ヒトツバ Pyrrosia lingua  (Thunb.) Farw.
  里山・岩上・着生シダ ウラボシ科 ヒトツバ属
Fig.1 (兵庫県篠山市・社寺の石垣 2011.4/28)

Fig.2 (兵庫県篠山市・社寺林の林床 2013.2/22)

低地〜山地の乾いた岩上、樹上などに着生する常緑性シダ。
根茎は針金状で太く、横走し、茶褐色〜赤褐色の鱗片を密生し、まばらに葉を出す。
葉は単葉で、長さ15〜40cm、幅2〜6cm、葉柄は葉身と同長または長い。
葉身は厚く硬い革質で、広披針形〜卵状披針形、鋭頭、全縁ときに波状縁、基部はくさび形。
表面は深緑色、若い葉では基部近くに早落性で淡褐色の星状毛があり、裏面には宿存する褐色〜白色の星状毛を密布する。
中脈は裏面に隆起し、支脈は羽状に斜めに分岐し、平行して葉の縁に達し、その間には網状脈がある。
葉には栄養葉と胞子葉の2型があり、胞子葉はいちじるしく細くなる。
胞子嚢群(ソーラス)は点状で裏面に混みあってつき、全面を被う。
近縁種 : イワオモダカ

■分布:本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、インドネシア、タイ、ヒマラヤ
■生育環境:低地から山地の乾いた岩上、樹上など。

Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  根茎は針金状で太く、横走する。葉は根茎からまばらに生じて、2型あり、胞子葉は細く長い。

Fig.4 根茎。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  根茎は岩上を横走し、下面からはひげ根を、上面や側面からは葉を生じ、表面には鱗片が密生する。

Fig.5 根茎の先端。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  根茎の先端からは葉は出ず、円頭で少しふくらみ、先に伸びる。

Fig.6 栄養葉。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  葉身は厚く硬い革質で、広披針形〜卵状披針形、鋭頭、全縁ときに波状縁、基部はくさび形。
  表面は深緑色、鈍い光沢があり、裏面には宿存する淡褐色の星状毛を密布し、白味を帯びる。

Fig.7 若い栄養葉の表面基部に見られる星状毛。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  表面の星状毛は脱落しやすく、裏面の星状毛より、毛状部分が長い。葉柄にも同様な星状毛が見られる。

Fig.8 栄養葉の裏面の星状毛。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  裏面には星状毛が密布し、表面のものよりも毛状部分は短く、褐色と白色のものが混じる。

Fig.9 胞子葉と胞子嚢群。(兵庫県篠山市・岩壁 2010.7/18)
  細い葉の裏面全体に点状の赤褐色の胞子嚢群(ソーラス)が混みあってつく。

生育環境と生態
Fig.10 岩壁の上部に着生するヒトツバ。(兵庫県丹波市・岩壁 2009.5/10)
チャートからなる岩壁上部の日当たり良い乾いた部分に群生していた。
岩壁にはヒトツバとともにハナゴケの仲間、マメヅタ、トダシバ、オオスギゴケ、低木状のアカマツ、ナツハゼ、ヒカゲツツジなどが見られた。

Fig.11 急峻な尾根の岩上に着生するヒトツバ。(兵庫県篠山市・岩上 2011.2/26)
チャートの露岩が点在する急峻な尾根上のシカの食害を受けにくい場所にヒトツバが見られた。岩上に見られる常緑樹は全てヒカゲツツジ。
岩塊北面の壁面にはシシラン、カミガモシダ、ヌリトラノオ、コケシノブ、コウヤコケシノブなどの着生シダが生育していた。

Fig.12 社寺の石垣に生育するヒトツバ。(兵庫県篠山市・石垣 2011.4/28)
丹波地方ではヒトツバが多く、岩上のほか社寺の石垣、乾いた低山の尾根などいたるところで見られる。
ここでは社寺の古い石垣にマメヅタやイヌシダ、ヤブソテツ、ナンゴクナライシダなどとともに生育している。

Fig.13 社寺裏山の岩上に密生するヒトツバ。(兵庫県篠山市・岩上 2011.4/29)
ヒトツバは山中の岩壁のものはシカの食害によって減少しているが、里地内にある独立した小山では、食害に遭わないため密生している。
ここではヒトツバのほか、大きなイタビカズラの株が岩上から垂れ下がり、沢山の花(果実)をつけていた。


最終更新日:6th.Mar.2014

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