈水葉である。
  この後、水温が上昇しはじめると新しい葉が現れて、越冬していた葉は枯れる。

生育環境と生態
Fig.15 水面を覆うガガブタ群落。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
やや富栄養な平野部の溜池で水面をパッチ状に覆う。他の箇所ではオニビシも群落をつくっていた。

Fig.16 減水した溜池畔に取り残された殖芽。(兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/19)
Fig.9 と同じ溜池であるが、湧水がある裸地の殖芽はあまり芽吹いていない。
池は中栄養であり、タチモ、ノタヌキモ、クロモが見られる。画像の地表を覆う黄緑色の糸状のものはイトタヌキモ。

Fig.17 小河川河口部の止水域に生育するガガブタ。(兵庫県赤穂市・河口 2013.8/8)
河口部が灌漑のために堰き止められており、それにより生じた止水域の水面にガガブタが群生していた。
生育規模は2kmほどにもおよび、河川内にはクロモ、コカナダモ、マツモ、ホザキノフサモ、ヒシが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 ミツガシワ科アサザ属. 『日本水草図鑑』 140〜143. 文一統合出版
大滝末男, 1980 ガガブタ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 34,35. 北隆館
佐竹義輔, 1981. ミツガシワ科アサザ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.36. pl.31. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 リンドウ科アサザ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.213. pl.65. 
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ガガブタ. 『六甲山地の植物誌』 176. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ガガブタ. 『近畿地方植物誌』 51. 大阪自然史センター
浜島繁隆. 1982. ガガブタの浮葉にみられる葉柄の伸張. 水草研究会会報 7:2〜3.
浜島繁隆. 1982. ため池の渇水期が水草相に与える影響. 水草研究会会報 8:1〜3.
浜島繁隆. 1983. ガガブタの葉柄の伸張とエチレン. 水草研究会会報 11:13〜14.
浜島繁隆. 1985. ガガブタの観察 おもに生活環と形態. 水草研究会会報 22:2〜4.
布施静香・角野康郎 2005. ガガブタ. 兵庫県産維管束植物6 ミツガシワ科. 人と自然15:112. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.Mar.2014

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