タチクラマゴケ Selaginella nipponica  Franch. et Sav.
  里山・草地・岩上のシダ 兵庫県RDB Bランク種 イワヒバ科 イワヒバ属
Fig.1 (兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)

低地〜山地の草地や岩上などに生育する小型のコケ状の常緑性シダ。
主茎は匍匐して長さ5〜20cm、しばしばマット状になり、ところどころに担根体とその先に根を出す。
草体は黄緑色でやわらかく、主茎と側枝はあまりはっきり分化していない。
葉ははやや密について、浅緑色〜緑色、栄養葉は2形、中肋ははっきりしない。
腹葉は開出してつき、不整の広卵形で鋭頭、細鋸歯縁、長さ2〜2.5mm。背葉は狭卵形でやや不整、鋭尖頭、細鋸歯縁、長さ1mm。
直立または斜上する側枝は1〜2回叉状に分枝して高さ5〜10cmに達し、まばらについた葉は上方でしだいに小さく同形となり、
その葉腋に胞子をつけるため、胞子嚢穂は見かけ上区別が難しいことがある。胞子葉は狭卵形、左右相称に近く、鋸歯縁。
胞子嚢には大胞子嚢と小胞子嚢とがある。染色体数は2n=18。

エゾノヒメクラマゴケS. helvetica)は腹葉が卵形または卵状楕円形、鈍頭、長さ約1.5mm。北海道、本州の亜高山帯。
クラマゴケS. remotifolia)は茎は地表を這い、胞子嚢穂が枝先に頂生し、背葉は鋸歯縁で鋭尖頭。
アマミクラマゴケS. limbata)は茎は地表を這い、長さ3(〜10)mmの胞子嚢穂が枝先に頂生し、背葉は全縁で白い膜がある。奄美大島。
コンテリクラマゴケS. uncinata)は茎は地表を這い、長さ1cmの胞子嚢穂が枝先に頂生し、背葉は全縁で白い膜があり、表面に紺色の光沢がある。
コケカタヒバS. leptophylla)は胞子葉が2形、背葉基部は円形で左右相称、腹葉には縁毛がある。八重山列島。
ヒメムカデクラマゴケS. lutchuensis)は胞子葉が2形、背葉基部は左右相称とならず、胞子嚢穂が頂生し、葉先は針状で長い縁毛がある。鹿児島以南。
ヒメクラマゴケS. heterostachys)は胞子葉が2形、背葉基部は左右相称とならず、胞子嚢穂が直立して頂生し、葉先は鈍頭〜鋭頭、細鋸歯縁、匍匐茎の幅3〜5mm。
ヒバゴケS. boninensis)はヒメクラマゴケに似るが、胞子嚢穂は斜上し、匍匐茎の幅6mm。小笠原。
ヤマクラマゴケS. shensiensis)は胞子葉が2形、背葉基部は左右相称とならず、胞子葉のある枝は直立するが、胞子嚢穂は他の部分と顕著な差はない。関東。
近縁種 : エゾノヒメクラマゴケ、 クラマゴケ、 ヒメクラマゴケ、 コンテリクラマゴケ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、インドシナ半島
■生育環境:低地〜山地の草地や岩上など。

Fig.2 全草標本。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  草体は黄緑色でやわらかく、主茎と側枝はあまりはっきり分化していない。

Fig.3 担根体と根。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  主茎のところどころから担根体を出し、その先から根を出す。

Fig.4 主茎。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  葉ははやや密について、浅緑色〜緑色、栄養葉は2形、中肋ははっきりしない。
  腹葉は側面に開出してつき、不整の広卵形で鋭頭、細鋸歯縁、長さ2〜2.5mm。
  背葉は狭卵形でやや不整、鋭尖頭、細鋸歯縁、長さ1mm。

Fig.5 立ち上がる側枝。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  直立または斜上する側枝は1〜2回叉状に分枝して高さ5〜10cmに達する。
  葉は下方ではまばらにつき栄養葉は2形的だが、上方でしだいに小さく密について同形となる。
  胞子嚢穂は側枝から連続し、区別がつきがたい。

Fig.6 胞子嚢穂。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  側枝に連続する胞子嚢穂には狭卵形の胞子葉が密につき、その葉腋に胞子嚢がつく。
  胞子嚢の下方ではほとんどが大胞子嚢がつき、上方ではほとんど小胞子嚢となる。
  画像中の上部についた小さく褐色〜黒褐色のものは小胞子嚢で、下方のより大きく黄色〜黄緑色のものが大胞子嚢。

Fig.7 大胞子嚢。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  大胞子嚢は鈍3稜があって扁平で、幅約0.6mm、中に数個(3個であることが多い)の大胞子が入っている。

Fig.8 大胞子。1目盛=26μ。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  大胞子は球形、黄白色で、表面には突起があり、大きさ約330μ。

Fig.9 小胞子嚢。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  小胞子嚢は卵形で、長さ約0.3mm、中には非常に多くの小胞子が入っている。
  下方の小胞子嚢は裂開して、小胞子が見えている。

Fig.10 小胞子。1目盛=1.6μ。(兵庫県丹波市・社寺の石垣 2015.6/4)
  小胞子は丸味を帯びた4面体、橙黄色、表面は平滑に見え、大きさ25〜27μ。

Fig.11 冬期に紅変した個体。(兵庫県丹波市・草地斜面 2014.2/21)
  冬期には立ち上がる側枝は枯死する。日当たり良い場所に生育するものは、冬期に紅変することが多い。

Fig.12 初夏になると側枝が立ち上がりはじめる。(兵庫県播磨地方・林道脇 2015.5/6)

Fig.13 紅変したまま胞子嚢穂を出した集団。(京都府山城地方・渓流畔の岩上 2015.6/4)

生育環境と生態
Fig.14 社寺参道脇の土手に群生するタチクラマゴケ。(兵庫県丹波市・社寺の草地土手 2015.6/4)
刈り込まれたネザサが優占する社寺参道脇の土手にタチクラマゴケの群生が見られた。
周辺にはタチツボスミレ、オトギリソウ、ドクダミ、トウバナ、コモチマンネングサ、コナスビ、コハコベ、ヒメヨツバムグラ、トボシガラ、カニツリグサ、
コメヒシバ、ノゲヌカスゲ、メアオスゲ、カニクサなどが生育している。
タチクラマゴケはこのような土手や棚田の畦など、草刈りなどによって人為的に維持された草丈の低い場所に見られることが多い。

Fig.15 渓流畔の岩上に生育するタチクラマゴケ。(京都府山城地方・渓流畔の岩上 2015.6/4)
河川中流域の渓畔の岩上にタチクラマゴケの小さなマットが点在していた。タチクラマゴケは岩上の蘚類が覆う部分に生育している。
岩上で表土は薄いため、高茎草本が生育することができず、タチクラマゴケの本来の生育場所かと思わせる環境である。
他にはコモチマンネングサやヤマヌカボなど、表土の少ない場所でも生育できるような草本が見られ、大きな草本は岩の割れ目に沿って見られる。
ここでは周辺の林床にはクラマゴケがマットを形成し、明るい林縁部から岩上にかけてはタチクラマゴケが生育していた。


最終更新日:18th.July.2015

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